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呪縛からの解放

 強い日差しに照らされたカイザースラウテルン。歓喜に沸く、サッカルーズ。そして、悲嘆を映す青き侍たち。明るい世界の中で、黄と青の対比は鮮やかであり、激しい悔恨を僕の内に残した。忘れられぬ傷。その傷を癒す旅は二〇〇六年から始まった。

 二〇〇七年と二〇一一年のアジアカップで勝利した。しかし、内なる感情が浄化されることはなかった。ワールドカップの舞台で生まれた傷。それは、ワールドカップでしか癒すことはできない。最終予選で繰り返される接戦。二〇〇九年のメルボルンでは敗れ、舞台を横浜や埼玉に移しても、日本はオーストラリアを相手に、勝利を手にすることはできなかった。

 二〇一七年の八月。その日は夏の終わりが香り、空に橙と藤色が溶け合う。ハリルホジッチがピッチへと送り出した戦士たち。その中に本田圭佑と香川真司はいない。眼前で展開されるサッカーはどこまでも実践的であり、新たな時代の訪れを僕に感じさせた。

 乾と浅野は蓋を閉じるように猛然とプレスを仕掛ける。主を失ったボールを中盤で狩る井手口、長谷部、山口。浅野のボレーはゴールネットを静かに揺さぶり、井手口のミドルシュートは美しい弧を描きながら、オーストラリアのゴールに突き刺さった。観客が作り上げる青き波。その波に身を任せた。

 高らかと鳴るホイッスル。十一年の時が過ぎた。その音色はカイザースラウテルンの呪縛から僕を解き放ってくれた。

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