記事一覧
【創作大賞2024 恋愛小説部門】甘く、酸っぱく、君らしく #4【最終話】
――二十年後
『わたしの将来の夢は、パティシエールです。わたしの家は、ケーキ屋さんです。お父さんとおじいちゃんが、毎日ケーキを作っています。お母さんとおばあちゃんは、おいしいコーヒーや紅茶を淹れて、お客さんに出しています。
わたしが、パティシエールになりたいと思ったきっかけは、お父さんとお母さんの、昔のお話を聞いたからです。お母さんが、中学校を休んでいたとき、お父さんがお見舞いにケーキを持って行
【創作大賞2024 恋愛小説部門】甘く、酸っぱく、君らしく #3
三日ぶりの学校、教室は、もう知らない場所のように感じた。確かに背中は押されたが、それで全てを乗り越えられるわけじゃない。今日は登校できただけでも上出来じゃないか。教室でひとりぼっちになる自分を想像して、気分が落ちていく。愛奈にも、合わせる顔がない。
「やっぱり今日は、保健室に行こっかな……」
教室に行くのを諦め、人の流れに逆らうように振り返る。すると、後ろから愛奈が歩いてきた。一瞬、緊張が走る。
【創作大賞2024 恋愛小説部門】甘く、酸っぱく、君らしく #2
「じゃあ、お母さん仕事行ってくるね。ゆっくり休んで。何かあったら連絡してね」
「……うん」
これは仮病だろうか。仮病でもなんでもよかったのだから、この問いに意味はない。私は、布団を頭まで被って目をつむった。お母さんが車のエンジンをかける。出発すると音は遠ざかっていく。静かになった部屋で、私を笑う声だけが耳にこびりついていた。気持ちがずんと下がっていく感覚があった。
お母さんが作ってくれた朝ごは
【創作大賞2024 恋愛小説部門】甘く、酸っぱく、君らしく #1
小さい頃からお母さんと通っているケーキ屋さんがある。そのケーキ屋さんは、家から歩いて通える場所に佇んでいる。この町の雰囲気によく馴染む、水色の屋根をした小さなお店『スイーツ サトウ』。パティシエのおじさんと、その奥さん、数人の従業員で切り盛りしている。一人息子の佐藤章くんは、私と同級生だ。たまにお店で顔を合わすことがあった。
佐藤くんと、初めて同じクラスになったのは小学校五年生の時だ。教室で顔