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「呪術廻戦」に見る男の生き様、死に様

なんか最近、アニメ「呪術廻戦」のクオリティがエゲツないことになってる。
41話の両面宿儺のアクション作画でドギモを抜かれたばかりだというのに、それに続く42話は七海建人殉職の演出でまたしてもドギモを抜かれてしまった。
制作会社のMAPPAって、確か「進撃の巨人」とか「チェンソーマン」とか「いぬやしき」とか手がけたところだよね。
いまやバトルシーンを描かせりゃ、日本屈指のアニメ会社なんじゃない?
普通、アニメは回を重ねるごとにスケジュールが過酷になり、どんどん作画のクオリティは落ちていくものである。
ところが「呪術廻戦」はそうならず、むしろ尻上がりに調子を上げてきてるようにすら感じる。
彼らがどういうマジックを使ってるのかは知らんが、おそらくアニメーターが七海ばりにボロボロになりながら死力を尽くしてるんだと思うぞ。

エグいシーンだった。
というか、最後は真人にやられなくても、もう助からん状態だったと思うけど。
左顔面と左頭部が、ほぼ無いからね。
凄惨な戦闘の途中、南国の美しい海のシーンが時折挿入されるのが、なんか見てて切ない・・。

もともと七海ファンは、かなり多かったと思う。
特にアニメでの七海は声優が津田健次郎ということもあり、原作のイメージとは少し違ってたんじゃないだろうか。
津田健次郎といえば日本屈指の狂犬キャラで、数多くいる悪役の中でも特に凶暴な武闘派である。
そんな彼が、常に冷静沈着でオトナの七海を演じるのは本来ならミスマッチなんだろうが、でもこの渋谷編でいよいよ津田キャラが本領発揮してくるんだよね。

36話のブチ切れた七海 スゲー迫力だった

ああ、この人は可愛がってる後輩をやられたら、こういう狂犬になるんだ、と少し驚いたよ。
実はめちゃくちゃ人情に厚い、ハートの熱い人じゃん。
彼は頭のいい人だし、本来はきちんと冷静に合理的思考をできるタイプ。
だからこそ高専卒業後は一般企業に就職したんだろうし、仕事のデキる彼はそこでかなりの高収入だったっぽい。
だけど彼はその安定した環境を捨て、結局はまた呪術の世界に戻ってきてしまった。
そのキッカケになったのが、例のパン屋のレジの女の子とのやり取りである。

呪術師の七海には、このレジの子が悪霊に憑かれてるのが実は見えていた。
特に関係のある子でもないので最初は無視しようとしてたんだが、でも彼は結局、その霊をわざわざ祓う。
彼自身には、何のメリットもない行為である。

黙って去っていく七海を追いかけて、店の前で「ありがとう」と大声で叫ぶ女の子。
この出来事の直後に彼は会社(正直ブラック企業だったと思う)を辞職し、呪術師として高専に戻った。
どうってことのない、ささやかなエピソードなんだけど、七海はこの時の「ありがとう」をずっと大切に覚えてることが後になって分かるんだよね。この人は合理的に見えて、その内実は極めて人間的である。
それは殉職の間際も同様で、彼は自らの死を悟りつつ、ここで虎杖に言葉を遺すか否かで葛藤するんだ。
迷った末に彼はその葛藤を隠し、穏やかな表情で最期の言葉を遺した。

「虎杖君、あとは頼みます」

この何ともいえない柔和な表情、私は生涯忘れられそうにない・・。

しかし思うんだが、ここまでの際どい映像、よく地上波放映できたもんだわ。
最近の少年ジャンプは、残虐度が青年誌レベルにまできてるような気もする。
おそらく、PTAあたりからクレームはきてるだろう。
「子供に悪影響を及ぼす」とかいって。
果たして、そうだろうか?
私はむしろ、七海という男の生き様は子供にこそ見せるべきものだと思うし、見せる以上はその死に様までしっかり見せなきゃ全てが中途半端になるよ。
そもそもPTAなんてのは、「いい会社に就職して安定した生活を送る人間
こそが勝ち組」と決めつけてる人種だから、安定した生活を捨てて呪術師に復帰した七海の人生そのものを理解できないかもね。
そういう人は、「会社辞めなきゃ、こんなことにならなかったのに・・」という発想をしそう。
彼らは作中のキャラでいうなら、渋谷事変でひたすら逃げまどうモブだろう。
助ける側ではなく、助けられる側の人たち。

原作の七海もかなりエグい・・

ちなみに皆さんなら、どっちの人生を選ぶ?
①モブとして死なない人生を送る
②ネームドとして近いうち死ぬ人生を送る

多くの人が①を選ぶと思うが、少なくとも七海は②を選んだんだよ。
例のパン屋の一件に至るまで、彼は会社で消耗し、非常に苦しそうな表情をしていた。
そんなに仕事がきつかったの?
いや、そうじゃないんだ。
もともとネームドの資質のあった彼が、モブとして生きること自体がきつかったのさ。
だから、レジの子の除霊を済ませた後、店を出た彼の表情はそれまでが嘘のようにスッキリした顔になっている。
これをもって、彼はハッキリと自分の人生のベクトルを悟ったんだろう。

・・あ、上記のネームドとモブの意味が分からない?
じゃ説明すると、まずネームドというのは人生に明確な主題があることだよ。
ちゃんと天命がある人、といってもいいかな。
それに対してモブというのは、ただ漠然とした幸福を追求する人たちのことだろうね。
あ、誤解のないように。
私だってモブだし、モブを否定する気なんてさらさらないから。
ただ、モブのモノサシでネームドを測るのだけは絶対やめるべきだと思うし、少なくとも七海のような生き様を私は否定してほしくないんだよね。

生涯最後の戦いで負けて死んだ人生には価値がない、と思うかい?
でも彼は虎杖に「あとは頼みました」と言って、しっかりとバトンを繋いでいる。
天命に殉じた人生、意外と悔いはなかったんじゃないかな。
顔面ボロボロにはなってはいたけど、意外といい顔で逝ったと思うよ。

七海のスーツの着こなしは、男の憧れである

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