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「直感」文学

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「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
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2018年12月の記事一覧

「直感」文学 *思い出の……*

「直感」文学 *思い出の……*

 あの人のこと、たまに思い出してしまう。

 思い出したくなんてない。

 ……嘘。本当は思い出したいのかもしれない。

 でも……。

 思い出してしまって辛くなるのは、私。

 だから思い出したくないのだけど、それでも、思い出してしまう。

 どうしたら、

 あの人のこと、

 完全に忘れてしまうことが出来るのだろう。

 もう、絶対に、

 思い出さないように、なれるだろうか。

 辛いの

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「直感」文学 *「夢の中で消えようよ」*

「直感」文学 *「夢の中で消えようよ」*

「夢の中で消えようよ」

 夢の中にいる僕に向かって、サユキはそう言った。

 「消えるってなに?」

 僕はただ、あまり深い意味も考えずにそう問いかける。
 その言葉にどんな意味が込もっているのか、暗に潜められた真実は何なのか。そんな事いちいち考えてもいられない。だってこれは夢なのだから。

 「ひとつ聞きたい」

 サユキは僕の目を真っ直ぐに見つめ、言葉を続けた。

 「もしかしてこれを夢だと

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「直感」文学 *初めてのネタ見せ*

「直感」文学 *初めてのネタ見せ*

 「笑えません」

 ネタを見せたのは初めてだ。今目の前にいるのはミツキだけだというのに、彼女は真っ直ぐに僕の目を見てそう言った。
 
 何の躊躇もなく、ただ真っ直ぐに筋の通った意見だった。

 「え……えっ?」

 僕はただ彼女のその反応に後ずさりして、口はおぼろげに開くだけなのだ。

 「それは〝ネタ〟というほど、優れたものではないですよ」

 大学の後輩であるミツキが見せろとせがんだからしょ

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「直感」文学 *2つ目の睡眠*

「直感」文学 *2つ目の睡眠*

 2度寝って、なんでこんなに気持ちいいのだろう。

 と、僕はいつも思う。

 2度寝の気持ち良さを、1度目の睡眠に使うことは出来ないのだろうか、と思ったりしてみたり。

 でも、その快感を一度目の睡眠に味わうことは出来なかった。

 何度それを試みようと思ってみても、それはそう容易いことではない。

 だから僕はいつも、目的の時間よりも15分早くに目覚まし時計を鳴らし、”確信犯的な”二度寝をする

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「直感」文学 *遠回しな口実*

「直感」文学 *遠回しな口実*

 「風邪をひいたの」

 彼女からの電話を取ると、唐突にそのように告げた。

 「あ、うん、え?大丈夫?」

 僕は唐突にそのように返し、どの動向を伺う。

 「ううん、風邪をひいたの」

 彼女はそれを繰り返すばかりで、それ以上先に会話を進めようとしない。

 「あ、うん……」

 僕は曖昧な返事を返す。核心から遠ざかるように、遠ざかるように。

 「え?聞こえてる?私、風邪をひいているの」

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「直感」文学 *どこにもない音楽を*

「直感」文学 *どこにもない音楽を*

 「多分、俺の思考回路って一般的なんだよ。ものすごく一般的で、メジャーなんだけど。俺はそんな自分がすごく嫌なんだよな。……俺はそれを一生懸命に避けようとしてる。そうならないように、意識していないと、そうなってしまいそうで」

 音楽を創り出すものの気持ちは、僕にはもちろん分かるはずもない。ただ、もしかしたら創作をする人の気持ちは分かるかもしれない。

 「マイノリティを一番左側に持ってきて、マジョ

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「直感」文学 *10月の憂鬱*

「直感」文学 *10月の憂鬱*

 10月は、私の中で一番気分が落ち込む月だった。

 月の流れがどうだとか、肌寒くなる季節だからとか、人肌恋しくなる季節だからとか、そんなことはどうでもよくて、

 ただなんとなしに、……そう、理由もなしに、

 ただ寂しさをひしひしと感じてしまう月なのだ。

 
 「10月はいつだって滑稽だからよ」

 母の言葉は何の説得力もなく私に投げかけられて、そしてそこにどういった意味があるのかも分からな

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「直感」文学 *喧騒の間*

「直感」文学 *喧騒の間*

 夜の新宿に繰り出したはいいものの、僕は特にやることを見つけられずにいる。
 そもそもなんでここに来たのだろう、と疑問に思うが、家にいることでなんだかんだと溜まった鬱憤が、ただ無条件に僕を新宿に向かわせたことに理由を与えることの方が難しかった。
 週末の新宿は人がごった返し、様々な人間模様が伺える。きっとそれぞれに皆何かを抱え、それを一時でも忘れたいからここに来るんじゃないかと思えた。

 じゃあ

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「直感」文学 *救われることに何を覚えて*

「直感」文学 *救われることに何を覚えて*

 救われる度、一つ、私の何かが欠けていくような気がする。

 それがなんなのか、未だ私には理解出来ていないけど、なんだかそんな”欠けていく感じ”はいつだって私を包み込んでいて。

 どんな救いだってそう。彼がご飯を奢ってくれたり、友達が私の話に笑ったり、家族が一人暮らしの私の家に野菜を送ってくれたり。そんな些細な事柄で、私はちょっとずつちょっとずつ欠けていく。
 欠けていった先、私はどうなってしま

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「直感」文学 *傷心と言葉*

「直感」文学 *傷心と言葉*

 「そんなに落ち込むことなんてないじゃないか?たかが一人の女に振られたくらいで。女はいくらだっているだろう?なあ?そう思わないか?そのうちのたった一人との恋仲が終わったくらいでなんになるって言うんだよ。そんなの考えるだけ無駄。落ち込むなんて正真正銘の馬鹿だよ。それなら早く次の相手を探すために街へ出ろよ。それでナンパだってなんだって、とにかく新しい繋がりを作ればいいんだよ。ほら、よく言うだろ?女を忘

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