【日本一周 京都・滋賀編25】 見知らぬ人とじゃんけんぽん
・京極スタンドでの珍事 筆者:明石
閉館ギリギリの18時までミュージアムショップにいたものだから、四条河原に着く頃には19時をとうに回っていた。時短営業の影響ではやく閉まる店が多いことは、京都随一の商店街である新京極や寺町通りにおいても例外ではない。
昨夜に身をもって知っていたにもかかわらず、またもや食いっぱぐれるところであった。京極通りに位置する居酒屋兼定食屋「京極スタンド」がギリギリ開いていて、すぐさま駆け込んだ。
ラストオーダーギリギリに牛ステーキ定食を2つ注文してやっとこさ一息ついた。店内は3人がけの丸テーブルが3、4個と、僕たちの着席した天然石の長いテーブルが並んでいる。それぞれの島からはジョッキ片手に上気した顔をつきあわせた人々の笑い声が轟いていて、こちらの気分も自然と高揚してきた。
やってきた定食は「ステーキ」の名前に似つかわしくない和風な染付に乗せられていて、実家の夕飯を前にしたような温もりを感じた。今までも、これからも撮り続けるだろう「旅先でのご飯を前にした男」の写真を記録してからお肉を頬張った。うむうむ、地元のいきつけのレストランのラムステーキみたいなニンニクの効いた味つけが美味しい。牡鹿ソースも使っているのかしらん。
コンビニ飯に比べてはるかに幸福度の高い食事に満足し、お会計をして店を出ようとしたそのとき、向かいの卓にいたおじさんおばさんがじゃんけんしようと誘ってきた。何がなんだかわからぬままおばさんに挑んだ僕は負けてしまい、今度は尾道がおじさんと戦い、これには見事、尾道が勝利した。
するとどうやら、おじさんが僕たち二人の夕飯を奢ってくれると言う運びになり、僕らは威勢よく「ご馳走様です!!」といって店を出た。突然の出来事に店を出たあとになって笑いがこみ上げてきて、京極通りの真ん中で二人して大笑いした。
あとになって写真を見返してみると、定食と尾道のツーショットに奢ってくれたおじさんが写っていたことがわかった。また、よくよく見てみるとそのおじさんは一人で来た客だった。おばさんたちに絡まれて僕らを奢る羽目になったようで、少しばかり同情しつつ、深―く感謝した。
・タダ飯 筆者:尾道
濃密な芸術体験を経てすっかりクタクタになった頭を揺らしながら、銭湯錦湯に向かう。途中、明石の提案で、導線上にあるという社に寄ることにした。なにやら、愛読する森見登美彦の小説に登場するスポットらしく、信楽焼きのたぬきが祀られていることで有名らしい。
栄えた街並みをひとつ抜けた先にある柳小路の中腹に目的の「八兵衛明神」はひっそりと鎮座している。社には、多くのお札…ではなくステッカーが貼られており、この場にふさわしい御守り然としたものから、本来であればクラブの壁とかに貼られていそうな、ヒップホップ的デザインのものまで多種多様だ。神棚の足元には話通り、大小のたぬきが数体並んでおり、どいつもでっぷりとした腹と乳を垂らしながら、間の抜けた表情をしている。かわいい。
同じくここ京都には、信楽焼きのたぬきが無数に生息する、もの珍しい神社「狸谷山不動院」があるという補足情報を明石に教わり、銭湯へ向かった。
Google MAPと睨めっこしながら、道中のアーケード街を歩く最中、突如として「20時までに夕飯を済ませなければならない」という、コロナ時勢特有の縛りを思い出した。時刻は既に19時半前。2人して焦って周辺の飲食店を検索し始めた。飲み屋が多いこのアーケード街で、ご飯処を見つけるのにやや手こずったが、少し戻ったところにある「京極スタンド」なるお店で、お酒以外に定食も頂けることが判明したので、時計を確認しつつ急ぎ足で向かった。
ラストオーダー3分前に滑り込みの入店。所狭しと張られた壁のメニューや、年季の入ったテーブルやカウンターから醸し出される昭和の雰囲気は、この店が長きにわたって地元民に愛されていることを雄弁に語っている。(吉田類が訪れた際の写真が飾ってあったことも証拠と言える。)
おばちゃんに「牛ステーキ定食をふたつ」と伝えると、続けてアルコール注文の有無も聞かれ、こういう場所にも関わらず注文しないことに忍びなさを感じたが、要らないものは要らないので素直に「大丈夫です」と伝えた。嫌な顔をしないでくれたことに感謝。
ガーリックソースがきいたサイコロステーキをぱくりといただいて、白飯をかきこむ。土壇場で見つけたとは思えない、パーフェクトな飯に満足を抱いている最中、ふと入り口に目をやると、ラストオーダー時刻を過ぎてやって来たお客さんが、追い返されている様子が見えた。自分たちも、もし先ほど盲目的に銭湯に行ってようものなら、昨夜に続いて2日連続、夕飯難民になるところだった。あぶないあぶない。
お会計間際、左斜め前のテーブルで、”出来上がった”様子の女性2人が、ひ弱そうな男性に威勢の良い口ぶりでなにやら話しているのが見えた。そのうち片方の女性と目が合うと、「良いことあるから、この男の人とじゃんけんしてみな」と声をかけられ、言われるがままに、明石と自分、各1戦ずつ行った。先鋒の明石は敗れたが、次鋒の自分が彼を下した。どうやらその席では、女性の提案の元、「あそこの青年(すなわち自分ら)にじゃんけんで負けたら、お代をもってやれ」という、その男性にとってのメリットが皆無な命令が出ていたらしい。
私の勝利を確認すると、女性は「ごちそうさまって言って出ていき!」と一言。思いがけぬタダ飯を享受した。
・メンバー
明石、尾道
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