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ここまで泣いたのは「ヴァイオレットエヴァーガーデン」以来?

今回は、「さよならの朝に約束の花をかざろう」について書きたい。
これは2018年に公開された映画で、あの岡田磨里の初監督作品である。
私、岡田磨里が好きでね~。
多分、いまや彼女は日本で最も有名な脚本家のひとりじゃないか?
彼女が脚本を手掛けたアニメはハズレが少ないというか、代表作の「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」はもちろんのこと、他にも「心が叫びたがってるんだ」「とらドラ」など、青春ドラマの名作を数多く手がけている。
中でも特にP.A.WORKSとの相性はいいみたいで、「凪のあすから」、「true tears」、「花咲くいろは」といったところは私の中で非常に印象が強い。
「さよならの朝に約束の花をかざろう」は、そのP.A.WORKSの堀川社長が「いつか岡田磨里の100%をさらけ出した作品を見てみたい」と発言したところから話が始まったらしい。
その話を受けて彼女は、「じゃ監督をやらせてほしい」と堀川社長に言ったという。
この申し出が通っちゃうあたり、P.A.WORKSっぽくはあるんだけど。

実は結構美人な岡田磨里

そもそも、このP.A.WORKSという会社は少し変わっていて、本社が富山である。
何で富山かといえば、社長の堀川さんがプライベートな事情として嫁の実家がある富山に移住することになり、もともとアニメの仕事をしてた彼は就職先を探したけどアニメ関連の仕事はなく、やむなく自分で会社を立ち上げたんだという。
で、一番最初に作ったのが「true tears」ですよ。
いきなり最初から名作じゃん!
その時の脚本家が岡田磨里で、つまり堀川さんとは古い付き合いということになる。

岡田磨里の出世作となった「true tears」

というか、北陸の田舎で立ち上げた新興のアニメ会社が、何でいきなりあのレベルの名作を作れたんだろう?
その2年後、ゲーム界では神とされてた麻枝准の初アニメオリジナル企画としてあの「Angel Beats」を発表、さらにその翌年には再び岡田磨里と組んだ「花咲くいろは」から「お仕事シリーズ」をスタート。
この堀川社長の敏腕ぶり、ちょっと只者じゃないよな・・。
その彼が、脚本家の岡田磨里に映画の監督をさせたんだ。
しかも、初監督の彼女を気遣ったのか、副監督には篠原俊哉を置いている。
この篠原さんというのはめっちゃベテランの大御所で、P.A.WORKS作品では「凪のあすから」「色づく世界の明日から」「白い砂のアクアトープ」などの監督をしてた人である。
そんな人に「副監督」をさせてまで、岡田さんに監督をやらせた堀川さんの想いを考えてみてくれ。
めっちゃ本気じゃん。
実際、「さよ朝」にはP.A.WORKSの本気がめっちゃ詰まってるし、またその本気に応えようとする岡田さんの本気もめっちゃ伝わってくる。
結論をいうと、これはもう神作品だね。

この作品で私が驚いたのは、異世界ファンタジーだったことである。
岡田さんって、あまりそっちのイメージがなかったから。
いや、だからこそ、この作品は岡田磨里にとって特別な作品といえるのかもしれない。
彼女自身は、「ずっと書いてみたかった物語」だといっている。
このヒロインは、おそらく岡田さんの分身かと。
内気でトロくて、孤独な境遇。
聞けば、岡田さんの学生時代は不登校の引きこもりだったという(この自伝がテレビドラマ化されたとやら?)。
どうりで彼女の作品の主人公は、やたらコミュ障が多いよな。
「さよ朝」のヒロイン・マキアもまた、そんな感じである。
今回はそれに付け加え、彼女は数百年を生きる不老長寿の設定。
それこそフリーレンと同じようなもんで、周りのみんなが先に逝ってしまうがゆえの孤独の宿命を背負っている。
しかも困ったことに、マキアはフリーレンみたく凄い魔法が使えるわけでもなく、ほとんど無力に近い。
そんな彼女が、人間の赤ちゃんを拾って我が子として育てる物語なんだ。
もう、その前提だけで哀しい匂いがぷんぷんするよね・・。

たたずまいからして、もう哀しみに満ちている陰キャのマキア
マキアの親友は、快活な陽キャのレイリア
このシーン、実はめっちゃ重要な伏線

マキアにはレイリアという親友がいて、この子は恋人もいるリア充である。
ところがこのレイリア、めっちゃ不幸な人生を辿ってしまうのよ。
そもそも数百年を生きる不老の一族である彼女たちは、絶対普通の人間には近づかないように長老から言い聞かせられていた。
ところが一族が暮らす村が軍に強襲されて全滅、レイリアは連行された末に王国の王子(普通の人間)と無理やり結婚させられてしまう。
しかも出産させられた後は、子供にも会わせてもらえないまま実質監禁。
一方、運よく逃げのびたマキアは、拾った赤ちゃん・エリアルと共に人間の村で暮らすことに。
人生の明暗が分かれたふたり。
かたや陰キャの生活を強いられる陽キャ、かたや陽キャの生活を強いられる陰キャ。
かたや我が子にも会えないレイリア、かたや他人の子を我が子として毎日を共に過ごすマキア。

闇落ちしていくレイリア・・

こういう対比の設定がさすが岡田磨里、実に巧い。
彼女の心の機微の描き方は、ホントに卓越してると思う。
見てて、必ず「何で?」と感じるキャラクターのフックがあるんだ。
たとえば、なぜレイリアはかつての恋人を最後に拒絶したんだろう?とか、なぜエリアルはマキアのもとを去ったのか?とか、あれ?と思った部分ほど実は岡田磨里流人間の心の機微ってやつなんですよ。
改めて、自分がその境遇にあったと仮定して考えてみると、あ、確かにそうするかもな・・と思えたりするんだから。

赤ちゃんだったエリアルは成長し、少女の容姿のままの母との関係がぎくしゃくしてくる・・

映像は、思わず「ヴァイオレットエヴァーガーデンかよ!」とツッコみたくなるほど綺麗。
ホント、作画といえば京アニといわれてた時代も終わったと思う。
敢えて岡田さんが異世界を舞台にした理由は、多分コレ↓↓でしょ。

魔獣レナトがマキアとレイリアを乗せて空を飛ぶクライマックス

マキアが乗った魔獣レナトが飛翔して現れたシーン、あまりに美しくて鳥肌立った。
特に終盤は泣けるシーンが怒涛のラッシュで、ちょっと疲れたほどさ。

そうそう、「さよ朝」のスタッフ一覧を見ると、長井龍雪、田中将賀の名前が入ってるんだよね。
彼らは岡田さんとのトリオの「超平和バスターズ」名義で今まで数々の名作を生み出してきたが、今回はそのユニット名を名乗っていない。
つまり、長井さんも田中さんも制作の手伝いこそすれど、今回は岡田さんを立てて脇役に回ったんだろう。
なんつーか、そこに長年培ってきた友情みたいなものを感じる。
彼らは「とらドラ」(2008年)で組んで以降、お互い年齢も同じだし、同期みたいな関係、あるいは同志みたいな関係だと思う。
岡田さんって元は引きこもりのコミュ障だというけど、今はめっちゃ周りの人たちの縁に恵まれてるじゃん?
「超平和バスターズ」といい、堀川社長といい、岡田さんを囲む人脈は実に心強い。
そういうこと。
岡田さんが描くヒロインは基本的にダメなタイプが多いけど、ここぞという時にはなぜか人に恵まれ、最後には必ず弱さを克服して強くなるんだよ。
それって、他でもなく岡田さん自身の人生の投影じゃないの?
だからこそ、見てる我々の心にも物語が刺さるんだろう。
「さよ朝」も、まさにそれである。
なんせ、「岡田磨里の100%」だからね。
とにかく、超お薦めです。

映像の美しさは、P.A.WORKS史上1位だと思う


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