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『写真で描写』シリーズ

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撮った写真から思いついた小説っぽい一節。想像できるような、できないような。いつかこの続きを書く。#写真で描写
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#描写

写真で描写『これがいい』

写真で描写『これがいい』

 おしゃれなカフェでくつろぐのもいい。高級フレンチレストランでのディナーもいい。テーマパークで一日中遊ぶのもいい。
 動物園も、水族館も、美術館も博物館もいい。
 二人だけの時間が長くなるドライブも、温泉宿も最高だよね。

 特別って、探せばいくらでもある。

 だけど、きみとの一日は特別じゃないことも大切で、やっぱりこれがいいなって思った。

 近所のチェーンでお昼を食べて、すぐに帰らず少し遠ま

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写真で描写『遊ぶ』

写真で描写『遊ぶ』

 家の近くには、小さな公園がある。

 彼と二人で散歩をする時にいつも立ち寄る場所だ。ここはわたしたちのお気に入りの場所だった。なんてことない、ただの公園。何をするでもなく、すみっこにあるベンチに座って同じ時間を過ごす。

 思えばわたしたちは座ってばっかりだ。家のソファーにも、浜辺の石段にも。横に並んで座るのが、きっとわたしと彼の遊び方なんだ。
 わたしはそれが好きでたまらない。時間がゆっくり流

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写真で描写『変わること』

写真で描写『変わること』

 こういう景色、あと何回二人で見られるんだろうね。

 そういう話をして、この季節が何回過ぎたんだろう。あの時から変わらない景色を、僕はあの時から変われないまま、懲りもせずに考えている。

 あぁ、でも。

 あの時よりも、今の景色の方が綺麗なのかもしれない。とにかく、僕は君と一緒にいることができなかった。

 前に進もう。前を向こう。そう思って歩き続けてきたはずなのに。

 考えることを放棄して

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写真で描写『通りすぎる』

写真で描写『通りすぎる』

 つい先日まで夏服を着ていた気がする。
 なんだか寒くなってきたな、と思っていたら、いつの間にかコートを着て町を歩くようになっている。

 そうやってあっけなく季節が過ぎていくんだよな。わたしは気づけずに、置いていかれる。
 毎日毎日、一日一日を過ごす。一生懸命になって、時々立ち止まって、そんなのを繰り返す。気を抜くと秋の風に吹かれて枯れてしまう。

 いつもそう。
 わたしは秋が過ぎるのに気づか

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写真で描写『ふさぎこむ』

写真で描写『ふさぎこむ』

 近頃ずっと外に出ていなかった。

 だからなのか、なんとなく生活の勝手が分からなくなっている。道を行く人も、車も、電線の鳥も、自分より少し先の時間を進んでいるような、そんな感じがする。いや、自分が置いていかれただけか。

 刺激がないから面白みがない。どんどん心が腐っていくから、少しの刺激じゃ面白みを感じない。何もしちゃいないのに、何かに飽きてしまった。

 それにしても、空ってこんなに暗かった

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写真で描写『隣の景色』

写真で描写『隣の景色』

 自転車の帰り道。

「先に行ってよ」って言われるから、仕方なく前を走る。気になって後ろを向くと「ほら、危ないよ」と怒られる。

 道の幅は狭い。だから一列になるのは仕方がない。それでもこうしてずっと背中側ばかり見せていても、やっぱり仕方がない。

 君と横に並ぶのに必要なのは、道の幅か。それとも勇気か。

 景色はまだ、遠くて広い。

――――

 ちょこっと加筆して、もう少し小説っぽくしたやつ

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写真で描写『二人の物語』

写真で描写『二人の物語』

 コンビニでアイスコーヒーを買って、浜辺で海を見ながら過ごすのがわたしたちの定番になっていた。石段に並んで座って、なんでもないことばかり話す。コーヒーを飲み終えても、氷が溶け切っても、日が暮れるまでおしゃべりをした。ずっと座っていたせいで体がカチカチに痛くなって、二人して笑った。
 日が暮れると手をつないで家に帰る。暗くなった道で、誰もいないからとキスをした。ご飯を一緒につくって、お酒を飲みながら

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