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【小説】わたしを、知って。

わたしに「本当の友達」なんて人はいない。

だからといって、人間関係に困っているわけではない。

私をいつも優しく気にかけて、困ったときは声をかけて話を聞いてくれる先輩や、私を尊敬し、大好きだと言ってくれる可愛い後輩もいる。

みんなが大好き、大好きなんだ。

でも、私がみんなを知りたいと思う気持ちや、大好きな気持ちを超える勢いで「わたしのこと」に興味を持ってくれる人は、いない。

でも、これはただの期待。エゴなんだ。

わたしのことを知って、なんてことを言うけれど、そんなわたしは「わたしのこと」をどれだけ知っているというのだろう。傲慢だ。

そんな、いかにも自分のことを知っています、と言っているような自分が気に食わない。腹が立つ。虫唾が走る。

別にね、わたしのことを知ってもらいたいと思っているわけではないよ。だって、わたしは、相手と話すことで自分を知って、相手を通して「自分」というものを伝えているもの。

世間一般の人は「言葉にしないと伝わらない」っていう言葉の意味を、履き違えてると、わたしは思うんだ。わたしは、その違いに気づいている。

だから、わざわざ自分のことを語ろうなんて思わないの。


この世界には、自分のことについて、いかにも知っているように淡々と喋る人がいるけれど、よくそんな嘘で固められた言葉を、いとも簡単に吐き連ねられるな、と感心してしまう。

だけど、こんなわたしにも、興味を持ってくれて、話を熱心に聞いてくれる人はときどきいて、心がじわじわ〜っ!って暖かくなるような体験をする。

でも、そんな体験をしたあとの夜は、

やっぱり寂しくて、悲しくて、心が締めつけられて。わたしは、だれかに話を聞いて貰いたいんだなって、いやでも自分の弱さを痛感する
んだ。

わたしのことを本当に知っているのは、本だけだと、小さい頃からずっと思ってきた。

わたしは、本を"読んでは"いない。読書というものは、本を私たちが読むという行為ではない。本が私たちの話を聞いてくれる、そんな行為のことを「読書」と言うのだ。

誰にも分かってもらえない、寂しい気持ちや、悲しいようなわけの分からない感情。

読書だけが、そんなわたしの心に大きく空いた複雑で歪な穴を、少しずつ塞いでくれる。

そう。本がわたしを知ってくれるから、べつに誰かにわたしのすべてを知ってなんていまさら思わないんだ。


人を信用することを諦めてる。
そんな自分に、また絶望する。

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