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「東京科学大学」誕生がもたらす、医学界へのインパクト【医学部入試キホンのキ】

こんにちは。代ゼミ教育総研note、編集チームです。

【医学部入試キホンのキ】連載2回目の今回は
2024 年 10 月に統合する大注目の新大学
🏫 “東京科学大学”🏫 をピックアップします!

理工学分野の東京工業大学、医歯学分野の東京医科歯科大学。
名門2校の根底にある共通点や統合後の可能性について、奥村直生主幹研究員に語っていただきました🎤



意外な共通項に、イノベーションの息吹きを予感

来たる 10 月 1 日、“東京科学大学(Institute of Science Tokyo)”に統合される、
東京工業大学と東京医科歯科大学。

両大学には、もともと意外な共通点があることを、
みなさんご存知でしょうか。 

それぞれ、理工学分野、医歯学分野に特化した大学として最高峰に君臨する名門ですが、実は、教養教育やリベラルアーツを大切にしてきた大学でもあるのです。理系・メディカル系の大学同士が、リベラルアーツを共通項としているのは、ちょっと意外な感じがしますね。
しかし、この融合が、新たなイノベーションの息吹きを予感させることになるのです・・・

医療界にも新たな風を吹かせることになるのか・・・ 


【東京工業大学】和田小六が打ち出した教養教育

東京工業大学には、大学全体における教養教育の拠点として「リベラルアーツ研究教育院」が設けられ、学部生、大学院生に対する教養教育を一手に担っています。

1881 年、東京職工学校としてスタートした東工大。
その後、1890 年「東京工業学校」、1901 年「東京高等工業学校」と改称が行われ、1929(昭和4)年に「東京工業大学」となりました。

第二次世界大戦の最中、第 3 代学長に就いた和田小六(1890 - 1952)は、東京帝国大学の第二工学部との軋轢もあり、戦時中から戦後の大学には抜本的な刷新が必要なことを考え始め、終戦直後に示した大学改革の方針「東京工業大学刷新要綱」を発表しました。

東工大のリベラルアーツの源流です。

「つまり、東工大の戦後改革の柱をなしたのは、第一に、日本の大学で牢固たるタテ割りの壁となってきた専門領域ごとのの学科を廃し、大学の研究教育組織を横断的な体制にすること、第二に、新しい人文社会科学系の講座を、「高い識見と深い教養を持つ技術者」育成にとって不可欠との考えから大幅拡充することだった」

『大学は何処へ 未来への設計』吉見俊哉著、岩波新書 104Pより

欧米への留学経験を持つ和田は、米国マサチューセッツ工科大が当時すすめていたリベラルアーツ・カレッジへの転身を参考に、東工大の新たなビジョンを描いた、というわけです。

そして、この取り組みは、その後、我が国における画期的な大学改革の一つとして語り継がれることになるのです。

理工系の将来を担う若者たちにこそ、幅広い視野と倫理感を養う教養教育が大切、というわけですね。アカデミアも不毛な戦争に巻き込まれていった戦前の日本の大学教育に対する深い反省の念が込められているのでしょう。

そこから、東工大のリベラルアーツ教育は、錚々たる教授陣によって脈々と受け継がれ、2016 年にはリベラルアーツ研究教育院が発足しています。
理工に特化した学問研究を目指し入学してきた新入生たちはすべからく、まず、反語的ですが、人文社会系分野を含めたリベラルアーツ教育の洗礼を受けることになるのです。

「学院」が提供する 「理工系専門知識」という縦糸と、
「リベラルアーツ研究教育院」が提供する「教養」という横糸で、
東工大生の未来を紡ぎます。

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院HPより

【東京医科歯科大学】知識・技術だけでなく、倫理観、人を思いやるこころ

さて、一方、東京医科歯科大学について見てまいりましょう。

こちらも、教養教育を堅持し続けている大学として、知られています。
今となっては珍しい「教養部」が、附属病院や本部のあるお茶の水から遠く離れた千葉県の国府台キャンパスに、医学部医学科の学生のみならず他学科・他学部の新入生全員を集め教養教育を実践しているのです。

本学は、医学教育が医療の知識や技術を教えることだけではないと考えています。医療人に求められる倫理観とひとを思いやるこころを育み、幅広い教養と豊かな感性を備えた人間性の涵養を重要な使命と考えています。

東京医科歯科大学HP
東京医科歯科大学の特色、教育について より

東京高等歯科医学校を始原にもつ東京医科歯科大学は、歯学教育を皮切りに、戦時中に医学部が加わり、戦後、医歯系の総合大学として新制大学のスタートを切ったのです。
実は、教養部(はじめは「予科」)は新制大学に変わる前から構想されていました。

教養部の歴史はこちらに詳しく書かれています。

 


米国留学の経験を思い出し・・・

予科を創設した初代学長の長尾優氏( 1887 - 1975 )は、予科の教場となる設置場所が決まる際、このように語っています。

その時私はふと、私がかつてアメリカに留学していた時、フィラデルフィア郊外のある大学を見学し、その環境の良かったこと、全寮主義を採用しつつ、24時間の意義ある教育、特にいわゆる教養学方面に力を入れて、人作りに重点を置いていたある大学を思い出し、もしあのような意味で、新設予科をもてるならば、さしずめここに設置すれば、戦後退廃せる社会から隔離せるこの土地は、全く捨てたものでもあるまい、いや予科教育はかかるところにおくべきだ、との考えが油然と頭に浮かんできたのである。

東京医科歯科大学教養部HP
教養部の沿革 1)予科の設置より

東京工業大学の和田小六氏と同様、米国留学の経験から、教養の重要性を考えるようになったのは、興味深いですね!

ここで注目したいのは、同じ「教養部」といっても、東京大学をはじめとする旧制大学とは一線を画しているという点です。
旧制大学のように単に旧制高校や専門学校を抱え込んでできあがった「教養部」ではなく、何もないところに、教養教育を敢えて新規に導入したのです。そこに教養教育導入への並々ならぬ意志の強さを感じます

旧制大学は、戦後の学制改革により、不本意ながら旧制高校や専門学校をかかえ込みそれを教養部としました。それに対し、東京医科歯科大学における予科の発足は、本学を大学に昇格させるための出発点であり、そのために関係者の並々ならぬ努力がありました。予科は、出発点で、本学の大学昇格のための必要不可欠な組織と認識されたのです。規模の小さな組織とはいえ、教養部は本学関係者の努力によって望まれて生まれた組織でした。

東京医科歯科大学教養部HP
教養部について 教養部の沿革 2:東京医科歯科大学教養部の歴史より

こうして、予科からはじまった「教養部」は、組織としては、「医学部」「歯学部」と並列におかれているのです。
ここにも大学として教養教育を重視する姿勢が強く伝わってきます。
ちなみに、現在、全国国立大学で教養部の名を残しているのは、教養学部と名のつく東京大学や埼玉大学を除けば、”本学教養部ただひとつ”とのことです。


チーム医療の基礎から、人脈作りへ

東京医科歯科大の教養教育の特徴は、まず、医学部、歯学部の、どこの学部・学科に所属しようとも、すべての学生が一年間、一緒に教養教育を学ぶ、という点にあるでしょう。

もっぱら教養教育のためのキャンパスで、「多様な考え方に触れ、専門の領域を越えて将来に繋がるかけがえのない友人を得る」ことにもつながるわけです。将来、医療現場において求められるチーム医療や連携・協力につながる基礎的な経験を積むことだけでなく、人脈作りにもつながっていくことでしょう。

2 年生からは各学科に分かれ専門科目がはじまることになりますが、専門科目の履修と並行して、「人間への理解をいっそう深められるよう、2年次以降も、教養部が担当する授業科目が開講」されてもいるのです。
教養教育は新入生だけが受けるべきものではなく、専門教育と並行して履修してほしいとの信念がひしひし伝わってきます。


多くの大学から教養教育は消えたが・・・

かつては、ほとんどの大学で繰り広げられていた教養教育や一般教養科目。
しかし、高校の授業の延長として見なされたり、 “パンキョウ”と呼ばれ批判的に扱われたりした時期もあり、1990 年の大学の大綱化後は、ほとんどの大学が止めてしまったのです。

ところが、この 2 校――東工大と東京医科歯科大学は、決して教養教育の火を絶やすことをしませんでした。
両校の教養教育、リベラルアーツに対する思いがいかに強いのかを感じることができます。


新大学の強みに、リベラルアーツ

では、統合後、つまり 25 年春以降の 2 校のリベラルアーツ教育や教養教育はどうなっていくのでしょうか。
 
新設された東京科学大学の特別サイトの「Research and study」の冒頭には、「1+1>2 になる研究・教育」と題して、次のようなメッセージが掲載されています。

新大学が強みを持つ理工学や医歯学、さらには哲学・心理学・社会科学などリベラルアーツを融合、収れんさせ、新たなサイエンスを生み出します。このアプローチでは、加算( 1+1=2 )ではなく、収れん後に新しい学問領域を生み出す( 1+1>2 )ことで未知の課題を発見し、社会課題を解決していきます。

東京科学大学特設サイトより

やはり、新大学の強みとして、従来の専門領域だけでなく、「リベラルアーツ」も自ら掲げていますね!
そして、2 校のリベラルアーツを融合させることで、新たなサイエンスや学問領域を生み出す、未知の課題を発見・解決していく、というわけですね。

リベラルアーツこそが、イノベーションの源泉である、と言い換えてもよさそうです。

・   ・   ・

 そして、いよいよ両校の教養教育部門がコラボした取り組みも始まっています。

両校の伝統ある教養教育部門同士が、大学統合に歩調を合わせ、一緒にFD研修を始めた、ということです。和気あいあいとしたワークショップの様子から、ワクワク感が伝わってきますね!
新大学となり、どのようなリベラルアーツの花を咲かせることになるのか、とても楽しみです。


融合教育プログラム、大岡山DAY

そのほかにも、医歯学系と理工学系の学生が一緒に学ぶ授業「医歯理工融合教育プログラム」や期待されるサークル活動についてもアナウンスされています。

また、4~5月の週1日、「大岡山Day」を設け、共通科目を受講するとのアナウンスが発表されています。

■学士課程新入生対象「大岡山Day」の実施
上述の相互履修の一環として,2025 年 4 月以降に入学する学士課程新入生を対象に,入学直後の 4 月~ 5 月の週1回を,全員が大岡山キャンパスにて集い,学ぶ「大岡山Day」として設定する予定です。「大岡山Day」では,全新入生が共通の必修科目「立志プロジェクト」等を共に学ぶことなどにより,学院・学部の垣根を越えた相互交流を図っていただくことを目的としています。

東京工業大学HP
大学統合時の教育・学生生活について より

 


リベラルアーツの素地があるからこそ

2 校は、統合前に早くも、双方の研究者たちがタイアップをして、革新的な異分野融合研究の成果を発表する「東京医科歯科大学・東京工業大学マッチングファンド研究成果発表・研究交流会」もすでに開いています。

 かなり活発な動きに感じられます。
後日行われたアンケートでは、「多様な視点から現在の研究の展望を学ぶことができた」「同じ大学となり医工連携がさらに加速し、より発展的な研究となることに大きく期待する」など、参加者から多くの感想が寄せられました。

単なる統合ではなく、もともとリベラルアーツ教育の素地を持った 2 校の研究者たちですので、イノベーション誕生の可能性はおのずと高くなるのでしょう。

どのような画期的な研究が生まれるのか、注視したいですね!


医師の研究力低下改善へのヒントに!?

さて、国内の医学部教育や医師養成の分野では、昨今、とくに大学病院における医師の研究力低下が問題となっています。

要するに、大学病院の先生たちは、日々の診療に追われ、なかなか研究にまで手が回らず、モチベーションも下がっている、というわけですね。

その解決策については、文科省などの有識者会議などでもさまざまな検討がなされています。

しかし、学問研究の根っこには、研究者でもある医師たちに日々、イノベーションが起きるチャンスを与えることが不可欠でしょう。
単に研究時間の確保や労働負荷の軽減、待遇の改善等だけでなく、他領域との積極的な学際的交わりに、ヒントが潜んでるはずです。

この 2 校の統合が、両校の研究者の真の融合につながり、多くのイノベーションを生み出すことにつながれば、医療界にとっても新たな問題提起となるでしょう。 


リベラルアーツが原動力、潤滑油に

そして、決して忘れてはいけないのは、ここまで見てきたように、
「リベラルアーツ」が、その際の隠れた原動力や潤滑油になり得る、ということでしょう。

統合によってどれほどのエネルギーを周りに放出してくれるのか、
それが医学界に新たな変革のサジェスチョンを与えてくれるのか・・・

そして、何よりも大切なのは、
受験生たちに夢のある魅力的な選択肢となっていくのか・・・

大いに期待して見守っていきたいと思います。

✨  🏫 + 🏫 > 2 ✨


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教養教育、リベラルアーツについては「超えていく大学」マガジンの
「リベラルアーツ」に望みを託して(全6回)でも詳しく紹介しています!ぜひご覧ください👀

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