「インスリンの働き」初級講座⑤ 体脂肪の合成を促す
今回のテーマは…
インスリンが
体脂肪を増やす!
このネタは、以前もちょこっと出てきました。
インスリンによって、ブドウ糖が脂肪細胞に取り込まれ、体脂肪に変わる、というお話ですね(初級講座③)。
ブドウ糖以外に、体脂肪を増やす材料がもう一つあります。
当然、答えは「脂肪」です!
どちらかと言えば、こちらの方がメインの材料です。
今回は、食事から摂った脂肪とインスリンの関係について、書いてみます。
食事から摂った脂肪は、まず倉庫へ
脂ののったお肉とか、ミックスフライとか、脂肪たっぶりのお料理を食べたとしましょう。
当然、食後は、血液中の脂肪の量が増えます。
ちなみに、食品中の脂肪の約9割は中性脂肪なので、血中に増えるのはもっぱら中性脂肪です。
食後の中性脂肪値は、食前の2倍くらいまで高まります(ピークは食事をしてから2時間後くらい)。
増えすぎたものは、ちょうどいい範囲に戻さないといけません。
そこで、ひとまず倉庫にいれておくことになります。中性脂肪の場合、倉庫となるのは脂肪細胞です。
脂肪のちょっとやっかいな事情
今までのパターンと同じで、細胞の中に送り込むところでインスリンが働いています。
例によって、一歩ずつ足元を確かめながら進んでいきましょう。
脂肪の場合、今まででてきたブドウ糖やアミノ酸とは少し事情が異なります。
まず、中性脂肪はバリバリの脂肪なので、水と反発します。からだの中はほとんど水の世界ですから、自由に動けません。
そこで、血液中を移動する時には、中性脂肪はリポタンパクの中に詰め込まれています。
リポタンパクは、脂肪をのせて血液中を移動する船のようなものと考えてください。
リポタンパクの構造は、こんな感じ。
内部は、油の分子がギュウギュウに詰まっています。
よく名前を聞くリポタンパクは、LDLやHDLですね。
そちらは、コレステロール(これも油の分子)を運ぶ担当です。
今回登場しているリポタンパクは、中性脂肪を運ぶ担当の方。
一応名前を紹介しておくと、VLDLとかカイロミクロンになります。
やっかいな事情 その2
さて、水の苦手な中性脂肪ですが、船に乗せてもらうことで、ひとまずスイスイ動けるようになりました。
でも、その先にまた問題が……
中性脂肪が「脂肪細胞(倉庫)に入りたい」と思っても、そこまでは船が運んでくれないのです。
このリポタンパクは、血管の壁を通過することはできません。
血管の向こう側にある脂肪細胞には行き来できないのです。
同じカットですが、水と油で色分けしてみました。
黄土色ゾーンは油の分子には居心地の良い、油の世界です。
それ以外の水色の部分は、すべて水の世界になります(間質液は、細胞を浸している液体)。
リポタンパクを出たら、そこから先はほとんど水だらけ。
中性脂肪たちは、泳げません。
と言うか、水の中に入ることさえできません。水にちょっとふれただけで、反発してはじき飛ばされてしまいます。
すぐ目の前に脂肪細胞があっても、自力ではとてもたどりつけません。
脂肪を取り込むメカニズム
では、どうするか?
脂肪を取り込むための仕掛けが用意されています。
それが、リポタンパクリパーゼという酵素です。
このリパーゼは、中性脂肪のつなぎ目をチョキチョキ切って、脂肪酸にします(中性脂肪は脂肪酸の3本パック)。
脂肪酸なると、多少は水になじみます。
リポタンパクから抜け出して、脂肪細胞へ泳いで渡ることができます。
ようやく、インスリンの登場
この取り込みのプロセスで、インスリンが働いています。
脂肪細胞の細胞膜には、お馴染みのインスリンの受容体。
受容体にインスリンがカチリをはまると……
脂肪細胞の中でリポタンパクリパーゼの合成が促進されます。
このリパーゼは、血管で作られているわけではなく、脂肪細胞で作られ、血管細胞へ送られているのです。
細胞に脂肪酸を取り込んだら、3本ずつまとめて中性脂肪にします。
この合成作業も、インスリンによって促進されています。
ということで……
脂肪細胞はインスリンに
とってもお世話になっています。
インスリンがないと、中性脂肪を
うまく保管管理できません。
ですから、初期講座④では札を3本上げていたわけですね。
インスリンは多すぎても少なすぎても困る
冒頭で出て来たフレーズを思いだしてください。
インスリンが
体脂肪を増やす!
実は、このこと自体は特に問題はありません。
食後は中性脂肪値が通常の2倍くらいに高まります。それを血中から取り出して一時保管する(=体脂肪にする)のは必要なことだし、自然な成り行きです。
ただ、インスリンを過剰に分泌させる食事をしていると、体脂肪が不自然に増えてしまいます。これは、好ましくありません。
特に体脂肪を増やしやすいのは、糖質と脂質の両方が多い食事です。
このパターンの食事だと食後は血液中に……
中性脂肪が増え
ブドウ糖が増え
インスリンが増えますね。
インスリンが増え過ぎると、リポタンパクリパーゼも量産されます。血液中の脂肪が景気よく取り込まれ、体脂肪が一気に増えてしまいます。
逆に、インスリンが少なすぎても
困ったことになります。
糖尿病患者さんは、インスリンを十分に分泌することができないので、リポタンパクリパーゼの数が少なくなります。
そのなると、血液中の中性脂肪を倉庫へ移せません。
脂肪細胞に入れない中性脂肪が血液中にだぶつく結果になり、中性脂肪値が上がってしまいます。