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アダム・カヘン『それでも、対話をはじめよう』出版を機に、ファシリテーターとしての自身の探求の旅路を振り返る

アダム・カヘン著『Solving Tough Problem』の新訳版書籍『それでも、対話をはじめよう』が手元に届きました。尊敬する世界的なファシリテーターの原点の書籍の復刊、とても嬉しいです。

今年1月には、アダムさんにとって5冊目の書籍となる『共に変容するファシリテーション(原題:Facilitationg Breakthrough)が出版されており、何年も時間を共にしている友人と、また親しく交流が始まったような温かい気持ちが湧き上がってきています。

今回は、アダムさんの第一冊目の書籍の新訳版である『それでも、対話をはじめよう』出版を契機に、アダム・カヘンさんとはどのような方か、私自身は彼やその書籍とどのように関わってきたのかについて振り返りつつ、まとめてみようと思います。


アダム・カヘン氏とは?

アダム・カヘン氏(Adam Kahane)は現在、人々が最も重要かつ困難な問題に対して共に前に進むことを支援する国際的な社会的企業であるレオス・パートナーズのディレクターを務められています。

レオスは、互いに理解、同意、信頼がない関係者の間でも、最も困難な課題に対して前進できるようなプロセスを設計・ファシリテーションを実施し、アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカ、オーストラリアなどでセクター横断的な対話と行動のプロセスの支援を実践されています。

これまでに出版された5冊の書籍はいずれも邦訳されています

カナダ・モントリオール出身、ミドルネームをモーセ(Moses)というアダム・カヘン氏は、1990年代初頭にロイヤル・ダッチ・シェル社の社会・政治・経済・技術に関するシナリオチームの代表を務め、その頃に南アフリカの民族和解を推進するシナリオ・プロジェクトに参画しました。

以降、これまでに世界50カ国以上において企業、政府、市民社会のリーダーが協力して困難な課題に取り組むプロセスを整え、設計、ファシリテーションを行なってきた第一人者です。

1993年、後にU理論(Theory U)、Uプロセスを発見することになるジョセフ・ジャウォースキー氏(Joseph Jaworski)オットー・シャーマー氏(C.Otto Scharmer)らとジェネロン社での協働が始まった他、

学習する組織(Leraning Organizations)で有名なピーター・センゲ氏(Peter Senge)の立ち上げたSoL(Society for Organizational Learning)として登壇するなど、現在の組織開発における様々なキーパーソンとのコラボレーションを行なってきた人物でもあります。

SoL(Society for Organizational Learning)とは?

SoL(Society for Organizational Learning)は1997年、MIT(マサチューセッツ工科大学)の組織学習センター(Center for Organizational Learning)の取り組みを受け継ぐ形でピーター・センゲ氏によって設立されました。

SoL(Society for Organizational Learning)は現在、世界中で活動している地域コミュニティを取りまとめるグローバル組織として存在しており、日本にもコミュニティであるSoLジャパンが活動を継続しています。

SoLジャパンはSoL(Society for Organizational Learning)に認定された地域コミュニティの1つであり、「学習する組織」の原理、わざ、および実践の普及促進と、その実践に務める学習者のネットワークづくりを行なっています。

アダム・カヘン氏との出会い

アダム・カヘン氏は今の私を形成する上でのキーパーソンの1人です。
まだファシリテーションというものに出会って間もない2013年。友人の1人が『手ごわい問題は対話で解決する(原題:Solving tough ploblems)』という書籍を紹介してくれたことが、アダム・カヘン氏とのご縁の始まりです。

本当に、タフな問題を「対話」で解決できるの?』と紹介してくれた友人は語っていましたが、そこに書かれていたカヘン氏の事例やプロセスは衝撃的なものばかりでした。

また、2014年には氏の3冊目の著書となる『社会変革のシナリオ・プランニング(原題:Transformative Scenario Pranning)』が出版され、その際に東京で開催された出版記念ワークショップの会場で初めてお目にかかりました。

後に、私が京都を拠点とするhome's viに所属してからも、メンバー同士や組織を超えた研究会などで何度も話題に出ては、意識し続けてきた存在です。

ティール組織×アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎というテーマの場での一場面

現在の私は、一人ひとりが働く上で、生きる上で自らの能力・ポテンシャルを最大限発揮していける組織づくりを生業としていますが、その中では対話の場づくりではなく現場での行動を重視するべき局面や、全会一致を待たずにオペレーションに踏み出すべきタイミングも時折発生します。

プロジェクトや組織のライフサイクルやプロセス、実現したいゴール、目的、参加しているメンバーなどさまざまな要素に照らした時、必ずしも対話は必要とはなりません。

必要に応じて使い分ける知恵や、対話という手段がいつ必要かを見極める洞察の大切さを、アダムさんの書籍や語りからも影響を受けてきたように思います。

2023年、再びアダム・カヘン氏の叡智に巡り逢う

私自身、昨年からアダムさんの4冊目の書籍である『敵とのコラボレーション(原題:Collaborating with the Enemy)』を読み返しながら、対話と協働が最善の手段ではなく、数ある人との関わり方の1つであるという認識と理解を深めていたところでした。

また、今年1月には先述の『共に変容するファシリテーション(原題:Facilitationg Breakthrough)が出版され、本書を活用したABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)という読書会にも連続で参加していました。

さらに、今年3月にはアダムさんが来日され、自身の経験から編み出された変容型ファシリテーション(Transformative Facilitation)およびラディカル・コラボレーション(Radical Collaboration)についてのプログラムを実施されていました。

来日前、個人でメッセージもいただいていたのですが、これは嬉しかったですね。

このように昨年末あたりから今年にかけてアダムさんの書籍やご本人と再び巡り合うようになり、本日7月20日には氏の1冊目の著作である『Solving Tough Problem』が『それでも、対話をはじめよう』として新訳出版されました。

対話は本当に、困難な問題を解決できるのか?

ここからは、改めて本書を手に取ってみて感じたこと・思い出されたことを、備忘録的に書き残していきたいと思います。

何よりまず、これまで書き連ねてきたように、アダム・カヘン氏は私にとって尊敬するファシリテーターであり、世界中で実践を重ねてきた先駆者です。

この方の第一作目の書籍が英治出版によって新訳出版されたこと、そして、新訳版の翻訳および解説を(有)チェンジ・エージェントの小田理一郎さんに手かげていただけたことは、とても嬉しく感じています。

旧版は『手ごわい問題は、対話で解決する』というタイトルであり、パートナーに紹介されたのがアダム・カヘン氏の書籍と出会ったきっかけでした。

ファシリテーション、あるいはファシリテーターというものが世の中に認知され始めてしばらくですが、『本当に難しい問題を、対話で解決するなんてできるの?』というのが、出会った当時の課題意識でした。

現在、国内でファシリテーターが活躍している場面はどのような場面が浮かびやすいかというと、会社のミーティング、イベントやワークショップといった現場が想像しやすいかもしれません。

しかし、人が集まると時に激しい対立や、力の不均衡による弾圧や虐待といったことも起こりえます。それは意識的、あるいは無自覚に発生します。

私自身がファシリテーションに始めて触れた頃、想定していたのはそのようなどうしようもない状況の中で、それでも人との関係をより良くしていきたい、一人ひとりが大切で尊い存在として扱われる場をつくっていきたい、という状況でした。

一触即発の関係の中でより良い未来をつくるためにファシリテーションを行う、激しい対立がある中も一度それらを脇に置いて、所属や互いの立場を超えて繋がり、大切にしたいものを共有する…対話にはそれだけの可能性はあるのか?というのが、本書の旧版を知った当初の私の考えでした。

大学では理論物理学と数学を学び、ロイヤル・ダッチ・シェル社の経営企画コーディネーターの仕事に従事していたアダム・カヘン氏は、ある日、南アフリカでのあるプロジェクトに関わることとなります。

当時、白人優勢の独裁的なアパルトヘイト政権から、民主主義的な政権への移行が模索されつつありました。

アダム・カヘン氏は国の未来を左右する重要な関係者たちと共に、シナリオ策定プロジェクトにファシリテーターとして参加し、立場を超えた人々の集う場をファシリテートしました。

参加者の中には、互いに敵同士であったり、命を狙われる関係性にあった人々がいた最中で、です。以降、世界中の様々な現場に足を運ぶようになります。

この事例を知った時、私にとってはファシリテーターやファシリテーションのそれまでのイメージが覆され、本当に困難な場に立つ人のあり方や、集合的な知恵の可能性を感じることができました。

以降、アダムさんの3冊目の本の出版記念プログラムに参加したり、今年3月に開催された来日企画にもお伺いする等、継続的に彼の仕事を追っていましたが、こうして再び新訳版に出会えるのは本当にありがたいことです。私自身も、初心に返ることができました。

個人的に、アダム・カヘン氏はダイアローグのフレームワーク化にも卓越した才を発揮される方だと感じています。

人と人が当たり障りのない会話から、生成的で本質的な対話へ移行する4段階や、人々が今の世界で直面している3つの複雑性なども一例です。

こういったお話も、是非この本を手に取られる方とご一緒していけると嬉しいです。

今後、毎月開催予定の読書会の候補本にも入れていこうと思います🌱

参考リンク

アダム・カヘン氏講演録「共に変容するファシリテーション」

今年3月の来日時、アダムさんが語った『共に変容するファシリテーション』に関する講演録です。

小学生から大人まで、これからの時代に身につけてほしい技法! 伝説のファシリテーターが提唱する「変容型ファシリテーション」とは?

NewsPicks Educationに掲載された、翻訳・小田理一郎さんのインタビューです。本文中では、『共に変容するファシリテーション』について紹介されています。

アダム・カヘン氏講演録:社会システムに変容をもたらすためのラディカル・コラボレーション: 愛・⼒・公義に取り組み、「共に」「前へ」「進む」

今年3月に来日されたアダムさんが語られた、ラディカル・コラボレーションに関する講演録です。

ラディカル・コラボレーション7つの実践

(有)チェンジ・エージェント代表の小田理一郎さんによる、ラディカル・コラボレーションに関する解説です。





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