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連載小説『俺たちは爆弾を作ることについて真剣に考えなければならない』第3章


第2章・あらすじ

 津幡第一中学校・爆弾製作委員会、通称"爆委(ばくい)"は、男子中学生3人が所属する極秘の特別委員会である。
 2023年11月5日、委員長・田淵健太(たぶちけんた)は、委員の杉浦桔平(すぎうらきっぺい)、中島翔之助(なかじましょうのすけ)の2人を招集し、これまでの議事録を確認する、最後の定例会議を開いた。

 10月31日の議事録には、田淵が、爆弾を作るための材料が全て揃ったことを報告した際の様子が書かれていた。
 また、このことに不信感を覚えた杉浦と中島は、田淵に質問を浴びせていたようだ。
 すると田淵は、逮捕されたはずの"あの人たち"と呼んでいる集団と、その日の朝に接触したことをカミングアウトした。

 爆弾製作委員会の過去が徐々に明かされていく。


第3章

―――爆弾製作委員会・議事録―――
日 時:2023年4月16日
場 所:田淵家 2階 会議室
出席者:津幡第一中学校 爆弾製作委員会 田淵健太/杉浦桔平
議 題:まずは仲間を結束を
会議模様:以下、実際の会議内容を記す。書記:杉浦桔平

「2回目だな」
「そうだな」

 本日は第2回目の爆弾製作委員会定例会議だ。わざわざ文字を打つ手間を省略するため、ここでは"爆委(ばくい)"と記す。
 
 前回は発足動機の再確認、今後の方針決定、おおまかなスケジュール決定、そして最終目的について、我々爆委発足委員の2人が話し合いを行った。委員長は田淵に決まり、私は引き続き書記を担当することとなった。
 本日の会議は、田淵が私に問いを投げかけそれに私が答える形でスタートを切った。

「いると思うか?」
「メンバーか?」
「ああ」
「俺はいたほうが良いと思うぞ」
「しかし、俺たちの活動が広まってしまうぞ」
「だからって俺ら2人でやるつもりか?もちろん極秘でやっていくのが大前提だが、なにせ膨大な仕事量だ。単純に考えて、計画の準備段階では最低10人必要だろう。もちろん終盤に近付くにつれて作業量は減っていくんだろうが。しかし、材料集めを2人でやろうものなら、肉体的にも精神的にも炭鉱での重労働並みだ。俺らにはもっと人手がいる」

 そう、我々は外部に活動の内容が漏れることを極度に恐れているが、その活動には人手を必要とする。
 
「何人要る?」
「お前委員長だろ?そのくらいの決定は任せるよ」
「それじゃあお前の言う通り、10人にしよう。なるべく委員の数は最小限に抑えるんだ」
「ならあと8人集めるってことでいいな?」
「ああそうだな。しかもその8人には入会したら早々に仕事がある。仕事が始まってしまえば、爆委が何をしようとしている組織なのか、この町に住んでる奴なら簡単に分かってしまうだろう。俺たちの活動を止めようとしてくる奴の出現は防がなければならない。集まった委員には、最初から目的を伝えておく必要があると同時に、それを受け入れて最後まで仕事をやり遂げるだけの結束力、忠誠心が要る」
「同感だ。俺らと同じ志を持った奴以外に爆委の仕事をやらせるわけにはいけない。んで、あれだな。委員勧誘のとき、最も注意すべきことが一つだけある。だよな?」
「……親と先生に、チクられないこと」
「………」

 当然委員として勧誘する者は津幡第一中学校の生徒ということになる。クラス、部活、委員会、いずれも勧誘先として想定している。
 我々の立場上、勧誘中に親もしくは先生に我々の動きをチクられないことこそ、爆委として最初に乗り越えるべき障壁として存在しているのだ。
 先週の新入生歓迎会で行われた部活勧誘のように、体育館で堂々と宣伝していいわけがなく、秘密裏に交渉したとしても、その際何人もの人間に断られるようであっては、後々情報漏洩のリスクが高まる。

「2年か?」
「まあそうなるだろうな」

 田淵は、我々と同学年で面識のある者を委員として勧誘することを提案した。
 私もそれに同意した。

「メンツ、決めていこうか」
「ああ」

 ここからが本題である。
 数カ月に渡るであろう爆弾製作活動において、序盤戦を順調にこなさなければ、後々大幅な日程のズレが生じたり、委員会の統率に齟齬が生じたりする。さらにこのことは計画の失敗という大惨事に繋がりかねない。
 誰を委員として勧誘するのか、第一の関門であるため、非常に慎重な検討を要する。

「杉浦、2組に……そうだな、小柄で運動神経のいい奴はいるか?」
「思い当たるのは樋口と原田の2人だな。樋口はサッカー部のキャプテン候補で、原田は陸上部の奴だ」
「樋口?お前がよく言ってる樋口凪(ひぐちなぎ)って奴か?俺は会ったことないが、お前が信頼できるなら、まずはそいつを入れようか」
「いや、凪はダメだ。あいつは勝負意識が高い。いずれ生徒会長になろうとしているらしい。もしあいつを入れて、『爆委の主導権は俺にある』、なんて言い出したら堪ったもんじゃない」
「もう一人の奴はいけるか?」
「原田は長距離で全国にも行ってるが、そこまで我が強い奴じゃねえ。あいつは大丈夫だ、決定でいいと思う。名前は俊也(しゅんや)だ」

「俺のバスケ部に信頼できる奴が一人いる」
「何組だ?」
「5組だ。蓮実斗真(はすみとうま)って名前で、センターをやってる」
「ならデカくて目立っちまうんじゃないか?」
「でも視野が広いぞ。それもただ単に背が高いからってことじゃない。先を見通す力があるって意味だ。実際、試合中の作戦は、キャプテンじゃなく斗真が考えることが多い。俺も判断に迷ったとき、あいつに助けられることがよくある」
「なんというか、変なバスケ部だな。とりあえずその蓮実って奴を入れることにしよう。それから、俺が信頼できるって意味なら1組に廣輝がいる」
「俺も言おうと思ってたんだ。竹村廣輝(たけむらこうき)だろ?前から聞いてたが、そいつとはいつからの付き合いなんだ?」
「覚えてねえよそんなこと」
「まあお前の幼馴染ってだけで十分価値があるな。勧誘もスムーズに出来そうだ。それと、広島時文(ひろしまときふみ)という、いつも一緒に昼飯を食う仲の奴がいる。同じ3組だ。あいつとはかなり色々な話をする。爆委を除いて、お互いのことはほとんどなんでも知っているだろう」
「お前の周りは豊作だな。これで4人目だ」

「お前生活委員だったよな。なら赤澤はどうなんだ?仕事ができることで有名だろ?」
「お前、正気か?生活委員会に入ってないからそんなことが言えるんだろ。あいつは爆委に最も関わってはいけない人物だ。なぜだかわかるか?」
「いや、わからない」
「あいつ、口が軽いんだ。何か喋るたびに、どっから仕入れたかもわからねえ、あいつはあいつが好きだとか、あいつとあいつは付き合ってるだとか、俺からすればどうでもいいことだが、当の本人達からすると絶対にバレたくないであろう情報を、べらべらべらべらばら撒きやがる。仕事ができることと引き換えに、そいつを入れる覚悟があるか?」
「そいつは却下だ。生活委員会にいい奴はいないのか?」
「そうだな。4組の乾実(いぬいみのる)はどうだろう。『学校を変えたい』といつも言ってる意志の強い奴だが、樋口のように好戦的じゃなく、どちらかというと人に協力的だ。仕事の出来は普通だが、まあ使えると思う」
「わかった、決定だ」

 残り3人だ。我々は適当な人材を思い出そうとしばしば沈黙する。
 田淵が口を開いた。

「そうだ。あんまり目立たない奴を入れるってのはどうだ?」
「目立たない……ほう、そうか、なるほど。確かに名案かもしれない。普段何を考えているのかわからず、自分を主張してこない奴ほど、胸の内に何かを秘めていたりするからな。役職としては洞察に富んだ観察者、といったところだろうな。だがある程度俺たちもそいつのことを知らないと、誘うにも誘えないぞ?もし気が触れてるような奴なら、入った後で爆委をめちゃくちゃにしかねない」
「それはそうだ。……俺からは2人提案しよう。4組の明智と5組の成田だ。明智の方は1度だけ話したことがある。お前も知ってるよな?」
「去年の文化祭のパンフレットに載ってた奴だろ?正直あの表紙を飾った絵には驚かされた。あの描き込み量、構成を考えたり飯を食ったりする時間を除いて、実際に手を動かしている時間だけに限定しても、10時間以内に完成するような代物じゃない」
「それで?」
「もちろん決定で良いと思う。終盤は器用さが要求される時間のかかる作業だ、あいつにやらせよう。成田の方はどんな奴なんだ?」

「成田弓人(なりたゆみと)は小学校から一緒の奴で、中1の頃に1度だけ話したことがある奴だ。図書室で勉強しているときに偶然後ろにいたから話しかけてみたんだ。案外気さくだった。加えて、マーカーを引いた教科書を見ただけで、俺の勉強時間と理解度、苦手としている教科まで当てやがったんだ。お前の言うような、洞察力のある奴かもしれない」
「ならそいつを当たってみよう。それと、図書館で思い出したんだが、3組に俺が時々会いに行くやつがいる。お前んとこの図書委員だ」
「え?小暮壮介(こぐれそうすけ)のことか?いつも中島と一緒にいる奴だろ?」
「その中島ってのは誰だか知らないが、とにかく小暮はずっと図書館に籠っているような奴だ。俺が調べ学習で本を探すとき、まずは図書館に行ってあいつに聞くようにしている。複数の本から俺の目的に沿ったものを選び出し、少し時間を取って読ませればわかりやすい要約をよこしてくれる。知識が豊富で面白い奴だ」
「じゃあ小暮も勧誘しよう。俺らを含め、これで10人だ」

「あ、田淵、ちょっと聞きたいことがある」
「どうした」
「中島ってどんな奴なんだ?」
「なんだ杉浦、興味あるのか」
「小暮と話が合うということは、そいつも面白い奴だと思うが、違うのか?」
「中島翔之助(なかじましょうのすけ)は俺のクラスの学級委員だ。誰も手を挙げないから学級委員を押し付けられたんだ。見た目も性格もひ弱だが、俺の目に入るときには、いつも何かしらクラスの仕事をしている。小暮と仲がいいのは、あいつもよく本を読んでいるからだろう。そういえばかなり勉強もできた気がする」
「それならその中島って奴も、一応補欠として入れておくのはどうだ?」
「まあいくら断られることを避けるとはいえ、1人くらい想定しておかないとな」

「ハア…やっと決まったな。書いとくぞ」
「ああ、頼んだ。今日の定例会議はこれで終了だ」

 以下、本日決定した勧誘委員候補をまとめる。()内、勧誘担当。
選出者
1組:竹村廣輝(杉浦)
2組:原田俊也(杉浦)
3組:広島時文(田淵)、小暮蒼介(杉浦)
4組:明智雄大(田淵)、乾実(杉浦)
5組:蓮実斗真(田淵)、成田弓人(田淵)
不選出者
赤澤正志:1組、口が軽い、情報漏洩の危険性
樋口凪:2組、勝負意識が強い、謀反の可能性

「………中島を勧誘する場合はどっちがいく?」
「俺がいこう。同じクラスだ。知らないお前がいくよりいいだろう」
「わかった」

補欠
3組:中島翔之助(田淵)


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