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#31 気持ちのやりとりに、貸し借りは無い

(701字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)
 
 「君、もち米は食べられるかい?」
 
 勤務中、チャットに届いたメッセージに「食べられます」と返事するやいなや、隣席の同僚がビニール袋に入った何かを渡してくれた。
 
 
 もち米団子、と彼女は主張するが、覗いてみるとどう見てもちまきである。
 拳サイズのずっしりとしたご飯の塊。それを丁寧に包んでいる葉っぱからも、とても良い香りがしていた。
 
 「お食べよ」と言われ、ちょっと緊張してしまい上司の顔色をうかがったが、「書類汚さなければ別に」という態度だったので大喜びで包みを開けた。
 
 
 一口かじる。
 
 美味い。
 
 
 お昼に食堂からもらってきたのか、まだ熱が残っていて温かい。
 お米ひと粒ひと粒に歯ごたえがあって、具材もたっぷりだ。お肉に野菜に、ぽくぽくとした椎茸もチラホラ入っていた。
 
 「美味しいです」と言うと、同僚は嬉しそうに「ちまきみたいだったろ?」と笑顔になった。
 
 
 心地良いやりとりだ。
 
 良い物があればスッとシェアする。
 それに対し気持ちよく、ありがたくいただく。
 更に機会があれば、今度はいただいた側がシェアしてくれた相手に何かお返しをする。
 
 申し訳なさもなく、ごく自然に「与え・与えられる」を繰り返す。
 仲というものは、こうしていくうちに深まっていくものだ。

 
 
 「すいません」なんて思う必要はない。
 誰かに何かをしてもらったら、まずは「ありがとう」でいい。
 
 結局は気持ちのやりとりなので、そこに貸し借りなんて存在しない。
 お互い楽しく幸せにやれていれば、良好なコミュニケーションで間違いないのだ。
 
 
 良い仲間に恵まれた。ありがたい。
 そうしみじみと思い最後の一口を頬張る。
 
 そしてふと、やはりこれはもち米団子ではなくちまきだったのではと、一人静かに考え込むのであった。

📚小さなやりとりの積み重ねが仲を育てる

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