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オッサン、ぶちキレる!!|『スパイダーマン3』(2)

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テーマ発表!!


 前回に引き続き、映画「スパイダーマン3」をベースに新しい物語を妄想します。

※「スパイダーマン3」のストーリーなどについては、前回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 それではまいりましょう!

三葉 はい。

嘉村 「スパイダーマン3」は、憎しみに取りつかれた男が、憎しみのままにふるまうことの恐ろしさや虚しさに気づき、相手を許すに至る物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……さて!どんな物語にしましょうか?


案①


三葉 まずは、「スパイダーマン3」風の物語を作る時に注意すべきポイントを確認しておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上を踏まえて「案①」は……ズバリ!「『スパイダーマン3』 ~『痴漢冤罪』編」です。


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嘉村 痴漢冤罪!

三葉 ストーリーをご紹介しましょう。主人公は30代の男性。彼はウジウジした男です。

嘉村 ほぉ。

三葉 昔からそうなのです。彼は、親や教師から「はっきりしない子だ」「言いたいことがあるなら、ちゃんと口にしなさい」「男の子でしょ!ウジウジしないの!」と言われて育ちました。しかし彼らの説教虚しく……結局主人公はウジウジしたまま青春を送り、ウジウジしたまま社会人になり、ウジウジしたまま結婚し、ウジウジしたまま三十路を迎えようとしていた。

嘉村 ふーむ。

三葉 そんなウジウジ男の人生が、明るく楽しいはずもなく……彼は、うんざりするような毎日を送っていました。会社では、嫌味な上司にネチネチなじられる。家庭も上手くいっていない。妻が浮気している様子なのです。無論彼だってムッとしたり、イラッとしたりすることはある。しかし……上司をぶん殴ったり、妻を問い詰めたりする覇気もなければ勇気もありません。彼は淡々と無気力な毎日を送っていました。

嘉村 なるほど。

三葉 そんなある日のことです。うだるような真夏日の朝。主人公がいつものように通勤していると……彼はふいに手首を掴まれた。何事か!?彼の腕を掴んでいるのは、女子高生である。彼はギクッとする。女子高生がオッサンの腕を掴む理由といえば1つしかない。女子高生が叫んだ「ちっ、痴漢!」。

嘉村 あー……冤罪ですよね?

三葉 はい、冤罪ですね。主人公が叫ぶ「ちょっ、ちょっと!オレは何もしていませんよ!」。しかし、主人公の言い分に耳を貸す者はいません。主人公は女子高生に言う「きっ、きみは誤解している!私は何もしていないよ!なぁ、誤解だろ!?」。女子高生の視線が一瞬泳ぎ、彼女は俯いた。まさかコイツ……わざとか!?オレが困っているのを見て楽しんでいるのか、それとも後で示談金をふんだくろうという算段なのか。主人公は女子高生に詰め寄……ろうとした瞬間、乗客に取り押さえられた。嗚呼、日本人って素晴らしいな!正義感が強くて、勇気があって、日本人であることを誇りたくなるよ!……これが冤罪で、オレが捕まる側でなければの話だが。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公は乗客に引きずり降ろされ、駅員に引き渡されました。彼は必死に無罪を訴えるが、女子高生は無視。駅員も無視。駅ホームの乗客は白い眼を向けるばかり。彼は駅員室に連行される。彼は思う「間もなく警官がやってくるのだろう。そして逮捕される。あー、終わった。オレの人生は終わった。社会的な死だ……が、よく考えてみればオレの人生はもうとっくに終わっているのだった。昨日も今日も、そして明日も、上司はオレをバカにするだろう。妻は浮気をする。この世界はオレを必要としていない。そう、何も変わらない」……と考えている内に、彼はムカムカしてきた!「あー、ムカつく。畜生!社会的に死ぬんだったら、肉体的にも死んでやらぁ!ただしお前ら全員巻き添えだ!」。

嘉村 おっ!

三葉 主人公は隙を伺い、駅員を突き飛ばす。駅員がよろける。まずはお前だ、このクソ女!お前を殴ってやる!主人公は女子高生をキッと睨みつける。女子高生の顔が引きつる。主人公はパンチを放つ。……が、嗚呼、悲しきは運動不足!足がもたつき、パンチは大ハズレ。体勢を立て直し、改めて拳を握ろうとするが……あっ、これはマズイ。向こうの方から警官が走ってくるではないか!畜生!この女はいつか必ずぶちのめす!……が、いまは逃げの一手だ!彼は何かカッコいい捨て台詞を残そうと思うものの、何も思い浮かばず、まぁ何も言わずに立ち去るよりはいいだろうということで、我ながらテンプレ的だなぁと思いつつも、女子高生に向かって「覚えていろよ、コンチクショウ!」と叫ぶ。そして、スタコラ駆け出した。

嘉村 ほぉ。

三葉 主人公はどうにか警官の追跡を振り切ると、バスやタクシーを使って会社に向かいました。そして出社したばかりの上司を屋上に呼び出し、1発2発3発と殴りつけた!

嘉村 おー!

三葉 上司がひっくり返る。とはいえ、ヘナチョコのパンチです。大した威力はありません。上司が逃げることも反抗することもなくやられっぱなしなのは、ケガをしたせいではなく、パニックになっているからでしょう「まさか……まさかグズで、ノロマで、デクの棒で、クソで、マヌケで、アホで、バカなこいつに、オレが殴られているだと!?」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 一方、初めて人を殴った主人公も興奮状態です。彼は叫ぶ「よくもこれまでバカにしてくれたな!」「いつも言いたい放題言いやがって!」。

嘉村 なるほど。

三葉 さて、ここで「スパイダーマン3」のストーリー構造を復習しておきましょう。


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嘉村 えーと……ここまで、【1】→【2】→【3】と進んできたわけですね。

三葉 そうですね。「案①」の主人公の場合、痴漢冤罪事件に巻き込まれたことで堪忍袋の緒が切れた。そしてやけっぱちになり、【3】に至ったという次第ですね。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さて、続きです。上司を殴り飛ばした主人公は、荒い息をつきます。拳が痛い。しかし……おお!上司が怯えている!あのクソ上司がオレにビビッている!主人公は冷静さを取り戻す。そして次第に虚しくなってくる。いつもは偉そうな上司の頭頂部が禿げかけているのを見ると、何だか申し訳ない気すらしてくる。……って、いかんいかん!申し訳なくなんてない!これは天誅なのだ!主人公は足早に立ち去る。

嘉村 ほぉ。

三葉 続いて、彼は自宅へ向かいました。家の中の様子を覗くと……嗚呼、やはり!妻が間男している!

嘉村 あー……。

三葉 主人公は怒りに任せて飛び込み、浮気男を蹴とばした!クソ男が苦悶の表情を浮かべる。よし!われ奇襲に成功せり!続いて第2撃である。それ、やっちまえ!主人公は男の顔面を踏みつけようとする……が人様の顔を踏みつけるというのは予想以上に罪悪感があるものだ。彼は躊躇し、代わりに腹を踏んづける。男は「ぐえっ」と喉の奥で声を漏らし、気を失った。

嘉村 ふむふむ。

三葉 勝った!勝利である!上司に次いで、間男もやっつけてやった!ざまぁみろ!かくなる上は……主人公はジロリと妻を睨みつける。裏切者め!妻と言えども容赦しないぞ!お前も蹴とばしてやる!主人公はファイティングポーズをとる……と次の瞬間、異臭に気づいた。妻が失禁していました。

嘉村 うーむ……。

三葉 主人公の中の熱がスッと消える。改めて妻を見つめる。……我が妻ながらじつに醜い。顔は下品で、腹は弛んでいる。加えて失禁。まるでブタだ。ブタ女が夫のいぬ間に男を連れ込み、必死に腰を振っていたかと思うと……主人公はいたたまれなくなる。蹴とばす気が失せる。彼は溜息をつく。そして「離婚だ。数日帰らないから、準備をして出ていってくれ。……体には気をつけろよ」と言い残して、家を出た。

嘉村 ほぉ。

三葉 主人公は街を彷徨います。……虚しい。じつに虚しい。心にポッカリ穴が開いたようです。「人間ってのは哀れだなぁ」と思う。上司の顔。妻の顔。虚しい。すべてが虚しい。

嘉村 ふーむ……。

三葉 ここで、改めて「スパイダーマン3」のストーリー構造をご覧ください。


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嘉村 なるほど。物語はいま、【4】に至ったわけですね。

三葉 ええ、その通りです。つまり、次は【5】。すなわち……主人公が児童公園のベンチでボーっとしていると、「やっと見つけたぜ」という声。顔を上げると、そこにいたのは……例の間男でした。「テメェ、さっきはよくもやってくれたな!」。男が殴りかかる。

嘉村 ピンチ!

三葉 主人公は慌てて逃げ出します「なっ、何をするんだ!」。男が追いかける「ふざけるな!いきなり蹴とばしたのはテメェだろ!」。主人公は滑り台を駆け上り、駆け下りる「そりゃ、あんたが間男していたからだろ!人の妻に手を出したからだろ!」。男が続く「うるせぇ!浮気がなんだ!寝取られる方が悪いんだよ!」。主人公はジャングルジムに逃げ込む「そんな無茶な!おっ、おい!落ち着け!落ち着いてくれ!」。男が追いかけてくる「いいや、落ち着かないね!お前をボコボコにするまでは落ち着かない!」。主人公はターザンロープで逃げる。男もターザンロープで追いかける。このままでは埒が明かない。また、話してわかる男でもないようだ。主人公は腹を決める。彼はターザンロープで滑ってきた男に、自らの腕をぶつける。ラリアットである。腕は男の喉に命中した。男は、またもや「ぐえっ」と喉の奥で声を漏らし、気を失った。

嘉村 ほぉ。つまり……先ほどの図の【6】ですね。


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三葉 ええ、その通りです。いまや主人公は、憎しみのままにふるまうことの恐ろしさ、虚しさ、そして愚かさを痛感していました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は泡を吹いて倒れている男を見下ろして、思う「オレもコイツも救いようがないアホだなぁ」。彼は、警察に自首するつもりです。しかしその前に……もう1度あの女子高生に会いたい。といっても、最早復讐する気はありません。ただ単純に聞いてみたいのです。なぜ自分をハメたのか。彼女が本当のことを教えてくれるかどうかわかりませんが……でも訊いてみたいと思った。

嘉村 なるほど。

三葉 それでは、彼女に会うにはどうすればいいか。答えは簡単です。彼女の着ていた制服が、沿線の女子高のものだということはわかっている。つまり、学校の前で待ち伏せればいいのです。主人公は公園やコンビニで時間を潰し、始発電車に乗って学校に向かう。校門の傍に身を潜め、彼女を待つつもりです。おそらくは9時頃に登校してくるのでしょう。そこで声をかける。悲鳴を上げられ、そのまま逮捕されるリスクもありますが……まぁ、そうなったらそうなった時のことだ。

嘉村 ふむ。

三葉 ところが主人公が校門に着くと……嗚呼、予想外!あの女子高生が立っているではないか!

嘉村 ほぉ。

三葉 誰かと待ち合わせでしょうか?こんな早くから?一体なぜ?……よくわからぬ。しかし絶好のチャンスである。彼は声をかける。女子高生が目を見開く。やはり逃げる気か?……いや、違う。女子高生は勢いよく頭を下げ、謝罪の言葉を口にしました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 彼女曰く……昨日の朝、彼女はムシャクシャしていた。親!友だち!教師!進路!思春期の少女らしく、彼女は多くの悩みを抱えていた。ついでに猛暑。そして生理。イライラの限界突破である。そんな時、電車内でウジウジしている中年男を見かけた。彼女の嗜虐性が刺激される。そして……ふと思い出した「不良の○○さんが、『オッサンをハメるとストレス解消になる』って言ってたっけ」。かくして彼女はそのウジウジ男、つまり主人公ですが、その男の腕を掴み、叫んだ「ちっ、痴漢!」。

嘉村 なるほど。

三葉 女子高生は涙を流し、頭を下げた「謝りたかったけれど、あなたの居場所がわからなくて……。ここに来るかもしれないと思って、待っていたんです。本当にごめんなさい……」。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公は考える。言うべきこと、言わねばならぬことがたくさんあった気がする。しかし、いま彼が言いたいことは1つしかなかった。だから言った「……許すよ」。

嘉村 なるほど。

三葉 主人公は、「警察に行って事情を説明しておいてほしい。あとからオレも合流する」と伝え、1人電車に乗りました。彼には、最後にもう1つやるべきことがあった。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は昼頃まで時間を潰し、面会時間になると同時に病院に入った。ベッドで横になっているのは……彼の上司です。主人公は深々と頭を下げ、謝罪する「殴ったことを心からお詫びします。本当に申し訳ありませんでした。どんな罰でも受ける所存です」。短い沈黙の後、上司が口を開いた「……ビビらせるなよ。まだ殴り足りないのかと思ったよ」「そんな……」「口の中が切れている。喋ると痛いんだ。だから手短に言う。……オレこそすまなかった。これまでの……その……色々とすまなかった。オレはどうもいい上司ではなかったようだ」「……」「警察には連絡していない。病院や会社には、階段から転げ落ちてケガをしたと言ってある。大したケガではないが、大事をとって3日ほど会社を休むつもりだ。その間、お前がオレの代理だ」「えっ」「オレを殴った時の根性があれば、何とでもなるだろ?」。……というわけで、主人公は女子高生を許し、そして上司に許されたのでした。


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三葉 「スパイダーマン3」にしろ「案①」にしろ、「憎しみを捨て、相手を許すことが大切」というわけですね。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『スパイダーマン3』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


続きはこちら!!

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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