アナログな世界の君㉓

「全くまた迷っていたんですか
仕方ない人ですね
なんで後ろについてくる事も出来ないんですか……」

しっかりと手を握って引っ張って、駅の出口まで連れて行ってくれた。

「おいおい……先に行ってしまったのに、帰って来て罵倒していくなんてまた珍しい人種だな。
そんな罵倒していくまではいいと思うんだが、手を引いて行ってくれるのは優しいと思うんだ」

千代の罵倒には別に気にはならない。
今までもそういう罵倒を何回も聞いてきた。

「別に優しくはありません
いなくなられると探すのが大変だからですよ
しっかりついて来てくださいよ」

それは俗にいうツンデレと言う物ではないだろうか。
見ていて可愛いと思う。小動物のような姿がよく映えている。

そのまま手を引かれて駅構内から出ることができた。
駅構内には特に何があるわけでもなく、今みたいにコンビニや何かの店があるわけでもない。
殺風景でただの壁があり、ポスターが張り付けられているだけだった。

そんな駅を千代の手に引かれて駆け抜けていった。
駅から出ると、街灯は消えていた。
店の中では明かりがついているのを確認ができた。
何か寂しい町だった。今ではここまで暗い東京はあまり見ることはない。

どこか開いている泊まれる場所がないか探しながら歩いている。
街灯もついていない暗い夜道を二人で歩く。
駅構内から繋がれていた手はそのままだった。
駅から変わらずに、千代が手を引いてくれている状態だった。

見たことがない街並み。
なんというか魚屋さんや八百屋さんが客寄せをしてにぎわっているような街並みだった。
また違う時に来たら違うものが見えていたのかもしれない。
ここも明るい街並みが見れたかもしれない。

辺りを見渡しながらそのまま手を引かれていった。
お互いに何もしゃべることなく、特に何があるわけではなく。

こんな暗い道を歩いているんだ。
何かあってもいいじゃないか。
例えば……そうだな。
悪いおじさんに出会うなんて、分かりやすいパターンとか少しはあってもいいんじゃないのか。

まぁそんなありきたりな事はなく、静かな道が続いていた。

「そろそろ何かしゃべってくれません……
ずっと手を引いているんですから何か見返りがあってもいいじゃないですか」

千代の方からこの静寂に終止符をうった。
我慢の限界だったみたいだ。
つないだ手を振って、駄々をこねていた。
そんな千代を優しくなだめて落ち着かせた。

「そうだな……何かしゃべれって言われてもな
特に話題がないんだよな……」

ふと空を見上げて見上げてみると、街灯が消えていて空に見える星が光り輝いていた。

「ほら空を見てみろよ
綺麗なものだぞ……こんな空が見れるのは田舎位だからな……東京でこんな綺麗な空が見れるのは……」

つないでいる手とは逆の方で空を指さして、千代に言った。
千代はその手に引かれて視線をそちらに向けていった。

「……まぁそれなりに綺麗ですね……
空なんて見上げることがなかったので……こんなに綺麗だなんて知りもしませんでした
星も綺麗に輝いていて綺麗……」

なんというかさっきまで駄々をこねていた千代が落ち着いて空を見ていた。
機嫌が直ったかのように思えた。
千代の目には綺麗な星空が投影されて輝いていた。

空を見上げていたつもりが、いつの間にか僕は千代の顔ばかり見ていた。
また千代に何か言われるのではないだろうか。

しかし千代はこちらが見ている事を気づいていないようだった。
何か感動したように空を見ていた。

「空ってこんなに暗くて孤独を感じるような……怖い存在だったんですね……」

千代はそう言って涙を流し始めた。
急に泣き始めるものだから僕は驚いて声を掛けた。

「い、いきなりどうしたんだ
泣き出すんじゃないよ……まるで空を見せた僕が悪いみたいじゃないか……
それに空は暗くて怖いものではない……
どこまでも広くて……いつも表情が違っていて……それに一人じゃない
空には太陽も月もある……星も数えきれないほどにあるんだ
決して一人じゃないぞ」

何か気障な事を言っているような気がするが……たまにはこんな中二病全開でも怒られはしないだろう。
だがその恥ずかしさから顔を真上に向けた。

「違うんですよ……そんな事を言っているんじゃないんですよ
けど……聡はそういう人でしたね……
後自分が言っている事をちゃんと把握して言っていますか
ものすごく恥ずかしい事を言っていますよ
……っぷぅ」

何が違うんだ……僕は千代の言っていることに少し気障だが回答を出しただけじゃないか……。
ほんとよくわからないものだな。
僕がそういう人だつたってどんな人だと思っていたんだよ……。
そうだよ……恥ずかしい事を言っているって自覚はあるよ。
恥ずかしいから顔を見られないように空を見上げているんじゃないか。
しかも最後笑っているじゃないか……泣くか笑うかどっちかにして欲しい。

「なんだ今回はすぐに落ち着いたんだな
それなら良かった。
さぁ空ばっかり見ていると泊る所が見つからなくなるぞ」

僕は言った。

「はい色々考えてたら、もうどうでもよくなりました
そうですね……早く探さないとなくなってしまいますね」

千代はそう言って僕の手を引いて再び歩き始めた。

「千代
少しは加減をして歩いてくれよ……僕の手がちぎれかねないからな。」

そんな冗談を交えて歩いていた。
意外とこういう時には泊まれる場所というのは見つからないものだが、すぐに見つかった。

「すぐに見つかって良かったですね……では部屋を借りてきますのでここで待っていてください」

と言ってカウンターに向かう千代。
ホテルのホールにぽつんと一人立つことになった。
きらびやかな装飾と明るく統一感のある置物と雰囲気。
いかにもという場所だった。

周りを見渡していると、千代からの声が掛かる。

「聡……部屋が取れましたよ
さぁ部屋に行きましょう」

置いて行かれないように千代の後をついて行った。
内装は今のホテルとあまり変わらない様子だった。

明るい廊下を歩き、部屋の前に着いた。
扉を開け千代が部屋に入って行く。

「あれ……千代
カギはくれないのか」

千代は僕に部屋の鍵を渡さずに中にスタスタと入って行ってしまっていた。
それに疑問を持った僕は千代に声を掛けた。

「何を言っているのですか
同じ部屋に決まっているじゃないですか
なんで部屋を分ける必要があるのですか
お金が掛かって仕方だありません……ほら早く入ってドアを閉めてくださいよ」

部屋が一緒……。
またまたそんな冗談はよしてくれよ。
夜眠れなくなるじゃないか。
それに……いや待てよ。
もうすでにその考えを持つのはおかしいのかもしれない。
同じ屋根の下。同じ布団の中で寝たのにたかが一晩部屋が一緒というくらいで取り乱すのもどうかしているな。

「まぁそうだよな
いちいち部屋を分ける必要ももうないような気がしてきたな」

静かにドアを閉めて、部屋に入る。
部屋の角に荷物を置き、ベットに腰を掛ける。
今日一日だいぶ歩いた気がする。
もう足がパンパンだ。
ベットに腰を掛けるとそのまま背中をつけたくなる。
だが、さすがにお風呂には入りたい。

「では私が先にお風呂に入ってきますので……
覗かないでくださいよ」

千代がお風呂場に繋がる部屋に入って行った。
覗こうにも覗けないだろう。
扉は一つしかないんだから、覗いたりなんてしたらすぐにばれてしまうだろう。

千代がお風呂に入っている間に、狭い部屋を散策することにした。
まぁ冷蔵庫。棚。ベット横に机があるくらいだ。
短い散策が終わった。
別に座っているベットから動いた訳ではない。
見渡すだけですべて完結してしまう。

のどが渇いたので、冷蔵庫の中に何か飲み物がないか探した。
冷蔵庫の中には備え付けのお茶が入っていた。

それを手に取り、またベットに座りお茶を飲む。

しかしすることがない。
部屋には何もないから、本当にすることがない。
これは千代の風呂を覗くしかないか。
いやいやそれはだめだ。
何をされるか分からない。

やはり何もせずにベットに座っているのがいいだろう。
なにもせずにベットに座っていると千代がお風呂から上がってきた。

「はぁ……気持ちよかった……聡
次入ってきていいですよ」

千代が言った。

「おう……じゃあ入ってくることにするよ」

僕はそのままお風呂場に入っていった。
シャワーを浴びていると今日の疲れがどこかに飛んでいくようだ。
今日の事を考えながらシャワーを浴びた。

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