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小説 『はじめての恋愛小説』 2 真理は決意する

 仕事帰りに近所のミニシアターで『恋する惑星』を見た。見終わって、清ニと別れようと決意した。

 清ニは私に自分の部屋のエアコン修理を待っているように言った。業者が来るから、自分はいられないから、代わりにいてくれと。いつもそうだ。清ニはいつもそうだ。私を顎で使って、平然と当たり前のような顔をしている。清二の部屋の掃除、溜まった洗濯物、皿洗い、ときには料理まで、清ニの身の回りのことを私はいつもやっている。それでいて清ニは私にあまり関心がないみたいだ。話しかけても曖昧に返事をするだけだし、たまのデートも楽しそうじゃない、セックスも淡白、私と趣味も笑いのツボも合わない。もううんざりだ。もう絶対別れてやろう。私は恋する惑星にいるんだから、きっと別れてもすぐいい人が見つかるだろう。真理はミニシアターからの帰り道、夜空に向かって笑顔をつくった。嗚呼、清々する、明日清ニに別れると伝えよう。なるべくシンプルに、なるべく簡単に、相手の言い訳も一切聞かないで、すっぱりと別れよう。

 夜空で一つ星が瞬いた。清二との楽しかった思い出がよぎる。一瞬で、瞬く星のように、幸せだった頃の思い出が脳裏をかすめた。感傷はいらない。真理は頭を振った。

 明日清二に別れ話をしよう。

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