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アナログな世界の君

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#小説

アナログな世界の君㉘

一つ一つが素朴なものだが、新鮮味を感じるものがあった。
素朴な街並みを見るのは、僕が見ていたあんなビルが乱立しているギスギスした雰囲気の町よりかは綺麗に見えた。
こうした背の高いビルがない街並みは遠くの空も山も見れて、それが一番新鮮なのかもしれない。

「綺麗な町でしょう?
景観だけは自慢できると思います。
けど戦争が始まってからは壁に色々なポスターが張られたり
街灯に何かぶら下がっていたりと少し

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アナログな世界の君㉗

「何で……聡は今……そんな事を言うのですか
そんな言葉を聞きたくて、ここまでした訳ではないのですよ
バカ……あなたは分からず屋です」

千代がその泣きそうな顔で言ってきた。

「バカで分からず屋なのは千代の方だよ
僕もこんな千代が見たくて黙って見ていた訳じゃない
笑ってお父さんと話して、その後愚痴をべちゃくちゃ言って
適当な話題をで笑って町を歩いている千代が見たかったんだよ」

千代に訴えかける。

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アナログな世界の君㉖

「聡は別になにもしゃべらなくても構いません
もし何か聞かれたら、当たり障りのない事を言ってくれるだけで構いません。
変な事は言わないでくださいね。」

部屋に入る前に千代に釘を刺される。
そりゃ……変な事を言わないように努力はするさ。
いざ目の前にしたら何があるのか分からないから確証はないんだがな。

「あぁ……なんとか頑張るとするよ」

千代が部屋のドアに手を掛けて回す。
ノックもなしにそのまま

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アナログな世界の君㉕

「言ってくれないと分からないんだよ……
僕の経験と知識なんかでは何を求めているのか分からないんだよ」

何も言ってくれない千代の思いをぶつける。
言ってくれないというのは少し語弊があるな。
言ってくれているが、何を求めていて、何を言いたいのか分からないという事だ。

「もういいです……もう行きましょう……
こんな事していても時間の無駄だと思います
けど……分かってくれるって
そう思って私は待ってい

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アナログな世界の君㉔

全く今日は千代に色々と振り回されて疲れた。
けどあんな風に活発な千代も初めて見たのかもしれない。
いや活発なのは初めてではないのだが、あんな風に突っかかってくるのがという話だ。
千代に一体何があったっていうんだ。
まぁ人の事はいくら考えても分からないものか。
人の事というか千代の事は分からないといった方が正しいか。

考えても無駄だと思うから、お風呂から出ることにした。

お風呂から出てみると、二

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アナログな世界の君㉓

「全くまた迷っていたんですか
仕方ない人ですね
なんで後ろについてくる事も出来ないんですか……」

しっかりと手を握って引っ張って、駅の出口まで連れて行ってくれた。

「おいおい……先に行ってしまったのに、帰って来て罵倒していくなんてまた珍しい人種だな。
そんな罵倒していくまではいいと思うんだが、手を引いて行ってくれるのは優しいと思うんだ」

千代の罵倒には別に気にはならない。
今までもそういう罵

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アナログな世界の君㉒

「ふぅ……美味しかったです
次もこのお弁当頼んでみようと思います。」

「それは良かったな……
僕の分まで食べてお腹がいっぱいなんじゃないのか。」

僕は言った。

「お腹がいっぱいですね……
お腹が張ってくると眠たくなりますよね……
こんな風に……こくっ…」

首を席の背もたれにかけて目をつぶっている。
無防備にも眠ってしまっていた。
僕は目の前で無防備に眠っている千代をどうしたらいいんだろうな

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アナログな世界の君㉑

次の駅に着いた。
僕が買いに行って迷うより、千代が買いに行ってくれた方が早いし確実だと思って、僕はまた留守番をしていた。
扉が開いた瞬間駆け出していく千代を窓越しに見ながら座って待った。
暫くしてお弁当を持って千代が帰ってくる。
弁当の中身はすべて千代に任せていた。

何を買ってきたかというと……それなりに高そうな幕ノ内弁当を買ってきた。
そんな幕ノ内弁当を三つも買って来ていたのだ。
なぜ三つも買

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アナログな世界の君⑳

「それはごめんなさい……
起きそうになかったから……少し後部車両でなにか食べ物が売っていないか見に行ってきたのです……
まさか目が覚めてしかも憲兵が来るなんて想定外でした
けど私が戻って来たからにはもう大丈夫です……
安心してください
そういえば後部車両でバナナが売っていましたので買ってきました
どうですか?元気が出ますよ?」

そう言って千代がバナナを差し出してきた。
すっかりお腹が空いている僕

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アナログな世界の君⑲

「なっ……いきなり何を言っているのですか!?
眠たすぎて頭がおかしくなったのですか!?
そんな恥ずかしくなるような事を言わないでください!
いや……別に嫌ではないのですが……
その……あの……私は……どうしたら……」

千代が僕の一言に戸惑っている。
その戸惑っている姿を見て面白がっている僕。

「別に千代は普通にしていればいいと思うよ……
外でも見ているといい……僕は千代をずっと見ているから」

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アナログな世界の君⑱

「ええええ……今さっき話し始めたばかりじゃないですか……
どうしてですか……さっきは話し相手になってくれるって言ってくれたじゃないですか……
むぅ……いけず」

千代も横になり、寝る体制に入った。
そこから別に、千代からしゃべりかけてくる事はなかった。
だが、たまに構って欲しいのか背中をつついてくるので、眠れなかった。
単純につついてくるので眠れなかったのではなく、心臓がバクバクして眠れなかったと

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アナログな世界の君⑰

「それなら大丈夫ですよ……
お尻を少しぶたれるだけですから……ぺちぺちと……ふふふ」

千代は冗談みたいな事を笑いながら言っている。

「ははは……なにをそんな冗談を
実際にそんなことになるのなら見てみたいものだ
ぺちぺちとお尻を叩かれてる千代……あはは」

その冗談みたいな光景を、この後目の当たりするなんてことを知らずに笑って家の門をくぐった。
玄関先にはニコニコと“おかえりなさい”と一言言って

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アナログな世界の君⑯

急に千代が走るのをやめて、立ち止まる。
車が急に止まれないように、予期せぬ事に僕も止まれなくそのまま千代に後ろから突っ込んだ。

「きゃっ!?
聡!?」

千代から声が上がる。

「いってえな……急に止まるなよ……
こっちも必死だったんだぞ……って」

目の前になかなか見れない景色が広がっていた。
花畑だ。
規模はそう大きいものではないのだが、急に現れると立ち止まるのもうなづける。
僕たちはその花

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アナログな世界の君⑮

「もう大丈夫です……おせなかおながししますね……」

次に入ってきたのは、きっちりと着物を着た千代の姿だった。
腕をまくってこっちに来た。

今回は安心して背中を流してもらえる。
背中を流してもらうという行為に、違和感を覚えながらも静かに待った。
静寂の中、背中をこするごしごしという音だけが聞こえてくる。

そのまま湯船に張ってあったお湯を、バケツですくい僕の背中にかけてきた。
割と勢いがついてい

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