「映画史上最も記憶に残る殺人シーン」の秘密に迫る!|『サイコ』に学ぶテクニック
名作映画を研究して、創作に活かそう!
本記事では、「サイコ」に【「記憶に残る名シーン」の描き方】を学びます。
※「サイコ」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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なぜこれが、「映画史上最も記憶に残る殺人シーン」なのか?
「サイコ」で最も有名なシーンと言えば……そう!「シャワーを浴びていたマリオンが、突然何者かにめった刺しにされ、息絶えるシーン」です。
※マリオン:若い女性。一見すると主人公に見えるのだが、じつは……(詳細後述)。
「映画史上最も記憶に残る殺人シーン」と言っても過言ではないでしょう。
では、なぜこのシャワーシーンが人びとの記憶に残るのか?様々な理由が考えられますが……本記事では、特に重要と思われる「3つの理由」をご説明します。
【理由①】主人公だと思っていたキャラが突然死ぬから
シャワーシーンが多くの鑑賞者の記憶に残る1つ目の理由は、「それまで主人公だと思っていたキャラ(マリオン)が、突然死ぬから」です。
というのも……映画開始から47分間、カメラは一貫してマリオンを追い続けます。その上、マリオンは同情に値する女性として描かれている。ゆえに鑑賞者はマリオンに心を寄せ、「どうにか幸せになってくれればいいのだが」と彼女の行く末を案じる。ところが……ええっ!きみ、死んじゃうの!?
鑑賞者はびっくり仰天です。そりゃ記憶に残るに決まっている。
ちなみにこのシーンについて、本作の監督ヒッチコックは以下のように発言しています。
(「原作のどこに惹かれて映画化したのか?」と問われて)ただ一ヵ所、シャワーを浴びていた女が突然惨殺されるというその唐突さだ。これだけで映画化に踏み切った。まったく強烈で、思いがけない、だしぬけの、すごいショックだからね。
※ヒッチコック、トリュフォー「定本 映画術」より引用
つまりヒッチコックは、「シャワーシーンで、鑑賞者をびっくり仰天させたくて本作を撮った」と言うのです。
そして、それは成功しました。何しろ映画公開から半世紀以上経ったいまも、私たち鑑賞者は驚かされ続けているのですから(「サイコ」は1960年に公開されました)。
【理由②】超高速でカットが切り替わっていくから
シャワーシーンが多くの鑑賞者の記憶に残る2つ目の理由は……ズバリ、「超高速でカットが切り替わっていくから」です。
まずは下図をご覧ください。シャワーシーンは、このように描かれています。
つまりシャワーシーンには、「『マリオンの上半身』や『顔』、『口』、『殺人犯の上半身』などのカットを、超高速で切り替える」という編集が施されているのです。
※「映画表現の教科書 ─名シーンに学ぶ決定的テクニック100」によると、45秒の間に77回カットが切り替わっているそうです。
そして……尋常ではないスピードでカットが切り替わっていくわけですからね。画面には非日常感が漂う。鑑賞者は直感的に理解するでしょう「あっ、これヤバいヤツだ」と。
またあまりにもハイスピードで切り替わっていくので、理解が追いつかず、何が映っているのかわからぬカットもあるのですが……それもまたよし!「何が映っているのかわからないという『理解できなさ』」が、鑑賞者にさらなる不安・緊張をもたらします。
ちなみに……本作には「ナイフが、マリオンの皮膚を切り裂く」「マリオンの体から血が噴き出す」といった直接的な描写は一切登場しません。さらに入浴シーンにも関わらず、マリオンの乳房や陰部が映ることもない。
しかし「なんだか物足りないなぁ」「インパクトを欠くなぁ」という印象は皆無です。「超高速でカットを切り替える」という編集には、それだけパワーがあるということでしょう。
【理由③】直後に「長回し」のシーンが入るから
シャワーシーンが多くの鑑賞者の記憶に残る3つ目の理由は、上述の「理由②」と関連しています。
いま申し上げた通り、シャワーシーンには「たくさんのカットを高速で切り替える」という編集が施されています。
では、シャワーシーンの次のシーンはどうか?どのようなテクニックが用いられているのか?
次のシーンには、「長回し」が使われています。カメラは途中でカットを挟むことなく、「マリオンの死を知り、動揺するノーマン」や「証拠隠滅を図るノーマン」を延々と追いかける。
※ノーマン:若い男性。本作の本当の主人公。
「高速でカットが切り替わるシャワーシーン」の直後に「長回し」。まさに「動と静」。じつにメリハリが利いており、ゆえに記憶に残るというわけです。
まとめ
以上、「シャワーシーンが人びとの記憶に残る理由」をご説明してきました。
【1】主人公だと思っていたキャラが突然死ぬから
【2】超高速でカットが切り替わっていくから
【3】直後に「長回し」のシーンが入るから
この3つが合わさることで、強烈なインパクトが生まれる。そしてその結果、人びとの記憶に焼きつく……というわけです。
みなさんも、この伝説のシャワーシーンを上回る「記憶に残る名シーン」を目指してみてくださいねー!!
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