【ビブリオバトル日本一がガチで30日間本紹介してみた】5日目『金閣寺』
正直にいうと、この本をどう紹介すればいいのか全くわかりません。
ただ、この味わったことのない読後感をどうにか他の人にも伝えたい。いや、実際に体験してほしいと願わずにはいられません。
これまでの人生で、今だかつて挑戦したことのない古典作品でのビブリオをしてみようと思います。
どうぞお楽しみください。
美とどう向き合うか:『金閣寺』
あなたは何を美しいと感じ、その美しいものをどうしたいと感じますか。
ある人は自分のものにしたいと思い、ある人は遠ざかりたいと思い、そしてまたある人は破壊したいと思います。
今回紹介するのは、近代日本文学を代表する傑作の一つ。三島由紀夫作『金閣寺』です。
この本の主人公は溝口という学僧です。貧しい寺に生まれた彼が金閣寺の美に憑りつかれ、最後はそれに放火するまでの経緯を告白の形で綴った作品となっています。
美に取り憑かれて放火?と首を傾げるかも知れませんが、私も最初は全く同じことを考えました。Cause(原因)とEffect(結果)がなんともマッチしていないといいますか、「金閣寺を美しいと思うこと」と「金閣寺を燃やしたいと思うこと」の繋がりが全く見えなかったんですね。
しかし、この本を読み進めていくにつれて、どうして彼がこんなにも愛した金閣寺を「燃やしてしまいたい」と思うようになったのかが少しずつ見えてくるんです。ただ、それは簡単に一文で明かされるというような陳腐なものではありません。
少年・溝口の人生を追いながら、各所で現れる彼の美的観念と醜悪なものへの嫌悪を見ていくうちに、少しずつ「That’s why(だから彼は)」と読者は自ずと結論を自分で導き出す形になります。
『金閣寺』あらすじ
「幼時から父は、私によく、金閣のことを語つた」という一文からこの物語は始まります。
主人公の溝口は僧侶である父から、「金閣ほど美しいものはない」と何度も聞かされて育ちました。そうして幼少期の彼の頭には地上最高の美としての金閣寺が描かれていきます。
ここで大事なのは、当時の彼は金閣寺を見たことがなかったということです。ただ心の中に、父から繰り返し聞く金閣寺の話から美しさを思い描いていただけでした。
やがて溝口は金閣寺に学僧として勤めることになるのですが、その時に初めて金閣寺を目にした彼は、こう思うわけです。
「心の金閣寺ほどは美しくない」と。
これまで父の話を聞いて育ってしまったばかりに、心の中で作り上げた金閣寺というのは現実をはるかに勝るものだったんですね。
ただ、ここで溝口はもう一つの視点から美というものを見ます。
戦時中を生きる彼が、いつ無くなるかもわからない金閣寺の運命を考えた時、その儚さを自身の境遇と重ね合わせてそこに激烈な美を見出したんです。
ここがすごい:三島由紀夫の描き方
三島はこの作品において、美への愛と執着、そして得体の知れない恐ろしさといったアンビバレントな感情を精密に描き抜いています。
この本のテーマの一つとして、三島は「犯罪の形で表れる若者のプロテスト」と言及していましたが、こんなにもデリケートなトピックをここまで描きぬくのは圧倒的な文才を持つ彼にしか成し得ないことです。
こう三島が語る通り、この『金閣寺』という作品は作者自身が人生で感じ、乗り越え、味わった全てのものを注ぎ込んだものとなっています。
だから、一文一文が力強く光っているんです。
どの場面を見ても、他の小説では出会えないような緻密な文章ばかりで、ここでしか味わえない文学体験があると確信しています。
近代文学の教科書
文芸評論家である中島健蔵氏は、『金閣寺』をこのように評価しました。
近代文学において稀代の傑作と呼ばれるこの作品を、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
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