森田義貴

普段は東京杉並区で不動産屋をやっております。小説等、自作の作品を投稿いたしますので、ぜ…

森田義貴

普段は東京杉並区で不動産屋をやっております。小説等、自作の作品を投稿いたしますので、ぜひご一読よろしくお願いします!

マガジン

  • 一庶民の感想

    エッセイ、感想をまとめたものです。

  • 小説『悪臭』

    ぼくは女を殺した。それはなぜか?

  • 小説 『長い坂』

    私小説。

  • 滴るような今を

    小説とエッセイの混合物

  • 短編小説集

    折々に自分で書いた短編小説を集めたものです。

最近の記事

『一庶民の感想』 8 女はフィクション

 女はフィクションだ、実体がない。観念としての女、ぼくの中で女はフィクションだ。女は画像や動画、漫画、小説の中にしかいない。触れようとしても、触れられない。肌触りや匂い、髪の質感、肌の柔らかさ、頬の愛おしさ、そういうものはありありと想像できるのに、現実の女は遠い。百万光年先にある星の光のように遠い。  風俗嬢もフィクションだ。源氏名、疑似恋愛、全てフィクションだ。だから、女を買い続けることは、小説を書い続けることに似ている。物語の消費だ。感得できたのは、フィクションとしての

    • 『一庶民の感想』 7 書くこと

       ぼくは片岡義男さんの小説が好きだ。もちろん、エッセイや評論、翻訳も好きだ。それは片岡義男さんの書く言葉がシンプルでからりとしていて、その上豊富な内容を持っているからだ。かつてオートバイに乗っていたことも関係しているだろう。全体にすっきりとしていて、バランスがとれている。短文、言い切りのかたちで会話が展開されるところなども面白い。ぼくが文章を書くときの最良のお手本の一つだ。  昔、村上春樹さんの書いたものの中に、ぼくは書くことによってしかものを考えることができない、という趣

      • 『一庶民の感想』 6 幸せな顔と一人でいることの技術

         ゴールデンウィークだ。外は子連れやカップルで溢れている。彼ら、彼女らの顔を見ていて、気がついたことがある。愛し、愛されている人間の顔は輝き、そして幸福そうであるということである。何とも形容し難いことだが、愛し、愛されている人の顔には険がない。表情の奥から滲み出てくる陰のようなものがない。その表情は適度に弛緩し、温かみに溢れている。ほのぼのとしている。  一方で自分の顔を鏡で眺めてみる。険がある。陰がある。目が暗く、表情は緊張し、眉が少し吊り上がっている。愛し、愛されている

        • 小説 『長い坂』 第六話

           川べりに桜が咲いていた。花粉症で目が痒く、鼻は詰まり、頭がぼおっとしていた。仕事帰りに駅から自宅まで一直線には戻らずに、少し迂回をして川べりを歩いた。なんていうことはない、普通の景色だった。コンクリートで補強された人工の河岸、その上に桜の木が覆い被さるように植っている。枝が垂れて重くなった桜の木から、暗いコンクリートの川底に向かって花びらが落ちてゆく。その様をマスクをしたぼくは眺めていた。桜の木に外灯の光があたっている。生ぬるい春風。人のいない川沿いの遊歩道。こういう春の景

        『一庶民の感想』 8 女はフィクション

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        • 一庶民の感想
          8本
        • 小説『悪臭』
          2本
        • 小説 『長い坂』
          6本
        • 滴るような今を
          4本
        • 短編小説集
          4本
        • 小説 『長い初恋のように』
          6本

        記事

          小説 『長い坂』 第五話

           愛とか恋とかそういうものが、人生で一番愛したあの人が、その愛が、受け取られることもなく散ってしまったとき、一生懸命に水をやって咲いた綺麗な花が、誰に見られることもなく、寿命を終えるとき、そのとても大切なものはどこにいくのだろう?  昼まで寝ていた。昨晩は昔片思いをしていた女性のことを思って泣いた。ぼくの短い人生の中で最も、激しく、心身が焼け切るくらい愛した人だった。何度かデートにも行き、告白もしたけれど、断られてしまった。その後すぐに彼女に恋人ができたけれど、ぼくの気持ち

          小説 『長い坂』 第五話

          小説 『悪臭』 2

           頭痛とともに目を覚ました。早朝の光が窓から顔に向かって差し込んでくる。吐き気もした。ううう、伸びとともにひとつ呻いて、テーブルの上にあったミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばした。ゆっくりと水を飲む。桜上水の1Kのアパートの一室に、男女5人が雑魚寝している。女二人は一つしかないベッドの上で、男三人はフローリングの床の上にそのまま寝ていた。ぼくの背中も凝っていた。硬いフローリングの上で何も敷かずに寝ていたからだ。体のあちこちが強張っている。酒で痺れた頭が煙草を欲していた

          小説 『悪臭』 2

          『一庶民の感想』 5 幸せなひとりぼっち

           幸せなひとりぼっちにならねばならぬ。10年に渡る葛藤と日常生活との戦いを経て、そう決めた。愛と性と温もりを追い求め、街中をネオン街を、酒場を彷徨った。失った恋も、遂げられなかった愛も、すべては記憶と思い出の中だ。求めて、求めて、求めて、苦悩と呻きと煩悶の果てに、ぼくは一人になった。それが現実だ。  ひとりぼっちであることを嘆くのはやめにしよう。徒に異性を求めるのもやめにしよう。これからは、誇り高き、幸せなひとりぼっちを目指そう。太陽に向かってただ一人屹立する大樹のように、

          『一庶民の感想』 5 幸せなひとりぼっち

          『一庶民の感想』 4

           日銀が利上げをするそうだ。減税を伴わない現行の経済運営では、連合に加盟しているような大企業ばかりが賃上げをし、少しだけ拡大された所得の多い人々を利する結果となるだけだろう。結果として中小企業に勤めるような人々の給料は思うように上がらず、所得格差が拡大されるだけに終わる。構造的にはトリクルダウンと全く同じだ。高所得者に多く利益を送れば、その分高所得者の消費行動等を通じて、その下の低、中所得者にも利益がこぼれてくるだろう、このような想定がトリクルダウンだ。しかし、トリクルダウン

          『一庶民の感想』 4

          小説 『悪臭』 1

           女を殺した。新宿の居酒屋の床が血まみれだ。オレンジ色のライトが、動かなくなった女の体を優しく照らしている。テーブルの上のビールはそのまま、何事もなかったかのように、中ジョッキの中で佇んでいる。女の喉がパックリと割れている。そこから夥しい量の血液が、女の体を濡らし、リノリウムの床を濡らし、厨房の方まで流れている。この店の従業員や他の客は、ぼくがナイフを振るったあとすぐに、店外へと出ていった。彼ら、彼女らの悲鳴が微かに頭に残っている。人間が絶命する瞬間のあの顔、あの何とも言えな

          小説 『悪臭』 1

          『一庶民の感想』 3

           自分の話を書く。日常生活において、疲労が蓄積したり、何か嫌なことがあったりして、もうこんな世界はうんざりだ、誰とも会いたくないし、誰とも話したくない、いやむしろ死んでしまって、新しい世界に行きたい、そう思うときがある、度々ある。そんなとき決まってぼくは、過去の恋愛を思い出す。当時は嫌なこともあったはずなのに、恋人との僅かな思い出を何度も思い出して反芻して、嗚呼、あの頃は少なくとも今よりは幸せだったなあと思う。恋人の肉体の記憶も思い出す。  大人になってぼくは、得をしたと思

          『一庶民の感想』 3

          小説 『長い坂』 第四話

           ジェンダー平等なんてクソだ、ぼくを孤独から救ってくれやしない。  ポリティカル・コレクトネスなんてクソだ、ぼくを寂しさから救ってくれやしない。  自由なんて嘘っぱちだ、自由になって孤独というもっと強固な牢獄にぶち込まれる。  いつも笑顔で、なんて本気で言っているのだろうか?本当にいつも笑顔でいたら、それは立派な気狂いだ。  愛は欺瞞だ、すぐ消える。  言葉は空虚だ、嘘を含んでる。  ぼくはといえば最近は出会いもない。会社の同僚はみんな結婚してしまっているし、不況

          小説 『長い坂』 第四話

          『一庶民の感想』 2

           全くもって酷い世の中だ。最新の日本の出生率は1%代前半で、実質賃金も約2年間に渡りマイナス、テレビをつければ政治家たちは言い訳にもならない空語を繰り返している。  かつてここまで希望のなくなった社会はあっただろうか?金もなく、恋愛も結婚も極めてハードルが高くなり、重税に喘ぎ、それらが改善される見込みもない。人々は孤独に落ち込み、何かから目を逸らすように、ゲームやインターネット、AIを含む最新の科学技術へとのめり込む。私的幸福を麻薬のように求め、そこから零れ落ちた大多数の不

          『一庶民の感想』 2

          『一庶民の感想』 1

           政治が酷い。あまりにも酷い。自民党の国会議員は裏金をつくり、それがばれても罪に問われないばかりか辞職すらしようとしない。  国会議員は国家理性をも代表する存在であるべきだ。国会議員は時に政府、大衆の無理な要望を押し留め、国家として進むべき正しい(歴史や文化、伝統に照らして正しい、国民が幸福になると思われる、長期的目線に立った)道へと導かなければならない。それが今やどうか。まともな経済、財政政策も行わず、国民に重税を課し、特定の団体(経団連、経済同友会、金融業界等)へ利益誘

          『一庶民の感想』 1

          小説 『長い坂』 第三話

           日本の戦争についての本を読んだ。ビジネス書や自己啓発本は、30代に入ってから読まなくなっていた。意味がないと気付いたからだ。それらの本は200ページを使ってたった一言、悩んでないで元気を出せ、とそう言っていた。うんざりだった。悩むなというのは、心を消せというのと同じことだった。だからきっとビジネスマンは禅が好きなのだろう。ぼくは馬鹿だから悩んでしまうが、利口で高級取りのビジネスマンは全く自分のやっていることに疑いを持たないのだろう。ぼくの給料は彼らの半分以下で、側にいてくれ

          小説 『長い坂』 第三話

          小説 『長い坂』 第二話

          「いまよりゃマシだろう」  ザ50回転ズはそう歌った。きっと将来は今よりマシになる、ぼくもそう思って20代の辛いときを乗り越えてきた。でもそれは嘘だった。31歳のぼくは20歳のぼくよりマシではない。年齢によるライフステージの変化により、旧友とは疎遠になった。学生時代毎日一緒にいた友達は、20代のとき度々会っていた友達は、家族を持ったり、仕事が忙しくなったりして、今ではもうほとんど会う機会がない。歳を取れば取るほど、新しい友人は出来づらくなり、孤独の度合いが深まる。そんな当た

          小説 『長い坂』 第二話

          小説 『長い坂』 第一話

           浪漫革命の音楽が流れる。イヤフォンの中でも思い出は今日も元気だ。額の汗を拭って、駅のホームから改札へ、歩く。帰宅する人々の群れ、飲みに行くのであろう大学生らしき集団、若いカップル、老夫婦、中年のヨレヨレのスーツを着た男、酒臭いおばさん。高円寺駅北口からパチンコ屋の横を通って、賃貸で借りているワンルームマンションへと帰る。ぼくは今、31歳だ、社会人になって5年以上が経った。そんなことはどうでもいいけれど。スマートフォンの通知音が鳴って、メッセージアプリを開いた。高校生のときか

          小説 『長い坂』 第一話