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わからない 見えないだけで 本当は もうある気持ち、知らせてくれた

なんだろう、この映画は。
青茶の香りが鼻を抜けるような気持ちよさと、まだ名前のつけられていない感情が、観た後に訪れた。

『アフター・ヤン』を観た。

冬らしい暗い雨のなか、東京駅から有楽町方面へ歩き、日比谷のTOHOシネマ シャンテへ。
足の裏から伝ってきた寒さですっかり冷えた身体を、売店のココアで温める。

そして、私の映画前のお約束。トイレへ向かう。ついでに、廊下に貼られたコラムやポスターもちらっとチェック。
へ〜、音楽は坂本龍一なのか。楽しみな一方、気を取られすぎないようにしないと……などと要らぬ心配をしているところで、ブザーが鳴る。


S T O R Y

“テクノ”と呼ばれる人型ロボットが、一般家庭にまで普及した未来世界。茶葉の販売店を営むジェイク、妻のカイラ、中国系の幼い養女ミカは、慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかしロボットのヤンが突然の故障で動かなくなり、ヤンを本当の兄のように慕っていたミカはふさぎ込んでしまう。修理の手段を模索するジェイクは、ヤンの体内に一日ごとに数秒間の動画を撮影できる特殊なパーツが組み込まれていることを発見。そのメモリバンクに保存された映像には、ジェイクの家族に向けられたヤンの温かなまなざし、そしてヤンがめぐり合った素性不明の若い女性の姿が記録されていた……。

https://www.after-yang.jp/ より


映画は、一貫して美しかった。
強いこだわりを感じる数々の演出が、ひとつの静謐なトーンにまとめられている。多くの人の琴線にそっと触れて、いつまでもそれを揺らす美しさ。
坂本龍一の音楽も心地よかった。風にながれる雲間から、時折射す陽の光のよう。あたたかくて、眩しすぎることがなかった。

なかでも一番印象に残ったのは「未来」の描かれ方。新しくもなつかしい、桃源郷のような世界。
そんな、少し遠い未来を生きる主人公たち。その一人ひとりの感情は、けして理解できないものではなくて、ちゃんと今の私たちの延長線上にある。

そこに、今は(まだ)ない「テクノ」という存在。
その未知の存在が、怖いような愛おしいような……まだ知らない不思議な感情を、私の心にそっと残してくれた。
それは、気づいていないだけで、本当はずっと感じているものなのかもしれない。




丁寧に表現された世界観は、観ているだけで心が浄化されていくよう




少し遠い未来にいる私は、その感情を言葉にのせられるのだろうか ── そんなことを考える。


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