アナログな世界の君㉔

全く今日は千代に色々と振り回されて疲れた。
けどあんな風に活発な千代も初めて見たのかもしれない。
いや活発なのは初めてではないのだが、あんな風に突っかかってくるのがという話だ。
千代に一体何があったっていうんだ。
まぁ人の事はいくら考えても分からないものか。
人の事というか千代の事は分からないといった方が正しいか。

考えても無駄だと思うから、お風呂から出ることにした。

お風呂から出てみると、二つあるベッドの一つで千代が座って待っていた。
先に寝てしまっても構わなかったのに、疲れていただろうに起きて待っていた。

「聡、お風呂なかなか長かったですね
何か考え事でもあったのですか」

そんなにお風呂が長かった覚えはないのだが、なぜ考え事をしていたとばれている。

「考え事は別にしていないよ
まぁ少しくらい長風呂をしてしまったくらいだ
特に理由はない」

僕は千代とは違うベットに座り、そのまま横になった。
なんてこのベットは気持ちがいいんだ。
ふかふかで何かに包まれているような。

「……明日の為にもう寝た方がいいですね
では部屋の電気切りますよ」

それを言うために待っていてくれたのか。
気を使わせてしまってすまないな。

「あぁ……そうだな
明日の事もあるし
今日はもう寝よう」

電気が消えて、常備灯がついて薄暗くなる。
布団がすれる音以外せず、静かになった。

いつもの千代だったら、もうそろそろ何か話しかけてくる所だと思う。
話しかけてくる事を期待している自分がいる。
その事にも自分が驚いた。
だがそんなこともなく、千代は静かに眠ってしまっていた。

まぁさすがに疲れていたのだろう。
あんなに長い間移動していたのだ。
歩いたりもした。はしゃいだりもした。
今日一日だけでも、色々濃い内容の日だった。

僕もふかふかの布団に潜り込んで眠りに着こうとしていた。
足の先から段々と感覚がなくなっていく。
体が軽くなっていき、自分が眠りについて行くのが分かるようだ。
僕もかなり足腰に来ていたものだ。
暫くして僕の意識も消えていた。

窓から入る朝日で僕は目が覚めた。
いつも通り僕より先に目が覚めていたみたいで、おめかしをしていた。
いつものように髪を結い、肌の状態を確認し、着物の帯を締めていた。
千代の可愛い姿がそこにあった。

「朝から眼福眼福…今日も可愛いな千代」

僕は寝起きでかすむ視界を良くしようと目をこすりながら言った。

「何を言っているのですか……
早く準備をしてください
今日はお父様の所に行った後、街を回るのでしょ
早く用事を終わらせて町を回りましょう」

千代の準備は終わったみたいで、僕の事をせかす。
そんなにせかされても何かを忘れたりするものだろう。
こういう時こそ落ち着いて行動すべきだと思うんだ。
楽しい事の前にはしっかりと確認をしてから望むべきだ

「まぁまぁ落ち着けって……そんなに時間はかからないから
それくらい待てるよなお嬢様」

千代をなだめて落ち着かせる。

「お嬢様って……むぅ……急に何なんですか
こういう時だけ」

頬を膨らませてむすっとした顔をする千代。

「ほらこの頬には何が詰まっているんだ
そんなに膨らませていると可愛い顔がもっと可愛くなるだろう」

千代の頬を片手間につんつんと触りながら語り掛ける。
そんな事をしているものだから、千代の顔は少し不機嫌そうだ。
その不機嫌そうな顔を横目に出かける準備を続ける。

まぁ用意する荷物なんてものはない。
寝ぐせのすごい髪の毛を整えたり、顔を洗ってすっきりしたり、トイレを済ませたり。
身支度を整えていく。
特にここに持ち込んだものもないので、その辺りは気にしなくていいな。
使えないスマートフォン。使えない通貨の入った財布。
免許なんてものはここでは何を証明するものでもない。
ここで捨ててしまっても構わない代物だ。

だがここで捨ててしまったら色々とまずいかもしれない。
だから自分のものは手元に置いておくのがいいだろう。
まぁ最初からそうしているから今更それについて確認する必要はないだろう。

「さて僕の準備は終わったぞ
部屋を出るとしようか
部屋の鍵は……これか」

気が付いたら千代はそこにはいなかった。
部屋の鍵を持ち、部屋を出る。
千代はもう先に部屋を出て、部屋の前で待っていた。

「お待たせ千代
気が早いな……別に部屋の中で待っていても良かったと思うんだがな」

部屋の鍵を閉めながら千代にいう。

「遅いですよ
それなりに待ちましたよ
さぁ行きましょう」

千代はまたスタスタと先に行ってしまった。
またおいて行かれるのか僕は……。
置いて行かれないように後をついて行く。

まぁここは人が居ないから見失う事もない。
それに着物をきた女子に置いて行かれるような事はないだろう。
思った通り千代の足はそこまで早くない。

すぐに千代に追いつき横を歩く。

「流石にこんな何もない所では迷ったりはしないのですね」

昨日からほんと僕に対して冷たくないか……。
こんなただの廊下で迷っていたら、方向音痴なんてものじゃない。

「何だ千代……昨日からなんだか辺り強いじゃないか……
何があったんだ……何か僕悪い事したのかな……
昨日聞きづらかったから聞かなかったんだけど……
今聞くことでもないか……いや今聞いておいた方が後々遺恨を残さないだろうしな……」

昨日からの機嫌が悪い千代に聞いてみた。
ほんとに今聞くような事ではないと思うんだが、今聞いたら空気が悪くなるしこれからのテンポが悪くなりそう。
けどなぜか今聞いておかないと、後々後悔しそうだし、色々おさまりがつかないかもしれない。
自分に何かしたという自覚というか……そんな感覚はないんだが。

「別に何もないですよ……
そんなに機嫌が悪そうに見えますか……そんなに悪くないと思うんですが……
むしろ機嫌がいい方だと思います
こんなに聡を罵倒できるんですもの……ふふっ……」

千代はなんだか別の意味で機嫌がいいみたいだ。
だがいつもの千代ではないのは確かなのだ。
罵倒されるのは悪くないが、そうではないんだ。
優しい千代が僕は好きなんだ。
いや別に今の千代が嫌いという訳ではない。
そうではないのだが、ちょっと踏み込んで何があったのか確認したくなる。

「いや……明らかに機嫌が悪そうに見えるんだが……
罵倒されるのは悪くないんだが……いや何でもない
今のは忘れてくれ……けど本当になにも無いんだな
嘘ではないんだな
ここで嘘をつかれたら僕は泣いてしまうかもしれないぞ
ほら泣いてしまうぞ……いいのか」

僕はウソ泣きをするがごとく、手を目に当てて千代の反応を待つ。
こんなことで千代は動揺しないだろう。

目を開けて千代の方に目を向けてみると、あたふたとして慌てている。
こんなのに引っかかるなんて、本当にちょろいとしか言えない。

「えぇぇ……聡
え……私どうしたら……」

なんというかここまで素直に引っかかると、こっちが申し訳なくなってくる。
引っかかると思っていなかったからこれから先の事を何も考えていなかった。

「おいおい……そんなに慌てるなよ……
そんなになるんだったら最初から話してくれよ……
そんなに話したくないものなのか」

千代の頭を撫でながら聞いてみる。

「別にそんなことはないのですが……
ただ私だけ……バカみたいじゃないですか……
なんでわかってくれないんですか……
なんでそんなに優柔不断なんですか……
なんでそんなに鈍感なんですか……
なんで……なんで……
私だけ胸を締め付けられるような感覚になって……
苦しいのですよ……辛いのですよ……
まるで独りよがりで一人芝居をしているみたいな感覚で……
なんで前みたいに……」

相当千代は何かを抱えているみたいだ。
そんなに僕は優柔不断だったか……。
鈍感だったか。
僕はしっかりと千代を見ていたつもりなんだが、何か足りなかったのか。

「急にどうしたんだよ……
そんな事急に言われても……何も分からない
もう少しかみ砕いて分かるように話してくれないか……」

冷静に千代に問いかける。

「何でここまで言って分かってくれないんですか……
そんなわからずやな聡なんてもう知りません……
いつまでもそこで止まっているといいんですよ」

その場でうつむき地団駄を踏んでいる千代。
わからずやと言われても、言ってくれないと分からないこともある。

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