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「社会のゴミ」が、別の「社会のゴミ」を道連れにして死ぬなんて最高のハッピーエンドだよね!!|『シン・シティ』(7)

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テーマ発表!!


 前回に引き続き、映画「シン・シティ」に登場する「イエロー バスタード」をベースに新しい物語を妄想します。


※【参考】「シン・シティ」の作品概要などはこちら


妄想開始!


嘉村 それではまいりましょう!

三葉 はい。「シン・シティ」は、3つの独立した物語が組み合わさったオムニバス作品です。

嘉村 ええ。

三葉 今回は、3つの物語の内の1つ「イエロー バスタード」のストーリー構造を利用して、新しい物語をアレコレ考えてみましょう!

嘉村 承知しました。

三葉 まずは、イエロー バスタード」の概要を振り返ります。


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三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。


案①


三葉 さて、以上を踏まえて「『イエロー バスタード』をリスペクトした物語案①」ですが……。

嘉村 はい。

三葉 ズバリ!「オレは誰かのために死にたい! ~『引きニート』編」です。


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嘉村 ほぉ!

三葉 まずは、イエロー バスタード」と比較してみましょう。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。主人公は30代後半の男性。そして彼は引きこもりでニート……すなわち「引きニート」だった!

嘉村 ふむ。

三葉 幼い頃から人と接するのが苦手で、友だちもほとんどいなかった。幸いにも殴る蹴るのいじめを受けた経験はないが……高校2年生の時に、インフルエンザで1週間ほど学校を休んだのをきっかけに不登校が始まり、そして引きこもりになった。高校は中退し、そのままニート生活へ。

嘉村 ということは……ニート歴もなかなかのものですね?

三葉 ええ、その通りです。彼は戦慄した!指折り数えれば……数えなくても随分前からわかっていたことではありますが……彼は今年37歳!ニート歴20周年である!節目の年だ!じつにめでたい!……いや、ちっともめでたくはない。彼はもう死にたい。

嘉村 ほぉ……。

三葉 還暦過ぎの両親とは、何年も言葉を交わしていません。両親に対して、「お前らが悪いんだ!お前らが、もっとちゃんと育ててくれれば!」だの、「なぜオレを産んだ!産んでくれなんて頼んだ覚えはないぞ!」だのと、八つ当たりめいた怒りを感じる時期はとうに過ぎている。いまはもう、ただただ申し訳ない。消えてしまいたい……彼は死にたかった。

嘉村 ふーむ。

三葉 無論、自死を考えたこともあります。しかし、どうもその気にはなれなかった。死ぬのが怖い!……「怖い」と言っても、「痛そうだ」とかそういう意味ではありません。彼は「無意味であること」を恐れたのです。そう、「意味」がほしかった!ここまで無意味で無価値な人生を送ってしまったからこそ……せめて最期くらいは何か「意味」がほしかった!

嘉村 なるほど、「意味」ですか。

三葉 そんなある日のことです。草木も眠る丑三つ時、彼はいつものように深夜のウォーキングに出かける。そして、ショックを受ける。あれは!あの自動販売機の傍に立っているのは……彼の初恋の人でした(以下、Aさん)。グズでマヌケで陰気で、クラスメイトから何となくのけ者にされることが多かった主人公にも優しく微笑み、話しかけてくれたAさん。「おはよう」「また明日ね」と挨拶してくれたAさん。卒業式の日にも、「またね」と手を振ってくれたAさん。……中学卒業以来、およそ20年ぶりの再会です。主人公は素早く電信柱に隠れる。そして様子を伺う。Aさんは……光輝いて見えた!無論、年相応に老けている。しかし、そんなことは関係ない。主人公には、Aさんが女神のように見えた。間もなく、彼女はマンションに消えた。おそらく……夜中にふいに甘いものでも飲みたくなったのだろう。そして小銭を握りしめて自動販売機にやってきたに違いない。……そうか、彼女はこんな近所に住んでいたのか。きっと優しい旦那さんと子どもがいて……いや、待てよ。考えてみれば、それは単身者向けのワンルームマンション。ということは1人暮らしなのだろうか?その時……彼はふいに思い立つ。そうだ。オレは、Aさんのために死のう。Aさんのために死にたい!

嘉村 ははぁ……。しかし「Aさんのために死ぬ」と言っても、2人は接点がないし、そもそもAさんが命の危機に瀕しているわけでもないでしょうし……。

三葉 ええ。したがって、主人公はAさんのストーカーと化します。そして、「死に場所」を探す。

嘉村 あー……。

三葉 彼は、人前に出るのが苦手です。何しろ20年も引きこもっていますからね。しかしAさんのためである!恐怖をぐっと堪え、彼女を尾行する。郵便ポストやゴミ袋を漁る。

嘉村 犯罪ですよ……。

三葉 その通りです。しかし、愛の前には法なぞ無力なものです。

嘉村 ……。

三葉 徐々にAさんのことがわかってくる。彼女は独身だった。両親を亡くし、いまは1人暮らし。弟がいるが、離れた街に住んでいて交流は少ない。Aさんはバリバリのキャリアウーマンで、毎日忙しく働いていた。上司や取引先からの信頼は厚く、部下からは尊敬を集めているらしい。「さすがはAさんだ!」と、主人公は嬉しくなってくる。

嘉村 ふむふむ。

三葉 とまぁ、Aさんに関する情報は集まってきた。しかし、知れば知るほど彼女の日常に危機らしい危機は見当たらなかった……。

嘉村 いや……それはそうでしょうよ。命を賭すような場面はそうそうありませんからね……。

三葉 主人公は焦る「いかん!このままではただのストーカーだ!オレはAさんのために命を捧げるヒーローになりたいのに、これではストーカーではないか!!」。

嘉村 ……ようやく気づいたか。

三葉 そんな日が1か月、そして2か月ほど続き……やがて彼は気づく。いつの頃からか、自分以外にもAさんをつけ回している者がいることに!

嘉村 ほぉ!

三葉 あれ、あの男……どこかで見た顔だな。……ん?今日もあの男がいるぞ。……何だ?ここにもいるじゃないか!偶然か?……まただ!これは偶然じゃない!あいつ、Aさんを尾行している!……という具合ですね。

嘉村 なるほど。

三葉 主人公は、その男(以下、B氏)を尾行する。

嘉村 ストーカーのストーカーですか……。

三葉 すると……嗚呼、何ということか!B氏は、Aさんの高校時代のクラスメイトだったのです。卒業後、彼は大学に進学したものの、間もなく引きこもるようになった。そして、いまは引きニート。引きニート歴はおよそ15年。

嘉村 主人公と似たような境遇ですね……。

三葉 B氏は、どうやら高校時代からAさんに惚れていたらしい。密かに片想いしていたようだ。そしていま、人生に絶望した彼はAさんのストーカーと化し、彼女を襲い、強姦し、殺し、自分も死のうとしているようなのです!

嘉村 これは一大事だ……。

三葉 真実が明らかになったいま、主人公は苦笑する「社会のゴミが、別のゴミを道連れにして死ぬってのも悪くないよな」。

嘉村 あー、なるほど。

三葉 かくして、主人公は死に場所を見つけました。できるだけAさんに迷惑がかからぬよう、Aさんの家や会社から離れた場所で……主人公が、B氏を襲撃する!揉み合いになる。主人公はナイフを抜く。B氏もナイフを取り出す。運動神経皆無で、おまけに長い間引き持っていた2人は、ドタバタと間抜けな乱闘を繰り広げる。そして……相打ち!両者死ぬ。主人公は、薄れゆく意識の中で幸福感に浸っていた。彼は「価値ある死」を遂げたのでした。……で、おしまいです。


案②


嘉村 続いて、「案②」にまいりましょう。

三葉 はい。「案②」は、「オレは誰かのために死にたい! ~『孤独な老人』編」です。


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嘉村 今度は老人!

三葉 ええ。まずは、イエロー バスタード」との比較表をご覧ください。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。……主人公は老人です。彼は元々意地っ張りな性格だった。加齢により、その傾向に拍車がかかった。そして数年前に妻を亡くした時、彼をたしなめる者はいなくなった。かくして彼は、頑固ジジイの完全体と化した!

嘉村 完全体……。

三葉 彼には息子がいました。息子とその妻、そして孫は近所に住んでいますが……いまではすっかり疎遠になっている。彼の息子曰く、「オヤジにはついていけないよ……」。主人公は、孤独な毎日を送っていた。とはいえ、彼は強情な男である。口が裂けても寂しいとは言わないだろう。息子らと和解する?……冗談じゃない!老人クラブに参加する?……みっともない!彼は朝から晩まで誰とも言葉を交わすことなく暮らしていた。しかし……やはり、寂しいものは寂しいのである。誰とも関わらず、目的もなく生きるのは辛いのである。彼は、「誰かのため、何かのために生き、そして死にたい」と思った。だが、彼は意地っ張りな男である。「生き甲斐がほしい」なぞ到底口に出せぬ。彼は悶々と暮らしていた。

嘉村 ふーむ……。

三葉 そんなある日、彼の家に孫がやってきます。孫は男児、4歳。息子夫婦が連れてきたのではありません。保育園を抜け出し、1人でやってきたのです。主人公は驚き、慌てて保育園に連絡を入れる。園長が駆けつけてきて、平身低頭謝罪する。しかし、主人公は激昂する「交通事故にでも遭ったらどうするつもりだ!この無能が!頭なぞ下げてもダメだ!腹を切れ!責任を感じているなら腹を切って詫びろ!」。

嘉村 無茶苦茶言いますね……。

三葉 まぁ、日ごろのストレスが吹き出しているわけですよね。

嘉村 うーむ……。

三葉 彼は怒鳴り続ける……がその時、孫が口を開いた「じいじ、怒らないで。じいじにお誕生日プレゼントを持ってきたの」。

嘉村 ほぉ!

三葉 そう、その日は主人公の誕生日だったのです。彼の全身に電流が走る。誕生日なぞ、すっかり忘れていた。妻を亡くして数年、ついぞ誕生日を祝ってくれる人はいなかった。孫が画用紙を差し出す。人の顔らしきものが描かれている。孫が言う「これ、じいじ!」。……主人公は決意する「オレはこの孫のために生き、そして死のう!孫のためにこの命を捧げるのだ!」。

嘉村 あー、なるほど。とはいえ……「案①」同様、「命を捧げる」ほどのビッグイベントは早々起こりませんよね。

三葉 まぁ……そこはフィクションのことですからね。都合よく事件が起こる。

嘉村 ふむ……。

三葉 すなわち、保育園の傍に不審な男が出没するようになったのです。「近くに怪しげな車が停まっている」「黒ずくめの男が園庭を覗いていた」といった情報も寄せられる。

嘉村 ふむふむ。

三葉 孫のピンチである!主人公はナイフやらスタンガンやらを買いこむ。さらに昔取った杵柄、埃をかぶっていた木刀を握る。そして、保育園傍のアパートの一室を借り、24時間体制の監視を開始。

嘉村 すごすぎる……。

三葉 やがて……主人公は、不審な男を発見します。そして男を尾行すると……間違いない!こいつは、ロリコン変態野郎だ!かくして、主人公は男に飛びかかる。とっ捕まえて、警察に突き出すのだ!ところが……嗚呼、何と言うことか!主人公は、男の頭蓋骨を叩き割ってしまった。男が倒れる。ピクピクっと全身を痙攣させると、口から泡を吹いて死んでしまった。これにはさすがの主人公もぶっ魂消る。しまった!やりすぎた!……だが、覆水盆に返らず。いまさら慌てふためいても仕方がない。彼は考える。オレは人を殺してしまった。「祖父が殺人者」だなんて、孫の人生を狂わせるに違いない。「殺人者」はマズイ。「犯罪者と相打ちになったヒーロー」でなければならぬ!……ということで、彼はシャツを脱いで半裸になると、ナイフで自らの腹を掻っ捌く。

嘉村 切腹!

三葉 そして、死にました。その死体は、満足げな表情を浮かべている。彼は「死に場所」を見つけ、満足して死んだのでした。……で、おしまいです。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『イエロー バスタード』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「シン・シティ」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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