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「一瞬たりとも飽きさせないぜ!」という制作者の執念すら感じられる傑作シーンの研究!!|『ショーシャンクの空に』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「ショーシャンクの空に」に【「鑑賞者・読者を一瞬たりとも飽きさせないシーン」の描き方】を学びます。

※「ショーシャンクの空に」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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「屋根を修理するシーン」を分析しよう!


本記事で分析するのは、「アンディが、レッドらと共に工場の屋根を修理するシーン」。映画開始からおよそ34分経ったところで描かれる3分半ほどの場面です。


<「屋根を修理するシーン」までのあらすじ>

主人公アンディは、裁判で終身刑(冤罪)を宣せられ、ショーシャンク刑務所に送られます。そんな彼を待ち受けていたのは、「理不尽で暴力的な刑務官」と、「アンディを殴り、レイプする不良囚人たち」。そう、そこは地獄だった!

アンディは必死に耐え、堪える。しかし1年、2年と経ち、彼のメンタルは限界を迎えようとしていました。もしかすると彼は自殺してしまうのではないか!?

鑑賞者がそんな不安を抱く中、「屋根を修理するシーン」がやってきます……。


以下、「屋根を修理するシーン」を詳しくご紹介しつつ、そこで使われているテクニックをご説明します。


屋根を修理するシーン①


春。晴天のある日。刑務官が監視する中、アンディら囚人が屋根の修理作業に従事しています。

主任刑務官は、他の刑務官に向かって「兄が死に、遺産を相続することになった。しかし莫大な税金がかかる。まったく政府ってヤツは!」と愚痴をこぼしている。

囚人らは作業をしながら、聞くともなしに主任刑務官の話を聞いています。そして「ケッ、かわいそうに」「哀れなもんだぜ」などと囁き、密かに笑い合う。

ところがふと見ると……嗚呼、なんてこった!アンディだけは手を止め、主任刑務官の話にじっと耳を傾けているではないか!


……さて、まずはここ。鑑賞者が「うっ!」と息を詰まらせる場面です。

なぜ息を詰まらせるのでしょうか?ポイントは以下の2点。

第1に、このシーンにたどり着いた時には、多くの鑑賞者はアンディに好意を抱いています。そして「何とか幸せになってくれるといいんだけど……」と彼の行く末を案じている(鑑賞者がアンディに肩入れする理由は、こちらの記事に整理してあります。ぜひご参照ください)。

そして第2に、アンディが収監されて以来、刑務官(特に主任刑務官)の恐ろしさは繰り返し描写されています。ゆえに鑑賞者は、「刑務官は平気で囚人を殴る。それどころか、殺すことすら厭わない」ということを十分に理解しています。

刑務官は、作業をサボる囚人を容赦なく罰することでしょう。好意を抱いているキャラ(アンディ)がいつボコボコにされるとも知れない!……鑑賞者が、固唾を飲んで画面を見つめるのも無理ないでしょう。


鑑賞者がハラハラドキドキしていると……おー、よかった!

先輩囚人レッドが、アンディの手が止まっていることに気づく。そして慌てて注意する「おい、手を止めるなよ!」。アンディはすぐに作業に戻りました。

鑑賞者はホッと胸を撫で下ろします。

が、それも束の間!アンディはすぐまた手を止めてしまう。それどころか……彼は主任刑務官に向かってつかつかと歩き出した。

レッドら囚人が仰天し、真っ青になる「おいおい!」「正気かよ!?」。


鑑賞者も、レッドらと同じく仰天することでしょう「ええっ!?アッ、アッ、アンディさん!?どうしちゃったの!」。……つまりこの場面では、「レッドら囚人 = 鑑賞者の代弁者」となっているのです。


レッドら囚人と鑑賞者がハラハラドキドキ見つめる中、アンディは主任刑務官に近づいていきます。刑務官らがアンディの異変に気づく。そして銃口をアンディに向ける。

辺りに緊張が走ります。鑑賞者の口内はもうカラカラです。


一瞬の沈黙の後、アンディが主任刑務官に問いかけました「奥さんを信じていますか?」。……主任刑務官は無言で警棒を手に取る。

主任刑務官は、囚人を虫けら同然に扱っていますからね。アンディの言葉の意味を考えることもなく、「作業をサボるとはいい度胸だ。ボコボコにしてやるぜ!」ということで警棒を手にしたのでしょう。


しかし、アンディはあくまでも冷静です「奥さんに裏切られる心配はありませんか?」。

訳のわからぬことを言うアンディに対して、主任刑務官がぶちキレる「貴様は事故でくたばるがいい!」。主任刑務官はアンディの上着を掴み、屋上から突き落とそうとします。

鑑賞者のハラハラドキドキは最高潮に達する「えっ!まさか殺されちゃうの!?」。


屋根を修理するシーン②


アンディは突き落とされそうになりながらも、必死に話し続けます「3万5000ドルを奥さんに!」。

さすがの主任刑務官も、アンディの話に興味を持った様子。手が止まる。そして問うた「……お前は何を言っているんだ?」。

アンディ「3万5000ドルを……」

主任刑務官「3万5000ドルを?」

アンディ「ぜっ、全額、奥さんに……」

主任刑務官「全額、家内に?」

アンディ「そっ、そうです」

主任刑務官「……何の話をしているんだ?」


つい先ほどまで、鑑賞者は「アンディがひどい目に遭うのではないか?」「まさか殺されるのでは!?」とハラハラドキドキしていました。

しかしいまや状況は一変。鑑賞者の脳裏には、多くのクエスチョン・マークが浮かんでいます「アンディは何の話をしているんだ……?」。つまりこの場面では、「主任刑務官 = 鑑賞者の代弁者」になっているのです。


屋根を修理するシーン③


アンディは「遺産を奥さんに贈与すれば、課税を免れることができる」と説明します。

多くの鑑賞者は、ここで「そうか……そうだった!」と膝を打つことでしょう。


なぜ膝を打つのか?ご説明しましょう。

じつはアンディがショーシャンク刑務所に収監される直前(映画開始から10分経過したところ)、レッドの声でナレーションが入るのです「刑務所の外では、アンディは大銀行の副頭取だったそうだ。大した若造だ」。

そう、彼はエリート銀行家だったのです。


しかし、このナレーションはごく短いもの。その上、鑑賞者の関心は「冤罪なのに終身刑とは!アンディはじつにかわいそうなヤツだ!」、「ショーシャンク刑務所ってのは、どんな場所だろう?」というところに向いている。

したがって多くの鑑賞者は、「アンディ = 元エリート銀行家」ということをすっかり忘れているんですよね。


しかし「遺産を奥さんに贈与すれば、課税を免れることができる」というアンディの話を聞く内に、「そうか……そうだった!彼はエリート銀行家だったんだ!」と思い出す。そして【理解】する「彼は経理に精通しているに違いないぞ!」。ゆえに膝を打つのです。


屋根を修理するシーン④


アンディが節税方法を説明します。

アンディ「非課税にできるんです」

主任刑務官「何だと!非課税だと!?」

アンディ「非課税です」

ところが主任刑務官は、アンディの言葉を信じません。主任刑務官曰く「囚人の指図なぞ受けん!」。上述の通り、彼は囚人を虫けら扱いしていますからね。「虫けらの話を信用できるか!」ということでしょう。

レッドら囚人は、2人のやり取りを息を飲んで見つめています。


アンディはさらに言葉を続けます「贈与の書類作成は面倒で、弁護士が必要です」。

主任刑務官が吐き捨てるように言う「あの金の亡者か!」。

アンディがうなずく「そうです。しかし、僕が代わりにやります。無料でご奉仕します」。


「無料でご奉仕」という言葉を聞いた途端、主任刑務官の顔に「えっ……」という表情が浮かぶ。

主任刑務官「……」

アンディは、すかさず付け加えます「その代わり、仲間にビールをお願いします」。

主任刑務官は無言でアンディを見つめる。

アンディ「外で働いている時のビールは最高ですからね。まぁ、個人的な考えですが……」


主任刑務官が振り返る。レッドら囚人が、固唾を飲んで2人のやり取りを見つめています。

主任刑務官は、レッドらを怒鳴りつけました「おい、手を休めるな!」。レッドらが慌てて作業を再開する。

直後、主任刑務官は黙ってアンディを解放します……!


以上が「屋根を修理するシーン」の一部始終です。

そして次のシーンでは……レッドら囚人が、旨そうにビールを飲んでいる。傍には主任刑務官。彼はいつになく穏やかな声色で「冷たい内に飲めよ」なぞと言う。

つまり、直接的な描写はないものの、アンディは有言実行。主任刑務官の節税に貢献したようです。


分析①


それでは、「屋根を修理するシーン」で使用されているテクニックを確認していきましょう。


まず【シーン①】では、鑑賞者は【不安】に襲われます。

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「作業を中断して、主任刑務官の話に聞き入るアンディ」から始まり、「つかつかと主任刑務官に歩み寄るアンディ」、「銃口を突きつけられるアンディ」、「『奥さんを信じていますか?』と訳のわからぬことを言うアンディ」、そして「主任刑務官に殺されそうになるアンディ」……。


アンディに好意を抱き、かつまた刑務官(特に主任刑務官)の恐ろしさを十分に理解している鑑賞者は、「アンディはボコボコにされてしまうのではないか」という【不安】を覚え、ハラハラドキドキしながら画面を見つめることになります。


分析②


続いて【シーン②】。アンディが屋上から突き落とされそうになりながら、「3万5000ドルを奥さんに!」「ぜっ、全額、奥さんに……」と意味不明なことを口走ります。

かくして鑑賞者は【疑問】を抱くことになる。「アンディは何を言っているのだろう……?」と。

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ここでご注目いただきたいのは、【シーン①:不安】から【シーン②:疑問】への移行のタイミングです。これがじつに見事だと思うのです。

というのも……映画にしろマンガにしろ小説にしろ、物語には「主人公はこの先どうなってしまうのだろうという【不安】 = ハラハラドキドキ」が欠かせません。

【不安】があるからこそ、鑑賞者・読者は「先を知りたい!」「続きが気になる!」と物語についてきてくれるのです。

しかしその一方で、【不安】が大きすぎるのも問題です。ハラハラドキドキのシーンが延々と続くと、鑑賞者・読者は疲れてしまう。また、飽きてしまう人も出てくるはずです。つまり【不安】は、量とタイミングをしっかりコントロールする必要があるのです。


その点、【シーン①:不安】から【シーン②:疑問】への移行は完璧です!鑑賞者が十分に【不安】を味わったところで、逆に言えばこれ以上ハラハラドキドキが続くとダレてしまうというところで、アンディのセリフ「3万5000ドルを奥さんに!」が入り、【シーン②:疑問】にスイッチする。……この神がかったタイミング!


分析③


次いで【シーン③】。アンディの話を聞く内に、鑑賞者が「そうか、彼は銀行家だった!当然、経理の知識や技術を持っているはずだ!」という【理解】に至る場面です。

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ここでご注目いただきたいのは、【シーン②:疑問】から【シーン③:理解】への移行のタイミングです。

「主人公は何をしているのだろう?」「一体何が起きているのだろう?」といった【疑問】は、【不安】同様、物語にはなくてはならぬものです。

しかしこれまた、量とタイミングを間違えると逆効果。鑑賞者・読者をイラつかせることになります。「何が起きているのかさっぱりわからないよ。ハァ」「思わせぶりなシーンばかりでムカッとするなぁ!」という具合ですね。

その点、【シーン②:疑問】から【シーン③:理解】へのスイッチはバッチリです!【シーン②:疑問】が長すぎず、さりとて短すぎないため、鑑賞者はダレることがありません。


分析④


上述の通り、【シーン③】で、鑑賞者はアンディの行動を【理解】します。

……で、その後どうなるのか?

おそらく多くの鑑賞者は、「もしかすると!」と【期待】を抱くことでしょう。すなわち、「アンディは物語の主人公だ。いつまでも不遇のままとは考えづらい。映画開始以来ずっとひどい目に遭ってきたが、そろそろ彼の活躍が始まるのではないか?」。

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鑑賞者は、アンディに好意を抱いていますからね。無意識の内に、彼の活躍(逆襲)を心待ちにしている。アンディが「経理の知識・技術」という伝家の宝刀を抜いたことで、「おっ!いよいよか!」と【期待】が膨らむわけです。


そしてその【期待】は、実現します。「アンディの活躍により、囚人は久々のビールを味わう。主任刑務官もどこか優し気に見える。やったぜ、アンディ!」というわけです。


ところで……「自分の【期待】通りに進行する物語」というのは、見ていて面白いものなのでしょうか?

たぶん面白くないと思うんですよね。良質な物語とは、鑑賞者・読者の【期待】をいい意味で裏切り、「そういう展開か!」「こりゃ1本取られた!」と驚かせるものでしょう。


では、本シーンはどうか?

「アンディが、経理の知識・技術で活躍するのでは?」という【期待】は実現します。ところが、「なぁんだ。思った通りじゃん。安直なストーリーだなぁ」と失望する人はいないでしょう。


一体なぜでしょうか?答えは、「アンディと主任刑務官のやりとりが魅力的だから」です。

例えば、以下のやりとりをご覧ください。


<再掲_1>

アンディ「非課税にできるんです」

主任刑務官「何だと!非課税だと!?」

アンディ「非課税です」


<再掲_2>

アンディはさらに言葉を続けます「贈与の書類作成は面倒で、弁護士が必要です」。

主任刑務官が吐き捨てるように言う「あの金の亡者か!」。

アンディがうなずく「そうです。しかし、僕が代わりにやります。無料でご奉仕します」。


主任刑務官の反応にご注目ください。税金が非課税になると聞けば驚き、興味を示す。弁護士には「金の亡者か!」と悪態をつく。

人を殴り殺しても平然としている鬼の如き男が、税金や弁護士のことになると人間味のある反応を示す……これが妙におかしくて、またかわいらしく見えるのです。


それからもう1つ。

アンディの「その代わり、仲間にビールをお願いします」「外で働いている時のビールは最高ですからね。まぁ、個人的な考えですが……」というセリフも注目に値します。じつにスマートで、洗練されたセリフですよね!


……ご覧の通り、アンディと主任刑務官のやりとりは大変魅力的なものです。鑑賞者は思わずクスリと笑ったり、そのスマートさに感心してしまう。

ゆえにストーリーの展開が【期待】通りだとしても、飽きることなく見続けることができるのです。

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分析⑤(まとめ)


以上、「鑑賞者の気持ち」の変遷を見てきました。

鑑賞者は、たった3分半の間に【不安 → 疑問 → 理解 → 期待 → 笑い・感心】という「感情の揺れ」を経験することになります。まるでジェットコースターです。あくびをしている暇なぞありません。

「一瞬たりとも飽きさせないぜ!」という制作者の執念すら感じられるシーンと言えるでしょう。


本当にすごいシーンです!!


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(担当:三葉)

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