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鑑賞者が思わず<下世話な妄想>を膨らませてしまう展開や演出をぶちこむ!!|【第10局:初心者】「咲-Saki-」に学ぶ

※引き続き、アニメ「咲-Saki-」を分析します。本記事で取り上げるのは第10話。第9話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!


分析対象


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あらすじ


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分析メモ


■1:【鑑賞者が思わず<下世話な妄想>を膨らませてしまう展開や演出】をぶちこむ

<1>

まずは、【咲と和が控室を出る → 仮眠室で仮眠を取る】というシーンに注目しよう。


そもそも、2人が仮眠室へ向かったのはなぜか?

作中では、

・理由1:和が寝不足だったから

理由2:2人の出番はまだまだ先。時間に余裕があったから

理由3:優希のために2人は控室から出ていく必要があったから

……と説明されている。


だがしかし、多くの鑑賞者はこんな下世話な妄想を膨らませたに違いない「本当は、和は咲と2人きりになりたかったんじゃないの?(笑)」「咲も満更でもないんじゃないの?(笑)」。


<2>

2人が下心を持っていることを示唆する描写はない。つまり、これは冗談半分の<下世話な妄想>だ。


では、なぜ私たち鑑賞者はこうした下世話な妄想を膨らませることができるのか?


それは以下のような展開や演出ゆえだろう。

・例1:咲は、眠いとは言っていない。それなのに、なぜか咲も仮眠を取ることになる → 鑑賞者の妄想「和が咲を誘ったのか?(笑)」「咲には下心があるのでは?(笑)」

・例2:仮眠室で2人きりになり、和が顔を赤らめる → 鑑賞者の妄想「やっぱり下心があるに違いないぞ(笑)」

・例3:布団に入る際、2人はスカートを脱ぐ → 鑑賞者の妄想「やっぱりね(笑)」

・例4:2人は手を繋いで眠る → 鑑賞者の妄想「ほら、やっぱり(笑)」


<3>

こうした展開や演出があるからこそ、私たちは妄想を膨らませ得るのだ。そしてどんどん盛り上がる。SNSでも話題になる。


つまり……そう!物語を盛り上げるには、【鑑賞者が思わず<下世話な妄想>を膨らませてしまう展開や演出】をぶちこむのが有効なのだ(あなたの作品にはぶちこまれているだろうか?)。

ただし、<2人は下心を持っています>と明言してしまうと、むしろ鑑賞者の興味を削ぐ可能性が高い。あくまでも仄めかす程度にとどめるのがよさそうだ。


■2:【サブキャラの戦いをじっくり描くと、主役の出番が減ってしまう】というジレンマをいかに乗り越えるか?

<1>

多くのスポーツもの、バトルものはジレンマを抱えている

すなわち、【サブキャラの戦いをじっくり描きたい → しかしそうなると必然的に主役の出番が減る主役の出番が減ると、物語は座りが悪くなる(何しろたいていの読者・鑑賞者は主役が大好きで、主役を通して物語に触れているのだから)】というジレンマである。


<2>

実際のところ、前話はこのジレンマにハマりかけていたように思う。


前話では、サブキャラ(優希、純、美穂子ら)の奮闘がじっくり描かれた。その結果として、咲や和の出番はほとんどなかった。

前話は大変に面白かったものの……もしもこの先も咲や和がほとんど登場せず、延々とサブキャラたち(まこ、久 etc.)の戦いばかりが描かれるようでは、多くの鑑賞者が不満を抱いたのではないかと思う。「えー!また咲の出番がないじゃん!もっと咲を出してよ!」「和はどこに行った?俺は和が好きで見ているのに!」なんて風に。


<3>

はて、このジレンマはどうすれば乗り越えられるのか?

多くのスポーツものやバトルものでは、「主役を解説役・リアクション役に据える」というテクニックが採用されている。また、「解説役が主役に説明するシーンをたくさん盛り込む」という手もある。


これらのテクニックを本作に当てはめれば、

・例1:咲や和が試合を観戦し、「優希は○○を狙っているようね!」などと会話するシーンをたくさん描く

・例2:2人が試合を観戦し、「まさか××なの!?」などとリアクションを取るシーンをたくさん描く

・例3:久やまこが「優希は□□を狙っているようだ」などと、2人に説明するシーンをたくさん描く

……ということになる。


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ところが本話では、こうしたテクニックは採用されていない!


本話では……そう!咲と和は仮眠室に行くのである!仮眠室で2人きり!赤面!そして手を繋いで眠る!

制作者目線で言えば、【多少なりとも咲と和を登場させたい → よし!物語の本筋とは別に、2人が仮眠を取るシーンを盛り込もう!百合百合なベッドシーンだ!】というわけだ。


これ、「テニプリ」でいえば【リョーマと桃が、手塚の試合中に2人揃って仮眠を取りに行く】ようなものだ。あるいは「黒バス」でいえば【黒子と火神が、桐皇学園の試合中に2人揃って仮眠を取りに行く】ようなものだ。


【サブキャラの戦いをじっくり描くと、主役の出番が減ってしまう】というジレンマに対するユニークな解決策である。


■3:敵役も使い捨てない

<1>

続いて、龍門渕の純に注目したい。


純は、前話では<優希の前に立ちはだかる障害/美穂子に敗北する噛ませ犬>、つまりは敵役として描かれていた

これはストーリーの都合上仕方のないことだが……しかし、ただの敵役で終わってしまっては面白くない。


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その点、本作は素晴らしい。

試合後、控室に戻った純は笑顔になって「楽しかった。またあいつらと打ちたいね」と言うのである。なんとまぁ爽やかな!じつにカッコいいではないか!

敵役だからといって使い捨てにするのではなく、きっちり見せ場を作る。こういうところが本作の魅力だよなぁと思う。


■4:衣は天才で尊大で、そしてガキンチョ

衣は前話の終盤で初めて口を開いた。彼女は尊大で、すべてを見下すような口をきく。例えば「匂うね、この会場。衣が食らう生贄たちの匂いだ!」なんて具合である。

本話でも引き続き王の如くふるまう衣だが……思わぬところに天敵がいた。そう、藤田プロだ。

衣は藤田プロの前ではただのガキンチョと化し、半べそをかく。


この【特殊な才能を持ち、態度は尊大。ところが中身はガキンチョで、特定の人の前でのみそれが露呈する】というギャップがじつにいい(前者だけではただの痛いキャラですからね……)。

やがて描かれるであろう咲との戦いが楽しみだ。


■5:様々な布石

本話は、【次話以降に向けて様々な布石が打たれたエピソード】と言えるだろう。

代表的なものを列挙してみよう。

・布石1:和のぬいぐるみが無断で持ち出される(ぬいぐるみは無事戻ってくるのだろうか?)

・布石2:一が手錠をかける(なぜ手錠をかけるのだろうか?彼女の言う「過ち」とは何か?)

・布石3:美穂子が久を恐れる(久の実力はどの程度のものか?美穂子は何を恐れているのか?なお、久が麻雀を打つシーンはこれまで1度もちゃんと描かれていない。つまり彼女の実力や能力はまだ明かされていない)

・布石4:3年前、久は突然姿を消したらしい(何があったのだろう?)



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(担当:三葉)

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