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音符と化した漢字たち

一言で「漢字」と言っても、いくつか種類があって、香港や台湾は「繁体字」という画数のめちゃめちゃ多い漢字が使われています。一方、現代中国の標準語とされる北京語は簡体字というかなり簡略化された漢字が使われています。

そして日本では、この繁体字と簡体字のちょうど中間くらいの漢字が使われています。

(もちろん三者間で重複している漢字多数。ちなみに韓国は漢字表記に繁体字を使っているようでした。*間違っていたら韓国の漢字表記に詳しい方、ご指摘お願いします。)

私は大学時代、北京語を専門で勉強していたので、簡体字を習った時「日本の漢字も中国から伝わってきたハズなのに、本家本元の方がだいぶ簡略化しちゃってるんだな~」と、すごく意外でした。

漢字好きな私には、漢字の持つバランス美を簡略化して崩しちゃうなんて勿体ないな~という気持ちがしたのです。

でも、その時はただ呑気に「日本語と違ってひらがな、カタカナみたいな画数が少ない表記方法がなくて、100%漢字って筆記大変だろうしな~」と考えただけでした。

実際のところ、やっぱり繁体字ってホントに画数が多くて、書くのも覚えるのもめっちゃ大変です。

こちらは「香港の今」を発信されている癒しのYou tuber、AsianViewさんの記事です。音も字も面白いけども、一つの漢字を書くのに58画なんて、ちょっと大変過ぎ・・・(;^_^A

これじゃあ、教育するのも、使いこなすのもスゴい手間かかっちゃうじゃん、という事で、中国内で簡体字化の提案が提出されます。大規模な反日運動でもある五四運動(興味ある方はウィキをご覧ください)の中でいくつかの改革を求める中に「文字改革」がありました。

「漢字は見分けも判別も覚えるのも難しい」から廃止してベトナムのように完全ラテン化(英語の発音表記のみ)にすべきという、極端なものだったので成功はしませんでした。その後もこの議論は起こり、その度に漢字は残すべきという保守派の声も根強い中、この簡体字化を押し通した人。

漢字の国から漢字、つまり独自の文化を壊しちゃおうという事にGOサインが出せてしまうくらいのカリスマ。

このカリスマが五四運動から数十年の時を経て漢字の簡略化に着手します。

(この間には第二次世界大戦、反日戦争、国共内戦、文化大革命という超激動な時代が圧縮されてますが、この記事の要点は漢字で、漢字がどうなってしまったか、という事を言いたいので今回まるっと割愛します。)

彼の最終目的は「漢字を完全になくすこと」でしたが中略しまして、結果として、とりあえずの簡略化となります。

元あった繁体字は、そらもうえげつない程に簡略化されます。

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この図はココに載ってます↓↓

例えば、19画の「蘭」は、5画のこんな字に↓↓

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「頭」という漢字は、どこをどうやったらそうなった?なこんな字に↓↓(ま、人体を表しているんでしょうか・・。)

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「開」もアララ、開く対象物(門の事ね)を取っ払っちゃってこんな形に↓↓

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ちなみにこちら、日本語の漢字を入れると簡体字と繁体字に変換してくれるホームページ↓↓

こうした、元々の漢字の成り立ちがわからなくなる程の激しい簡略化は勿論、たくさんの部首もわずか一画、二画を省略する為に部首そのものの形を変えて、言(ごん)べんとサンズイの見分けが難しくなったりと、漢字の持つバランスの美がココでぶち壊されます

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しかも、簡略化の横暴はそれだけでは終わりませんでした。

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この上下を見てください。何と成り立ちの異なる「発」と「髪」という漢字が、この友達に角が立ったようなこの字にまとめられます。

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「発」の字は「弓」の象形と「上向きの両足」の象形、「手に木のつえを持つ」象形から「弓を引きはなつ」(つまり「旅立つ」「起こす」)を意味して「発」という漢字が成り立ちました。

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「髪」の字は「長髪の人」の象形と「長く流れる豊かでつややかな髪」の象形と「犬をはりつけにした」象形(犬をはりつけにして、いけにえを神に捧げ、災害を「取り除く」の意味)から、長くなったらはさみで取り除かなければならない→「かみ」「草木」を意味する「髪」という漢字が成り立ちました。
(*これら漢字の成り立ちはココから引かせていただきました)

漢字は事象を形にする事(象形)で生まれた智慧の文化なのに、意味も成り立ちも異なる漢字を、無理やりひとまとめにしてしまいます。

「発展」は「発」だからぱっと見で意味が解るのです。
「頭髪」は「髪」だからぱっと見で意味が解るのです。

それなのにどちらも「fa」という音なので、無理やりひとまとめにされて、意味が通らなくなりました。混在させるとホラ漢字として役に立ってない。

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その他にも「幹部」の「幹」と


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「乾燥」の「乾」。

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え?ちゃんと簡体字でも日本語の漢字と同じじゃん?と思うでしょう。

そう、せっかく文字は残されているのに、実際に通用している字は「干」なのです。だから「幹部」は「干部」、「乾燥」は「干燥」と書きます。

音が両方とも「gan」だからです。

じゃあ、何のために「乾」と「幹」を残しているかと言うと、例えば人名に「乾隆帝」という人がいます。これは「乾」のままで発音も「gan」ではなく「qian」なのです。「幹」は「樹幹(木の幹)」と言う時は「幹」なのです。

せっかく文字が残っているのに部分的にまとめるという、却って混乱を招きそうな?簡略化なのにむしろ、別の字に「新たな意味を持たせた」?的な不自然な現象も起こりました。

下の字もそうです。「劃」と「畫」

日本語の「計画」は「ドラフト(青写真→絵を意味する画)を計る」という事ですが、この「画」と言う文字も残したにも関わらず、中国語の「計画」は「计划」と書かれます。この「划」という簡体字は元々は「劃」という字で元を辿ればコンパスで円を描く様子を象形した「畫」という文字でした。(そういう意味では簡略化ながら日本漢字「画」の方が象形としては良く出来ているかもしれませんね)

それがある時点で「劃」が作られ、これはどちらかと言えば、意味よりも動作そのものを指す形で、「船をこぐ」という意味で「划船」と使われるようになります。

そして意味的にも動作的にも正しかったハズの「計画」もこの簡略化の時に「计划」と書かれるようになりました。

するとこれもまた、意味の異なる同じ発音のモノを無理やり一つの漢字でまとめた、しかもこの場合、元の漢字から分化した漢字を本家に再び引き入れた逆輸入」的な?

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ちなみに「絵を描く」時には「画画」(日本語は一と由ですが、簡体字は一と田。細かく異なっています)と書き、ここは「画」のままで、一つ目の「画」が動詞、二つ目の「画」が名詞として使われています。

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どうして、このような無茶苦茶なごり押しがまかり通ってしまったのか・・・そこに迫るには今回まるっと割愛した部分にも迫る必要があるんでしょうが、とにかく「漢字を消滅させる」という目的の下で行われた簡体字化はこうして、字を見ても意味がわからない「ただの発音記号と化したもの」を創り出してしまったのです

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お陰さまで

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