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ショートストーリーまとめ。

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【小説】毎週ショートショートnote&シロクマ文芸部&他短編小説。400〜2000字程度。
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記事一覧

毎日超短話561「桜回線」 #毎週ショートショートnote

毎日超短話561「桜回線」 #毎週ショートショートnote

「声は一瞬で届くのに、桜前線はゆっくり北上するね」

開花宣言はまだ出ていないけれど、チラホラと桜が咲きはじめている。そのことを遠距離恋愛中の恋人に話そうと、電話をかけた。彼女の町に桜が咲くのはまだずっと先のことだ。

「ほんとだよ、声は一瞬なのにね。俺前線も一瞬で北上できたらいいのになあ」

ぼくがそう返事をすると彼女は、「一瞬で来れたら困るから」と笑った。浮気でもしてるんじゃないの? って冗談

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毎日超短話510「青赤写真店」 #シロクマ文芸部

毎日超短話510「青赤写真店」 #シロクマ文芸部

「青写真と赤写真、どちらにいたしますか?」

フィルムを現像してもらおと写真屋に行くと、そう聞かれた。普通に現像してもらいたいのだけど、看板に「青赤写真店」と書いてあったのを思い出す。

「えっと……」と戸惑っていると、「青写真は未来を、赤写真は過去を願っているように現像できます」とにこやかに写真屋は案内する。

確かこのフィルムは少し前、母の写真を撮った。入院している母親が映っているはずで、青写

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毎日超短話496「雪化粧」 #シロクマ文芸部

毎日超短話496「雪化粧」 #シロクマ文芸部

雪化粧するかなあ。と彼女が言って、そうだねえとぼくは答えている。空からは今まさに、雪が降り出したところだ。

「あたしさ、アイスバーンを滑るの得意でさ、学校行くとき密かにタイム図ってるさ」

雪化粧よりも、アイスバーンになるのを彼女は期待しているようだった。明日雪が積もったら、とぼくは言う。

「コーラをばら撒いて、コーラバーンにしてみない?」
「なにさ、それ。それで自己新出たら、ドーピングだわ」

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【カバー小説】足が速いOL 原作:椎名ピザさん

【カバー小説】足が速いOL 原作:椎名ピザさん

こちらの小説をアレンジカバーさせて頂いてます↓

あいつは仕事が遅い。わたしはまわりからそんな陰口を言われているみたい。仕事が遅いのは自分でも自覚をしているし、まわりから言われるのも仕方がないとは思っているけど、遅いのは仕事だけじゃないんだよなあ。

ランチでもまわりよりも遅く食べ終わる。早口で同僚たちは、次の選挙でどの政党が良いとか悪いとか、今やっている4年に一度のスポーツの祭典で日本がメダルを

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【短編】ジャムとカレー

【短編】ジャムとカレー

新しい顔だよ、と言われて受け入れるのはアンパンマンくらいだと思う。アンパンマンではないわたしは、「新しいお父さんだよ」と言われても、その人がジャムおじさんにしか思えなかった。以来、その人を「ジャムおじさん」と心の中で呼んでいるわけだけども。

そのジャムおじさんに、今朝はイライラをぶつけてしまった。昨日の残りのカレーを食べながら、ジャムおじさんは、ソースをかけたのだ。

「一晩かけたカレーはおいし

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毎日超短話439「詩と暮らす」 #シロクマ文芸部

毎日超短話439「詩と暮らす」 #シロクマ文芸部

詩と暮らすようになって4年が過ぎようとしている。2年目のころは饒舌で、詩は小説になった。3年目になると詩は散文になり、短歌になり、俳句になり、川柳になり、今は単語になった。時が経つたび会話が減っていくのは、そろそろ潮時ということか。愛は四年で終わると誰かが言っていたし。

「また詩になってほしいから、別れよう」

と、切り出すと詩は「うん」と頷きだけした。それから両手を忙しくなく動かした。

あな

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毎日超短話433「バクタクシー」 #シロクマ文芸部

毎日超短話433「バクタクシー」 #シロクマ文芸部

「逃げる夢が追いかけてくるんです」と、お客さんが言い出す。タクシー運転手の私からすると、おそらく酔っているのだろうと思い、そうなんですね、と当たり障りのない相槌を打つ。

「どうしたらいいですか?」との問には「止まったらいいんじゃないですか」と答える。

「止まったら、追いつかれてしまって、怖いんです。逃げるのを追いかけるのが楽しいのに」

「よかったら、食べましょうか、その夢」

そう言うと、お

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【短編】チーズケーキ #シロクマ文芸部

【短編】チーズケーキ #シロクマ文芸部

誕生日にはチーズケーキと決まっている私の家系に生まれた娘。 彼女の誕生日もチーズケーキでお祝いするのは当然のこと。1歳になった娘に、夫は言葉を漏らす。

「あと何回チーズケーキを食べたら、この子は家を出てしまうのかな」

生まれたころに父親を亡くし、母親の手で育てられた私には「父親」という存在がよくわからない。

「父親って、 そんなことを思うんだ」
「そんなことを思うのは、はじめてだよ」

そん

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ごはん侍×パンナイト #毎週ショートショートnote

ごはん侍×パンナイト #毎週ショートショートnote

ごはん侍が刀を抜いて、パンをおにぎりに変えたのを、ぼくは見た。そしたら今度は、別の侍、というか騎士がやってきて、剣を杖にして魔法をかけた。

「我はパンナイト。今日は休日ではないか。優雅な朝はパンと決まっておるのだよ、さあ、パンと牛乳を食したまえ」

と、おにぎりはまたパンに変わった。

「何をする! この子は大和の子であるぞ! パンで侍になれるものか!」

と、ごはん侍が、またパンをおにぎりにし

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毎日超短話407「忍者ラブレター」#毎週ショートショートnote

毎日超短話407「忍者ラブレター」#毎週ショートショートnote

卒業式の次の日に手紙が届いた。クラスメイトの服部くんからだ。まったく寝耳に水といった感じで、なんだろうと思いながら封を開ける。読んでみると、それはどうやらラブレターのようだと気が付く。

が、しかし、出だしがまずおかしい。「お主の気持ちには応えられぬ」である。いやいや、わたし、あなたへの気持ちは特にないんだけど、と心でツッコむ。

《お主が3歳の時候、拙者に大きくなったら結婚しようと言われたが、そ

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【短編小説】りんご箱に梨 #シロクマ文芸部

【短編小説】りんご箱に梨 #シロクマ文芸部

りんご箱が転がっている。誰のものかわからないけれど、きれいな箱だ。そこに入っているのはなぜか梨。それを手にとって見つめて、箱に戻す。

晴れていても陽の当たらない、校舎の裏。ここには花壇がある。こんなところに植えても花なんか咲かないだろ、俺はそう思う。視線の先にはバスケットゴール。雨の中には、誰もいない。君以外は。傘も差さずに濡れていた。それを見つけた俺は、君に歩み寄り、傘に入れてあげたんだ。君は

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【短編小説】秋桜と落ち葉 #シロクマ文芸部

【短編小説】秋桜と落ち葉 #シロクマ文芸部

「秋桜って、なに?」

と、5歳の娘に聞かれる。秋と桜の漢字が読めるのかと驚きつつ、「それはコスモスって読むんだよ」とぼくは答える。娘が持っているのは、「秋桜」という曲の入ったCDだ。借りていたんだっけ、あの子に。とぼくは思い出す。

キタジマアキとぼくは、中学三年間だけの付き合いだった。恋人としての付き合いではなく、たまたまクラスがずっと同じだっただけ。だけど三年間ずっと、ふたりでクラス委員を務

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毎日超短話393「ソレ」 #毎週ショートショートnote

毎日超短話393「ソレ」 #毎週ショートショートnote

中学のときは学年1位も取ったことあるんだよ。という話を、誰かに会うたびに「ソレ」は言っている。その話をしすぎて、それを知らない他のソレたちはいないくらい。

高校に入ってからのソレは、まるで中学のころの面影はない。なにしろまだ一度もテストを受けていないのだ。学年1位だったその年の最終テストで見事な失敗をした。それがトラウマになっている。

校長先生のお話です。と、生徒会長がアナウンスする。校長先生

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【童話】ウサギのバイク

【童話】ウサギのバイク

 そのウサギの成長は、まわりのウサギよりもたいそう遅いものでした。まわりのウサギが野原を颯爽とかけぬけていくとき、そのウサギはまだ、前足と後ろ足を交互に出すのに必死でした。そのスピードはカメと同じくらいなので、そのウサギはみんなから「かめきち」と呼ばれました。

「かめきち、今日はどこまでいこうか?」

 かめきちは、カメと仲良しでした。同じ速さで歩いてくれるので、いつでもいっしょでいられたのです

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