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泣きたくないからここに来た

言葉には強さがあると思う。送り手と受け手、感じる強さは全く違う。何気なく言われた言葉に傷ついてしまう。安易に発してしまった言葉を後悔する。相手の表情が見えないと、自分の言葉の強さが分からない。だから、顔も知らない相手を傷つけて、傷つけられている。それがSNSであり、現代に生きるわたしたちの宿命でもある。

ラブホテルの記事を書いたことがある。今まで書いた中で、一番触れてもらっている記事。ずっとプロフィールに固定していたけれど、もう今のわたしには必要ない、と思えた時に固定を外した。そんな記事を、今でも読んでくれる人がいる。不器用で上手に表現できない、それでも頑張って書いている過去のわたし、恥ずかしいような、もう戻ることのできない感情が懐かしいような。

記事にコメントをくれる人がいる。通知が目に入った瞬間、noteを開く。嬉しい、でも、あえてすぐには返事をしない。言葉をゆっくりと噛みしめて、わたしの一部にする、そしてようやく、ありがとうございます、と言える。たまに、感情が高ぶってしまう時がある。それには早く返事をしたい、だからこれを書いている。

ラブホテルって、他に比べてそんなに特別かなあ、って。たしかに。わたしは他の人に比べると、あまりホテルに泊まったことがない、のかも。しかも、ラブホテルと普通のホテルだったら、ラブホテルを利用した回数の方が多いかもしれない。だから、上手く比較はできないけれど、たぶんそもそもわたし、ホテルが好き。その中でも、特別な用途で使う場所、だから、ラブホテルが好き。一緒に行く人との関係性が大事になる場所。大人の場所。女の子同士で行った時も、悪いことをしている気がして、いい意味でドキドキした。入口の四角いパネルも、無料のドリンクも、顔の見えない従業員さんも、たいてい冷蔵庫の横にある押してはいけないボタンも、いつも使うことのないおもちゃも、丸見えのお風呂も、全部、全部、特別に感じられる場所。なにも特別ではないかもしれないけれど、心の部分で、特別に感じられる場所。そういうことを書きたかった、けれど伝えられなかったことが、少し悔しい。

ラブホテルに行ってしまった人から連絡がくる。もう必要ないから、と連絡を切れる人、だったらよかった。どうしても関係を切れない、職場の人だったり、同じ学校の学生だったり、いつも行くお店の人だったり。近ければ近いほど困る、は本当だった。学生のうちに遊んでおける、という言葉は、「失敗してもいい」の裏に、「今ならまだ逃げられる」が含まれているのかもしれない、と思いながら、就職先を大学からなるべく遠い場所にしようと考えていた。

人に言えないことが増えてしまうのは苦しい。なんでも話せる、話題を選ばなくていい関係、だから居心地が良い、なのに言えない、何を言えなかったか、忘れて口を滑らせてしまいそうで、こわい。この恐怖と闘うことに飽きて、もういいや、と口を開く、そうすると余計な言葉までこぼして、わたしはまた一人反省会。強くなろう、わたし。

最近は、悲しいことばかり数えている。悲しいことが、同時に押し寄せて、どこか満たされなくなってしまった。あなたは必要ない、と言われている気がした。頑張れなかったわたしのツケが回ってきた。

悲しみが押し寄せる夜。ひとりにはなりたくない、と思っていたら、運よくだれかが傍にいてくれた。後輩が苦手だと言いながら、器用にパスタを口に運んでいた彼は、あそこのお店のパスタを食べてみたい、とわたしが言ったことを覚えてくれていた。決して強くはないのに、弱さを見せない強さを持っている人だと知った。いつもお世話になっているバーの店長、話を聞いてくれるけれど、彼の信念に反することははっきりと否定する、目と目を合わせて真剣に言葉を交わしてくれる、相変わらず好きで、輝いていた。ひさしぶりに会えたことが嬉しかった、変わらない強さが羨ましかった。人が大好きなのに、言葉を交わせば心が細る。だれにも会えないと、言葉が生まれない、かといって、刺激が強いと臆病になる、むずかしい弱さを、抱え続けている。むずかしくしているのは、わたし。

優しさには、いろんな意味がある。一緒に居てくれた理由は、純粋な優しさか、興味か、下心か。その判別ができないぐらい、心が弱っているのに、涙の一滴も流れない。今日飲んだレモネードはとても美味しかった、なのに、ぬるくなった途端、急に安っぽくなってしまった。胸の奥が熱いうちにその気持ちを残しておかないと、もう同じ温度、同じ強さの言葉が残せないのと一緒だった。

泣きたくないからここに来た。今夜もわたしは泣かない。悲しみをここにおいた、わたしはまた、明日を生きる理由を見つけた。





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