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一圓@吉祥寺のジャンボ餃子withライスの話をしたい

昨夜、めちゃくちゃ頑張って次回公演の告知記事を書いた

今年5月に吉祥寺にある武蔵野公会堂での上演が決まり、夢を持ってとても楽しく準備している話です(もしよろしければ是非↑も覗いてみてくださいませ)。
本公演に寄せておさとの書いた、「懐古の音が春を呼ぶ。」という美しい書き出しから始まるストーリーを改めて見直すうち、私もひとつ懐古話を書こうと思い立ったのだ。

吉祥寺という街は私にとってちょっと特別だ。小さい頃から、理由はその時々で異なれど割とずっと縁あって通っていたので思い出がそこかしこに詰まっている。あまりにも吉祥寺が好きすぎて、帰り道に途中下車して散歩しまくっていた時期すらある(その当時、「私は吉祥寺で呼吸をしている…つまり吉祥寺は肺」などと宣っていた)。

そんな吉祥寺にかつてあった、一圓という餃子屋さんの話だ。こう書くともう終わってしまったようだが、予め申し上げますと本店がビル老朽化のため店舗営業を終了し、テイクアウト専門店が吉祥寺におけるメインになったので全然まだそのおいしさはありがたいことにこの世界に存在している。しかしあの趣と味が積もり積もったお店がなくなってしまうのは、なんだか少し寂しいのだ。

そのお店はずっとあった。もうずっと。私が吉祥寺を訪れるようになった頃には既に大人気店で、ひっきりなしに店頭でも店内でも湯気が立ちのぼり餃子を求める人々が列をなしている。調べてみたら創業40周年を越えていらっしゃる老舗であった。外観だけで美味しい餃子を食べられる気配がするような雰囲気を醸し出していてたまらない佇まいだったのでずっと興味を持っていたものの、人気店で行列がすごかったことと、この人出なら恐らくはこの先よほどのことがない限りお店はあり続けると思ってつい来訪を先延ばしにしていた。

そんなある夜のこと。天啓を受けたように私は平日夜なら一圓の餃子を並ばずに食べられるのでは?と思い立ったのだ。なぜこの発想に至らなかった?不思議なくらいだ。そしてどうせ夜に出かけるイレギュラーをやるならもっとやりたい。というわけで映画を観た後ジャンボ餃子とライスをキメるコースを夫に提案、私と同じく健啖家の彼に二つ返事で承諾をもらった。

そして当日。めちゃくちゃ頑張って仕事を終わらせ、あえて吉祥寺の映画館でシン・ウルトラマンを観た。どうせ童心に帰って餃子を頬張るなら特撮を見ようと決めたのだがこれがまた良かった…からの、満を辞して迷いない足取りで向かった我らが一圓。頼むのはもちろん餃子、ライス付き。無類の麺好きの夫はラーメンと餃子を頼んだ。

ぎっしりとしたカウンター席。蒸気の音。古いけど清潔な建物にピカピカなキッチン。そして…とても良い香り。お店に入って初めて知ったのだけど、餃子といえば?という投げかけに対して恐らくは少なからぬ人がビール!とお答えになるようなこの世において、一圓はビールを置いていなかった。純粋に餃子そしてライスを冷たい水を飲みながらいただく、そんなストイックな場所なのであった。たまらない。

そして出てきた餃子の、その佇まいときたら…とにかく大きくてプリンプリン、小気味良い焦げが一層香りを華やかにする。箸でツ、とつつくと肉汁がドウと出てきて慌てるくらい。頬張るという単語がよく似合うとはこのことだろうという大きさの餃子にタレをつけて一口食べると、もう視界は天国だった。おいしすぎる…のだ…。その甘美なる一口を味わい尽くして食べるホカホカの白米の、これまた美味しいことったらなかった…熱を帯びた口に冷たい水が心地よく、次の一口にするりと向かえてしまう。大食いの私でもおっと、と思うくらいの量であったが瞬く間に食べ終わってしまった。具だけでなく愛とプライドも詰まっている、そんな一皿であった。夫曰くラーメンも素晴らしかったらしい。イマジナリーいわゆるラーメンというような雰囲気の、スタンダードで真面目なラーメン。こだわりを感じつつ時折顔をのぞかせるジャンキーな風味がクセになるとのことだった。

ああなぜ、先延ばしにしていたのだろう。

しかし初めてを乗り越えると次からは心の余裕と愛を以て向かうことができる。また来るのが楽しみだね、と言いながらその日はお店を後にした。

その1ヶ月後である。2022年10月末でお店を閉め、テイクアウト専門店にて営業されるという知らせを風の便りで聞いたのは。

ああなぜ、先延ばしにしていたのだろう。

同じセリフを全然違う気持ちで思った。もっと早く来ていればもう数回味わえたのに。一度でも巡り会えたならご縁があったと思ってよいはずだが、しかし胸が痛んだ。あの夜私と同様に胸をときめかせながらラーメンを啜っていた夫も大変悲しそうな顔をしていた。

閉店前にもう一度行こうと再訪した際も相変わらず美味しくて、それがとても寂しかった。

万物流転、諸行無常、推しは推せる時に推せとはよく言ったもの。変わらぬものなど一つもないこの世界の中で、刻々と変化するお互いが巡り会えた奇跡というものの価値を、私はときに忘れてしまう。当たり前などなく、変わらないものなどないということに気がつくのが別れの時なこと、多すぎ。

共にコンサートをやる呼ぶ女たちも幸いなことにずっと仲良しでものづくりを行えているが、端的に言えばその状況奇跡すぎる。なんならこんな世界で普遍的に愛されてるモーツァルトの曲たちも奇跡。全部がふしぎだ。

一圓さんがこれからも美味しい餃子を作り続けてくださる奇跡に感謝しますし、お店とは異なる形でもこの先も美味しい餃子を食べられることに感謝。変わり続けるこの世の中で変わらず美味しいということの凄みを、また味わいに行きます。

一圓さんの餃子、大好き。

そしてついでのようになってしまいましたがこちらでも、吉祥寺を愛する私が所属する創作集団のコンサートをお知らせさせてくださいませ🙇‍♀️

『ふたりの女-アロイジアとベーズレ-』

【開催概要】
日時:2023年5月14日(日) 13:00開演
会場:武蔵野公会堂ホール(吉祥寺駅 徒歩3分)
料金:自由席 ¥3,000 中学生以下¥1,000
出演:近藤眞衣(ソプラノ )佐々木暁美(メゾソプラノ)辻真理恵(ピアノ)
アートディレクター:山口菜月
ドラマトゥルグ:遠山夕立
照明・舞台監督:八木清市

企画・制作:呼ぶ女 

助成:アーツカウンシル東京
※本公演は、新進芸術団体による芸術創造活動の一環としてアーツカウンシル東京様のスタートアップ助成を得て開催されます。古典作品の再解釈、映画を思わせる美術など、音楽・美術・文芸それぞれの視点からモーツァルトを読み解き独特な声楽コンサートの形として昇華させる演奏会です。

【呼ぶ女Profile】
2021年6月に結成された芸術家集団。2022年4月に山口県にて初公演『ふたりの女-愛されたモーツァルト-』を上演。モーツァルトの作品から生まれた2人の女性像を克明に描き、表現力及び徹底された世界観に大きく好評を博す。

たくさん食べて、5月に向かって頑張ります!

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