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【時事】〈プロパガンダの法則〉

こんにちは。

前回は、年末年始に中東で起きた事件によって、米国とイランの緊張が刻一刻と高まりつつあることを記事にまとめました。

中東地域において、米国とイランはそれぞれ親密にしている国や組織があります。
米国はサウジアラビア、イスラエルなどと長らく友好関係にあります。
一方でイランはロシアと繋がっており、更にシリアのアサド政権、レバノンのシーア派組織ヒズボッラーなどとも親密な関係を保っています。

万が一、最悪なシナリオとして戦争へと移っていくとなれば、上述した国や組織が参入してくる可能性があり、そうなると戦争の大規模化は免れません。

中東諸国の多くは、日本に対しては基本的にポジティブな印象を抱いています。しかしイラク戦争の際、当時の小泉首相はブッシュ大統領と蜜月の関係にあったことからイラクへの自衛隊派遣を実施し、これは中東諸国からの反感を買いました。
そのため、日本から遠く離れた中東の地であっても、今後の動向は無視できるものではないと思います。

今回は、時代や国を超えて実施され続けてきた「プロパガンダの手法」について綴っていきます。年末年始に起きた事件でも、この一種と呼べる手法が用いられています。
ぜひ前回、前々回の記事と併せてご一読ください。

【米副大統領による疑惑の声明】

●米副大統領「イラン司令官が9.11テロ支援」 事実ではないと指摘受ける(AFP通信)

【記事の概要】
マイク・ペンス米副大統領は3日、Twitterに異例の連続投稿を行った。
内容は「米国の攻撃で殺害されたイラン革命防衛隊の精鋭部隊コッズ部隊のガセム・スレイマニ司令官が、9.11米同時多発テロの実行犯を支援していた」というものだった。
しかし、米紙ニューヨーク・タイムズは「9.11同時多発テロのに関する独立調査委員会の585ページにわたり報告書には、当時すでにコッズ部隊を率いていたスレイマニ司令官の名前はない」としている。

トランプ政権からはペンス氏以外からも、スレイマニ司令官殺害を正当化する声が挙がっている。米国務省は「ガセム・スレイマニは、イラクで米軍人少なくとも603人を殺害し、数千人に障害を負わせた責任がある」とツイート。更には2003~11年にイラクで死亡した米軍人の17%は、スレイマニ司令官率いるコッズ部隊に殺害された可能性があると指摘している。

【戦争プロパガンダの法則】

前回、前々回の記事では、米国の「プロパガンダ戦略」について触れた。

米国はイラク侵攻にあたって、イラクがテロ組織に加担していると喧伝し、更には大量破壊兵器をも保持していると繰り返し嫌疑をかけた。
実際にはテロ組織に加担しているという証拠もなく、フセインは大量破壊兵器の保持を否定していたにも関わらず、ブッシュ政権はその主張を無視し、イラク侵攻へと突入した。
占領後の調査で、大量破壊兵器の保持は虚偽であったことが判明する。

ここでは米国によるイラク侵攻を例に挙げたが、こうした手法は米国に限らずあらゆる国の権力者が、時代を超えて利用してきた。

アンヌ・モレリ氏が著した「戦争プロパガンダ10の法則」では、アーサー・ポンソンビー氏という人物が登場する。彼は、戦中戦後にかけてイギリス政府の戦争プロパガンダを批判する冊子を発行するなど、「戦時の嘘」を暴こうと試みた人物である。
彼は、戦争プロパガンダの基本的なメカニズムについて論じ、戦争プロパガンダは10項目の「法則」に集約できると書いている。

【戦争プロパガンダの法則】
①「われわれは戦争をしたくはない」
②「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
③「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
④「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
⑤「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
⑥「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
⑦「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
⑧「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
⑨「われわれの大義は神聖なものである」
⑩「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」

さて、このなかで聞き覚えのある文言はなかっただろうか。

ここですべての言葉を解説することはできないが、戦争プロパガンダの手法は「戦時中」だけではなく「開戦前」から用いられる。
また、こうした手法は戦争といった生死に関わるものから、国内の政治の場、そして身近な争いまで幅広く利用される。

こうした現代の複雑な情報化社会のなかで、私たちは翻弄され続けてしまうのか。虚偽で埋もれた山から真実を掴み取ることは困難なのか。

【真実を掴むためには】

また、アンヌ・モレリ氏は文献における総評の部分で、戦争プロパガンダの法則における根本的な疑問を呈している。

●われわれは、今なお、先人たちのように情報をうのみにしてしまうだろうか。
●こうした法則は意識的に実践されたのだろうか。
●真実は重要だろうか。
●なにもかも疑うのもまた危険なことではないだろうか。

モレリ氏は、現代人である私たちもデマを信じてしまう点では、先人たちと変わっていないと述べている。

権力者は、敵に対してはあらゆる手段を用いて「独裁者」「略奪者」といったネガティブなレッテルを貼る一方で、自国の大衆に対しては聞こえの良い言葉を並べて同情を引くように仕掛ける。そして、自分は善の側にあって、悪を打倒するための戦いを挑んでいると思い込むことで正当性のあるイデオロギーを作り上げてしまう。

また、インターネットやメディアの発達に伴い、国民の同意を得るための手法は巧妙になっていく。それにより、私たちは多様な情報に触れることができるようになり、自由な情報交換が可能になった。
たとえ民主主義国家であっても、そうした情報は意図的に捻じ曲げられ、政府の意図に反する映像や反対する意見はマスコミにも取り上げられない。

今までがそうだったように、これからも私たちはおそらく情報に翻弄され続けるだろう。
しかし、情報化社会と呼ばれる現代で、私たちは溢れかえるほどの膨大な量の情報から、真実を掴み取らなければならない。更に、偽物ではなく本物を掴むためには情報を盲目的に鵜呑みにするのではなく、情報を取捨選択できるような言論を解釈する力(メディア・リテラシー)を身に付けていかなければならない。

それを怠ったとき、いつか無意識的に誰かを追い詰める結果を招くかもしれない。批判的視点・思考を持ち、適切な分析し、判断していくことが私たちの使命である。

[参考文献]
戦争プロパガンダ10の法則 アンヌ・モレリ

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