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Jリーグ 観戦記|サッカーの弾力|2021年J1第21節 横浜FC vs 川崎F

 ニッパツはサッカーと僕との間にある距離を縮めてくれる。ピッチからほとばしるみずみずしさが毛穴から体内へと吸収される。光り輝く空気に染められ、緑色の舞台は浮かび上がる。

 家長は磁石のようだ。強靭な肉体は相手を引き寄せる。機を見て右から中央、中央から左へと流れ、梃子のように攻撃の起点を作り続ける。人とボールの掌握。それはサッカーの原理だ。不純が取り払われた環境で見る家長のプレーは至福の時間と表現できる。

 気のせいだろうか。ニッパツのピッチは狭く感じる。その中で横浜FCは機械のように動き続ける川崎の選手たちに懸命に対応した。その姿は自分たちの城を守る戦士を思い起こさせる。ミスから失点し、華麗なカウンターも轟いた。しかし、手の届く距離で眺める攻防は未知なる海底へと誘うように、この競技の奥深き魅力へと観客を引き入れる。

 身体の向き。目線。ターン。ボールなき局面の一挙手一投足を視線が追った。「前を向くこと」がどれほど大事で、違いを最終的にもたらすのかを選手たちの動きは雄弁に物語る。時計の針のように、シミッチは身体を相手のゴールへと向ける。チクタク。ボールと人を動かしながら、その動きは音を奏でる。

 狙撃手のような小林悠。ピッチ上の隙間を見つけて、そこにボールを通す中村俊輔の技術。すべてが合わさり、贅沢な時間を作る。ボールの蹴り方によって変わる衝撃音。漆黒の夜に舞うボール。身と身の摩擦。選手たちの叫び。ニッパツで拝むサッカーには弾力がある。色味がある。触ることのできるサッカー。「臨場感」はそういった言葉で換言できるのかもしれない。

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横浜FC 0-2 川崎F

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