森田義貴

普段は東京杉並区で不動産屋をやっております。小説等、自作の作品を投稿いたしますので、ぜ…

森田義貴

普段は東京杉並区で不動産屋をやっております。小説等、自作の作品を投稿いたしますので、ぜひご一読よろしくお願いします!

マガジン

  • 小説『悪臭』

    ぼくは女を殺した。それはなぜか?

  • 一庶民の感想

    エッセイ、感想をまとめたものです。

  • はじめての恋愛小説

    初めて書く恋愛小説。その展開や如何に。

  • 小説 『長い坂』

    私小説。

  • 滴るような今を

    小説とエッセイの混合物

最近の記事

小説『悪臭』 5

 宮田と一緒に中野通りに面した豚骨ラーメン屋に行った。看板は黄色、博多とんこつラーメンと描かれた字は赤色だった。夜の中で目が痛くなるくらい光る店内灯。外へ豚骨の強烈な匂いが漂いでている。 「いらっしゃい!二名様ね」 頭に白いタオルを巻いた中年の店員が言った。服は黒、ゴムの黒い靴を履いている。入口に近い席にぼくらは座った。店内に客は他に三人しかいない。カウンター席に一人、テーブル席に二人。 「ねえねえ、何にします?」 宮田が話しかけてきた。 「えーっと」 パウチされ

    • 『一庶民の感想』20 つまんない人生

       つまんない人生だ。恋はいつだって一人咲きだし、気になるあの子からの返信は帰ってこないし、仕事もうまくいってない。昔からの友達は、順調に人生の駒を進めていて、同棲したり、起業したり、結婚したり、子どもができたりしている。自分だけが同じところをぐるぐる回っている。ここから抜け出したくてもがき続けているのに、足は絡めとられるばかりで、一向に抜け出せないし、抜け出せる気配もない。  叶えたい夢や目標も、叶えたい気持ちが強いものから順に遠ざかってゆく。続けるという言葉そのものが錆び

      • 小説 『悪臭』 4

         バイトに集中できなかった。ホールで宮田とすれ違うとき、彼女の剥き出しの足が想像されて、落ち着かない気持ちになった。宮田が視界に入る度に、性的興奮を覚える自分が恥ずかしかった。気持ちが悪いと思った。自分が男であることが、自分に性欲のあることが、なんだか罪のような気がした。客席にビールを持って行った帰り、宮田と目があった。彼女は微笑み、ぼくの胸は高鳴った。これを恋というのだろうか?経験のないぼくには、恋と性欲の区別がつかなかった。もちろん、愛など知る由もない。自然と宮田を目で追

        • 小説 『はじめての恋愛小説』 2 真理は決意する

           仕事帰りに近所のミニシアターで『恋する惑星』を見た。見終わって、清ニと別れようと決意した。  清ニは私に自分の部屋のエアコン修理を待っているように言った。業者が来るから、自分はいられないから、代わりにいてくれと。いつもそうだ。清ニはいつもそうだ。私を顎で使って、平然と当たり前のような顔をしている。清二の部屋の掃除、溜まった洗濯物、皿洗い、ときには料理まで、清ニの身の回りのことを私はいつもやっている。それでいて清ニは私にあまり関心がないみたいだ。話しかけても曖昧に返事をする

        小説『悪臭』 5

        マガジン

        • 小説『悪臭』
          5本
        • 一庶民の感想
          20本
        • はじめての恋愛小説
          2本
        • 小説 『長い坂』
          9本
        • 滴るような今を
          4本
        • 短編小説集
          4本

        記事

          小説 『長い坂』 第九話

           キッチンのガス台に薬罐をかけて湯を沸かした。白いマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れて、沸いた湯を注ぐ。コーヒーの香りが顔にかかったところで携帯電話が鳴った。居室に戻りテーブルの上にあるスマートフォンを手に取る。ディスプレイには山田明雄とあった。大学の時の同級生だ。電話にでる。 「もしもし?」 「ああ、時田久しぶり、山田明雄です」 「久しぶり、どうしたの?」 「久しぶりに飲もうかなと思って、ゼミの奴らも来るよ」 ぼくは法学部だった。大学三年時からはじまるゼミは民法

          小説 『長い坂』 第九話

          小説 『長い坂』 第八話

           平成のヒットソングをイヤホンで聴いていた。宇多田ヒカル、安室奈美恵、Mr.Children、槇原敬之、ZARD、木村カエラ、aiko、GLAY、L'Arc〜en〜Ciel…。子どもの頃に聴いた曲、小学生、中学生、高校生の時に聴いた曲、それらほどよく耳に残っている。懐かしい。アンダーグラフ『ツバサ』、チャットモンチー『シャングリラ』。  イヤホンをとってテーブルの上にあるコップを手に持ち、中にある水を胃に流し込んだ。ぼくは緊張していた。ここが自分の家ではないからだ。  心

          小説 『長い坂』 第八話

          『一庶民の感想』19 今がさびしいから

           失恋の傷も癒えた。過度に後ろ向きであることはなくなったが、通常運転の自分は基本的にネガティブだ。大きな恋がだめになった後、その傷をなんとか立て直す期間があって、それが終わればまた新しく、誰かを好きになるのだろうと思っていた。しかしどうやら違うらしい。  30歳を過ぎてしまえば、ときめきはなくなる。それはそれで良いのだけれど、ああ、もうこの先恋なんて、誰かを好きになることなんてないんだろうな、という確信に近い諦観が生まれる。  この先ずっと、一人で生きることに慣れなきゃな

          『一庶民の感想』19 今がさびしいから

          小説 『はじめての恋愛小説』 1 エアコン故障す

           みんみんみんみんみんみんみんみん、蝉が鳴いている。今年の夏も暑い。天気予報でやっていた、今日の最高気温は38度で、外へ出かける気もなくなる。年々最高気温が上がっているようだ。自分が子供だったころは、こんなに気温が高かったっけ?ここ最近夏になると清二は毎回のようにそう考える。こんな暑かったはずがない、そして毎回この結論に達する。清二は借りているアパートの窓をいっぱいに開けて、扇風機をつけて、おまけに左手に団扇、右手にソーダ味の棒アイスという格好だった。それでも、白い無地のTシ

          小説 『はじめての恋愛小説』 1 エアコン故障す

          『一庶民の感想』 18 無価値な自分へ

           疲れてしまった。自分で自分の機嫌をとり続けることに。自分で自分を慰め続けることに。自分で自分を励まし続けることに。自分と自分で話し続けることに。  自立、自律、依存しないこと、共存、共助、甘え、快楽、マスターベーション、セックス、気持ちの悪い30歳を越えた自分の視線、仕事、歯車、機械的に生きること、夢、希望、ドブ、裏切り、幸せ、家族、政治、経済、漫画、木漏れ日、雨、スタイル、服装、妄想…。  どうやら自立した個人に、自立した個人がくっつくというのは嘘だったらしい。この世

          『一庶民の感想』 18 無価値な自分へ

          小説 『悪臭』 3

           翌る日、大学の授業にでていると、和樹が話しかけてきた。 「この間はお疲れ」 「うん、お疲れ」 「美羽って子のこと、どう思う?」 「どうって?」 「その…拓真のなんなのかなってこと」 「セフレらしいよ」 「ふうん、セフレね」 民法の授業は退屈だった。眼鏡をかけた初老の男性教授がもごもごとしゃべっている。その声を大教室で聞いていると眠くなってくる。ぼくはあくびを一つした。初老の教授はしゃべり続ける。 「つまり、信義則というのは…」 和樹が続けた。 「しおりのことはどう

          小説 『悪臭』 3

          『一庶民の感想』17 社会という牢獄

           全くもって嫌な時代である。先日も17歳の少女が、21歳と19歳の若い女性に殺されたというニュースがあった。一昔前までは、若年層の犯罪、殺人は珍しいものだったが、今や当たり前だ。10代、20代の若者、少年少女が人を殺し、物を盗る、春を売る。時代は閉塞し、年々窮屈に息苦しく、もはや窒息寸前まで追い込まれている。  社会そのものが大きな牢獄と化している。しかも、段々と四壁の迫り来る牢獄だ。経済思想としていえばそれは、新自由主義の帰結である。国家が過度の自由化と市場の開放、小さな

          『一庶民の感想』17 社会という牢獄

          『一庶民の感想』16 政治家という仮面、大衆、庶民

           相変わらず日本政治が酷い。国民が重税と経済、財政政策の誤りによって貧窮に苦しむ中、自民党の幾人かの議員は、裏金を貰っておきながら党支部に寄付をし、所得税優遇措置を受けていた。また、ほとんど効果のない政治資金規正法改正案が衆議院を通ったりもしている。全くもって目も当てられない惨状だ。このままでは順調に日本は衰退し続けるだろう。  さて、テレビやインターネットで政治家の顔を見ていると、あれ?と思うことが多々ある。国会で答弁したり、記者会見で話したりするときの顔が仮面を被ったよ

          『一庶民の感想』16 政治家という仮面、大衆、庶民

          『一庶民の感想』 15 いつ死んでもいいのさ

           独身研究家の荒川和久さんによると、現代で最も幸福を感じていないのは、40〜50代の未婚男性であるそうだ。わかる気がする。中年の孤独ほど辛いものはない。また、そもそも孤独に耐え得る才覚を持った人間は少ない。YouTubeなどで検索をかけても、この年代の未婚男性のあげているvlog系統の動画からは、孤独と不満と絶望が透けて見える。一縷の望みをかけて婚活やマッチングアプリをやってみるが、当然成果はない。それどころか、自らの心を深く傷つけられて終わる。商業主義と全てが貨幣に換算され

          『一庶民の感想』 15 いつ死んでもいいのさ

          小説 『長い坂』 第七話

           35歳になった自分を想像してみる。きっとこんな感じだ…。  目が覚めた。スマートフォンに設定していた目覚ましを止める。体が重い。ついでに頭も重い。しばらくベッドでぼおっとしてから、おもむろに窓のカーテンを開ける。開かれたベッド脇の窓から光が差し込んでくる。太陽の光に目を細めた。欠伸をする。おはようと呟いた。返事はない。当たり前だ、ぼくは一人暮らしだから。ぼくが一人暮らしをはじめてから、もう何年経っただろうか?大学を出て、新卒で働きはじめてからだから、もう10年にはなる。こ

          小説 『長い坂』 第七話

          『一庶民の感想』 14 孤独を楽しめるわけなんかねえだろ

           孤独は楽しめない。原理的に孤独は楽しめない。極上の孤独や、自分の時間を確保するなどという技術としての孤独は、孤独とは呼ばない。技術としての孤独とは、単なるライフハックだ。普段喧しく周りから何かを言われているから、たまには、少しくらいは他者から干渉されない、何をやっても何にも言われない、そんな時間が欲しい、それだけの話だ。技術としての孤独は、人と触れ合っている時間が主であることによって支えられている。簡単な例をあげれば、結婚した夫婦がたまの休日にはお互いにばらばらのところへ出

          『一庶民の感想』 14 孤独を楽しめるわけなんかねえだろ

          『一庶民の感想』 13 孤独とともに生きる

           作家の中村うさぎさんが出演されている、インターネット番組を見た。その番組の中で中村さんはおっしゃっていた。 「孤独を解消するための結婚は、必ず失敗するわよ」 中村さんの実体験からでた言葉だ。恋愛にも同様のことが言えるだろう。ぼくの拙い経験から考えても、同意する。さて、中村さんは同じ番組の中でこうもおっしゃっていた。 「恋愛の99%は幻想でできている」 まさにそうだろう。若いときの自分の幼い恋愛を思い出してみればわかる。夢と期待がいっぱいに詰まったあの幻想が破れるとき

          『一庶民の感想』 13 孤独とともに生きる