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Jリーグ 観戦記|沸騰の赤|天皇杯 JFA 第101回全日本サッカー選手権大会決勝 浦和 vs 大分

 イヤホンを外し、外界に耳を馴染ませる。世界とつながった気がした。都営大江戸線の長い階段を上る。見上げた先に浦和の意匠が掲げられていた。国立を支配する、赤き信奉者たち。眼に飛び込んできた色に釣られるようにして、体温が高まっていく。

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 栄誉を懸けた最終決戦はアジアへと線を結ぶ。浦和は存在すべき場所への帰還。大分は片野坂知宏とともに築いた六年間の集大成を飾る。確たる戦術を持った両者の対決に胸は高鳴り続けた。

 関根が大分の守備を切り裂く。間隙を縫うようにして江坂の先制点が決まった。左サイドに広がるスペースを席巻する明本。時に前線の中央へと侵入し、大分に混乱を生じさせる。それを鎮めんとばかりにボールを引き寄せる下田。ディフェンスラインへと下り、サイドにも身を移す。荒んだ波が穏やかさを取り戻すような配球だ。

 ゴール裏の赤い壁へと大分は立ち向かう。浦和は引いて構える。伊藤、小泉、柴戸、関根が中盤を隙間なく埋めていく。柔軟であり堅牢。時に一本の線となり、時に四角形を結ぶ。タッチラインで身を屈める、リカルド・ロドリゲス。浦和と大分の選手たちを同じ視座で見つめながら、指揮者のように守備をオーケストレートしていく。

 一進一退の攻防が続く。ミスの場面が脳裏に蘇ることはない。澄み渡る早朝の気配。穢れなき夕景。そんな雰囲気を彷彿とさせる、凛とした試合。決勝を振り返り、その思いが込み上げる。職人の手によって作られた時計のように、大分の守備が瓦解することはなかった。その精緻さが得点の期待値を高めているように思えてならない。コーナーキック。セットプレー。大分が手にする好機には得点の匂いが漂い、ペレイラの同点ゴールはそれを具現化した。

 試合は振り出しに戻った。しかし、北サイドスタンドから打ち鳴らされる太鼓と手拍子は鳴り止むことがない。彼らの勇姿を見つめたのは初めてではない。しかし、この日、この瞬間に実感したことがある。彼らの意気や気迫は選手に負けずとも劣らない。陳腐に聞こえるかもしれないが、それは「応援」ではなく「支援」である。僕はそう感じた。実際に試合の趨勢に影響を与える。ピッチと客席に隔たりはあるが、チームが一体となっているような感覚を味わった。

 後半終了間際のコーナーキック。柴戸のダイレクトボレー。槙野のヘディング。揺れるゴールネットとゴール裏。熱湯の中で上昇し続ける気泡のように、浦和の選手たちは走り回る。ゴール裏は赤く沸騰していた。

 勝敗はそこに存在する。二分された世界の中で、そう表現することは間違っているかもしれない。しかし、この熱戦は美しかった。チームを去る者たちが、彼らの手で最後の軌跡を残す。その軌跡を見つめながら、純度の高い満足感に浸った。

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浦和 2-1 大分

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