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人材採用は冒険するべきか、保守的であるべきか


そんな人はいない!という求人条件

いまでは日本でも転職が珍しくなくなっています。それどころか「フリーランス」「副業」を進め、マルチに働く、会社にとらわれない働き方が推し進められているように見えます。それ自体は素晴らしいことだと思います。

しかし、ちょっと気になることがあります。そういった副業のマッチング、フリーランスの仕事紹介、あるいは転職の求人情報を見ていると首をかしげることも多いのです。

・化粧品業界で広報の仕事の経験が5年以上ある方
・BtoBのIT業界でマーケティングの経験があり、MAツールを使いこなせるコンサルタント
・アパレル業界で5年以上の経験があり、新規事業をグロースさせた経験がある方

やたらと条件が細かいのです。「化粧品業界で広報の仕事の経験が5年以上ある方」なんて、ただの同業他社の人です。一昔前ならヘッドハンティング案件です。たとえば「toCの商材を扱った広報経験者」じゃだめなんでしょうか。「BtoBのIT業界でマーケティング」も、同業の経験者だけですし、「MAツールを使いこなせるコンサルタント」というと、最前線で戦える指揮官という、マルチな人材を求めています。「新規事業をグロースさせた経験がある方」、いれば引く手あまたでしょう。

とにかく、「自社の条件にばっちり、ぴったり」の人材だけを探しているように見えます。上記の条件が応募のマスト条件なのですから。

でも、そんな人はいません。いたら、宝くじよりはマシでしょうが、パーティのビンゴで一等を当てるレベルのラッキーでしょう。

失敗できないプレッシャーが無茶な求人を生む


なぜ、こんなことになるのか。こんな求人をしていると「いくら求人しても、いい人材が来ない、採用できないんだよ」とぼやくことになります。実際、そういう言葉は頻繁に耳にします。まるで、自分の仕事が、ビジネスが上手くいかないのは、「いい人が採用できないからだ」と言わんばかりです。


何度も転職を経験している人がぼやいていたことを思い出します。


「転職して、初めて出社する。午前中はパソコンの支給、各種ツールの設定なんかで終わるんだけれど、午後はいきなり、放置されて仕事をしろと言われる。」


もちろん、やるべきことはわかっているのだそうですが、それはその人が優秀だからです。その人は続けます。


「書類をまとめて提出すると、自分たちの社内のルール、それどころか明文化もされていないローカルなやり方と違うと言われる。ひどいときは、Wordの書類で使っているフォントが違うから直せと言われる。ああ、この会社で十年働いていた人が欲しかったんだな、と思った。」


このあたりで無茶な求人条件の理由が見えてきた気がしませんか?


・教育できないし、仕方がわからない


のです。なので、失敗しないように「同じ業界で、同じ仕事をしていた人」が条件になるのです。本当は「自分の会社で働いていた経験」が欲しいわけです。


つまりは「事例病」(こちらの書籍でも触れています )と同じです。せっかく、コストもリソースもhttps://note.com/yazzle_dazzle/n/nb090fe8514de割いて、人を採用するのですから、「失敗できない」。だから、やたらと条件が細かくなる。


その結果、採用できない。運よく採用できても、すぐに辞めてしまう。定着しない、ということになってしまうのです。

何をしてきたか、だけではなく、「何を期待するか」

こういった「条件を絞り込んだ採用」は、事業の観点からも課題が多いのではないかと思います。「〇〇をして欲しい」の「〇〇」がとても限定的なケースならばいいでしょう。たとえば、「マーケティング部門でMAツールの運用担当者が突然退職してしまった」「経理部門の担当者が退職する」など、求めるスキルセットが不可分で「欠けたパズルのピースを埋めたい」場合です。ただしそこに「〇〇業界で」をつけると一気に厳しくなります。求めているのは、MAツールを使いこなすスキルであったり、経理部門での知見と知識なはず。そこに「〇〇業界」は不要なのです。業界特有のルールがあるにせよ、そこは「覚えていただけばいい」だけのはず。そこまでサボろうとするから、「まるで昨日まで、隣の席で働いていたかのような状況を求める」から、「いい人がいない」という話になるのです。

そうではなく、営業職、企画職の場合、求められるスキルはそれぞれにあるでしょう。一方で、業界経験×職種経験でセグメントすると、結局「同業他社の人」、もっといえば「以前自社で働いていた人」しか該当者がいなくなるということになりかねません。「いい人がいない」のではなく、自分から「存在しない人を求めている」だけなのです。

これは「ビジネス」「事業」という観点からも課題が残ります。
こちらの書籍でも触れていますが、事業が成長していくには、「五人の変態」が必要だと書いています。異なる知見、才能、経験、考え方を持った「異才」が複数人いて、ビジネスは成長していくのです。いまある事業をそのままの路線で拡張していきたいだけなら、前述の「欠けたパズルのピースを埋める」のでいいかもしれません。

しかし、ビジネスが同じ形のまま、ずっと成長し続けることはありません。必ず、変革が求められます。そのときには、異才が必要です。五人の変態が必要です。

「成長」と「変革」を同時に進めていく。

人材採用で冒険的であるべきかというと、それは必ずそうあるべきです。自社にそれまでいなかった人材は、貴重です。思わぬ革新をもたらしてくれる可能性があります。書籍でも触れた「3Mにおけるポストイットの開発」のエピソードでもそれはわかります。接着剤といえば強力な接着力が求められるスペックです。ところが、失敗によって「すぐ剥がれる接着剤」ができてしまった。「接着剤事業だけを見れば」、ただの失敗作です。ところが「剥がれやすい接着剤の使い道」を考えようとすると、変態が、異才が必要です。それまでなかったものを考えるには、冒険が必要であり、それを推進するのは異才なのです。

一方、保守的な採用も必須だと思います。ビジネスを機能させるためには、パズルのピースを埋めなければなりません。ただし、そこで重要なことは「何が必要か」を見極めることです。社内ルールは入社後に覚えていただくしかありません。業界の知識は必須でしょうか。もちろん、あったほうがいいでしょうが、これは入社後に社内でレクチャーできるのではないでしょうか。より専門的な経理の知識、マーケティングの知識、営業の経験のほうが、重要なのではないでしょうか。

無理に道を狭めない。可能性が広がる採用を考えるほうがいいのではないかと思うのです。


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