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デジタルトランスフォーメーションで日本の競争力を高め、子ども達が幸せに過ごせる豊かな日本を残したい デジタルトランスフォーメーション研究所 荒瀬光宏さん

AI時代を迎えた今、国内外の企業が急速にデジタル化を推進しています。
一方で、デジタルトランスフォーメーションは単純にデジタルに置き換えただけでは失敗してしまうため、多くの企業が壁に突き当たっています。そんな中、日本企業のデジタル変革を支援しようと立ち上がったデジタルトランスフォーメーション研究所”荒瀬光宏さん”にお話を伺いました。

荒瀬光宏さんのプロフィール
出身地:
東京都
活動地域:東京都
経歴:
私立慶應義塾志木高等学校卒業
慶應義塾大学 法学部卒業
グロービス経営大学院卒業(MBA)
株式会社 電通国際情報サービスに入社し、部長へ昇進
2018年に株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所を起業し、現在に至る
現在の職業及び活動:コンサルタント
座右の銘:
最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残るのは、変化できるものである。

日本の競争力を上げたい

Q1.どのような夢やビジョンをお持ちですか?

荒瀬光宏さん(以下、敬称略 荒瀬):日本の競争力を上げたいと思っています。前職で現地法人の経営者として東南アジアに2008年から2013年までいたんですけど、その時に日本の競争力が低下しているというのをすごく実感しました。このままいくと日本もアジアの中の経済後進国になりかねないということをひしひしと感じていましたし、当時東南アジアにいた他の日本人も同じことを言っていました。どんどん日本の競争力が落ちていると。

記者:日本の競争力が落ちていることについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

荒瀬:私が赴任した2008年は、電気屋さんに行くと日本製品がグア~っと並んでいました。店員さんに話しかけると「やっぱり日本製品を買わないとすぐに壊れるよ」と言われて、日本製品推しですよ。とにかく。なんでも。ところが3年後くらい、帰ってくる頃はさらにですけど、家電量販店とかに行っても「もう日本製品なんて別にいい」となっている。当時「タイムマシン経営」という言葉がすごいもてはやされていました。日本で成功したんだからアジアに持っていけばいつか成功する。それが当たらなかったら「まだちょっと早いのかな」といって待ってるわけですよ、日本人は。ところが、日本という国と東南アジアの国って、国の発展の順番が全く違うわけですよね。東南アジアの人たちの気持ちを日本人は全然わかってなかったんです。
 そういった意味で、日本の弱点の一つは文化の多様性というものに気付いていないこと。日本ほど文化やモラルといったものが一様な国はなかなか無い。だから、外のことを知らないことが日本の競争力の弱みの一つですよ。
 じゃあ、競争力をあげるために何ができるかと考えた時に自分の今持っているバックグラウンドがITであり、それから2015年から2018年3月まで通ったグロービス経営大学院(MBA)で学んだ戦略とか経営の知識であるということを考え、自分が一番貢献できる分野はどこかなと思ったとき最終的にデジタルトランスフォーメーションという領域に行きついたということですね。

大抵の人はデジタルトランスフォーメーションを正しく理解していない

記者:デジタルトランスフォーメーションとは何かについて教えてもらえますか?

荒瀬:デジタルトランスフォーメーションというのは、たぶん大抵の人は正しく理解していない言葉。最近セミナーとかでデジタルトランスフォーメーションのためのセキュリティツールとか色々あるんですけど、世の中が大きく変質している中で全体についてではなく部分の話題ばかりなんですね。
 新しいデジタル環境の中で価値のあるサービスを提供しようとするとゼロからつくる方がよっぽど楽で、今あるものを変える方がすごく大変。
 日本は経済力を持っている国なので日本が既に持っている経済力、つまり既に日本にある企業の企業価値を新しい時代に即した形に変換していかないといけない。それをやるのがデジタルトランスフォーメーションです。ただ色んな企業が試みて散々失敗してきているので、どうやったら失敗しないで成功するかということを色々研究してパターン化して、それをフィードバックするということをやるといいのではないかなと思ったんですね。

記者:なぜデジタルトランスフォーメーションが企業に求められているのですか?

荒瀬:それは世の中が大きく変わりつつあるからです。第4次産業革命とかAI革命とか色んなことが言われています。世の中が大きく変わると、競争原理も大きく変わるんですね。MBAではKSF(キー・サクセス・ファクター=主要成功要因)と言いますけれど、その業界とか産業の中でどうやったら勝てるかというルールが変わる。競争原理が変わった時、今までこうやって成功してきたというのをひたすら繰り返して追い続けていると、かえってそれが足かせになって新しい環境に対応できる企業に生まれ変わることができない。もちろん生き残ることが目的じゃなくてさらに競争力を上げないといけないんですけど、最低限デジタルトランスフォーメーションをしないと生き残ることができないんです。

記者:なるほど、デジタルトランスフォーメーションはそこまで来ているんですね。

荒瀬:日本はこれから人口がどんどん減ります。これからさらに国際分業になっていく中で、日本人は英語力も弱いし国際コミュニケーションも弱い。英語力と国際コミュニケーションってまたちょっと違うと思うんですよ、文化を理解するという意味で。これでさらにデジタルにも弱いとなると、日本人が活躍できる場はどんどん減ってしまうと思うんですね。そして日本の競争力まで下がってしまうと、日本はアジアの中の貧国になる可能性があると強い危機感を持っています

記者:では、日本がデジタルトランスフォーメーションを完成させたとき、どのような状態になっていることが理想でしょうか?

荒瀬:日本のあるべき姿ですね。政府がソサエティ5.0という動画などで未来の日本のあり方を広報しているので、方向性としてはこういったものだと思います。人間の役割が大きく変わると思います。社会を支えるための人間ではなく、社会課題を一つ一つ解決していくのが人間であり、その内容を実現するのはAIであり機械だと思います。人間の役割は維持するのではなく変えるに軸足を置きます。決まった仕組みを回す定常業務から離れて、人類が何をするべきかをしっかり考えることが求められます。
 我々が最終的にトランスフォーメーションしなければならないのは、私たち人類の行動自体になると思います。

マーケットやお客様が求めるサービスを提供する

Q2.その夢やビジョンを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

荒瀬:少しでもたくさんの企業にデジタルトランスフォーメーションを知っていただくための e ラーニングを始めようと考えていたり、企業が自社のデジタルトランスフォーメーションを評価するためKPI(キー・パフォーマンス・インジケーター=重要業績評価指標)のようなものをやろうかなと思っていますけど、最終的に自分がどんなビジネスモデルを目指していくべきなのかという中期的な、あるいは長期的なプランは明確には無いです。5年間の収支計画を作ったりしましたけど、明確にこれをいつまでにやろうというものを自分で作るよりは、それはマーケットとかお客様が決めていただければいいかなと思っています。なぜなら、デジタルトランスフォーメーションは新しい事業領域だからです。当面はデジタルトランスフォーメーションを成功させるためには何をするべきかとか何をしたら失敗するかという知見を集めて整理するということをやっていて、そうする中でこういう支援をしてほしいとか、こういうサービスがあると嬉しいという声が出てくる。そうした求められるものを提供していけばいいと思っています。

記者:お客様というと日本企業ですか?

荒瀬:地方公共団体もありますよ。私もデジタルトランスフォーメーションをやりたい人は企業だと思い込んでいて、ずっとそのつもりでいました。企業からの話もたくさんありますけど、地方公共団体、あとは国、個人というものも考えています。

記者:なるほど。新しい事業領域だからこそ、マーケットやお客様を限定せずに声を聞くことが仕事の幅を広げていきますね。

アナログな人をデジタルにトランスフォーメーションする

Q3.その目標や計画に対して、現在どのような活動をしていますか?

荒瀬:
私自身、今お客様のところで中に入って、デジタルトランスフォーメーションをご支援しながら経験を積んでいます。デジタルトランスフォーメーションの難しいところは、実はトランスフォーメーションなんですよ!トランスフォーメーションが難しいんです。今いる日本人のほとんどってアナログネイティブなんです。我々が生まれ育った時に電話って黒電話があったり、携帯なんか最初なかった。だからアナログな人達がこのマーケットを構成しているということを理解した上で、その人達にどうデジタルに取り組んでもらえるかというかを考えないといけないのがすごく難しくて。

記者:世代間でそこにすごいギャップがありそうですね。

荒瀬:
違いますね。逆にデジタルネイティブの世代から見ると、アナログなものを見て「何でこんな不便なものがあったの?」と思われるかもしれないけど、アナログネイティブの人からみると「えー別にこれでいいじゃん、全然目的達成するから」と思うわけですよね。それで、逆にデジタルに舵を切り過ぎるとマーケットがついてこない。

記者:
どう使えばいいか分からなかったりする(苦笑)

荒瀬:うちの子どもには普段テレビを見せていないんですね。DVDやネットの動画は教育上いいものがあれば見せたりするんですけど、この前子どもがテレビを見たことがないといって幼稚園でバカにされることがあって、ちょっと今日は特別にテレビを見せてあげようということになったんです。そうしたら、テレビを見ていて「トイレ行くから止めといて」と言うわけですよ!「えー!?テレビは止められないんだけど?」と言うと、「何のために止められないの?」みたいなことを聞くわけですよ。

記者:
たしかに!

荒瀬:アナログネイティブの人間から見れば、止められなくて当たり前だけど、デジタルネイティブの人間が見ると動画は止められて当たり前。そういうもの一つとっても違う。今、簡単にアナログとデジタルって言いましたけど、ものによっても分野によってもアナログネイティブとデジタルネイティブは入れ替わります。だからマーケットとか産業を構成している人がどういう人達で、それぞれどんな立場でものを考えているのかっていうのをしっかり理解しないと実現しないですね。変革ですから。我々はこの移行期に暮らしているんです。最終的に全部デジタルになったら、世の中たぶん我々が想像できないぐらい変わると思うんです。

トランスフォーメーションとは全てを捨て去って新しい自分に変化すること

記者:トランスフォーメーションについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

荒瀬:トランスフォーメーションとは、「完全変態」という意味です。カブトムシを例に説明すると、カブトムシは幼虫の間は土の中を這い回り土を食べて生きていますが、成虫になると樹上で暮らし樹液を舐めて生活します。また、メスを争ったり樹液を独占するために大きなツノを持って戦うという新しい環境に即した体に生まれ変わります。この生まれ変わる過渡期にはサナギになって、何も飲み食いせず新しい体に進化するための準備をします。これを完全変態(トランスフォーメーション)と言います。完全変態の過程で驚くのは、サナギの間は全く原型を留めずドロドロの状態になることです。しかし、サナギにはツノや手足の形があります。自分がどうなりたいかの tobe が見えているかのようです。私たちの目指すデジタルトランスフォーメーションも、一度過去の栄光を全て捨て去ってゼロから tobe を再設計し新しい環境に備えることが重要であると教えてくれているように思えてなりません。

大学院での研究がテーマの発見に繋がった

Q4.そもそも、その夢やビジョンを持ったきっかけは何ですか?そこには、どのような発見や出会いがあったのですか?

荒瀬:もともとデジタルトランスフォーメーションにすごく関心があったということではなく、この言葉に出会ったのはグロービスの研究プロジェクトでした。「AIを導入して成功した企業と失敗した企業の調査から、AI導入成功の要諦(ようてい)を導き出す」というプロジェクトだったんです。AIはそもそも手段であって目的ではない。そこで目的により近いところにターゲットを変えようということで、デジタルトランスフォーメーションにテーマを変えました。つまり、デジタルトランスフォーメーションを試みて成功した企業と失敗した企業を調べることによって、最終的にどうやったら日本の企業はデジタルトランスフォーメーションに成功するのかを解きほぐすことをやらせてもらいました。調べてみて、だいぶまとまったかなという気がしています。

「お父さん、何やってたの!」と思われたくない

Q5.その発見や出会いの背景には、何があったのですか?

荒瀬:私には幼稚園の子どもがいます。競争力が極端に落ちた日本といったものを子どもや孫の世代に味あわせたくないですし、自分がたとえこの世からいなくなっても自分の母国、日本人が落ちぶれていくというのはやっぱり想像したくない。そして何より、「お父さんはITとかデジタルとかをやってたのに、お父さんの世代が競争力の高い日本を残してくれなかった」と思われたくない。「何やってたの!」と。日本人で生まれて、この時代に様々なデジタル変革が起こったにもかかわらず、IT業界で働いていたお父さんたちの世代は何をやってたの!と思われてしまうようなことは避けたい。競争力の高い日本を子や孫の世代に残すということが、やっぱりデジタルやITに関わった日本人、人間としてやるべきことではないかと思っています。

記者:先ほどカブトムシの例えでトランスフォーメーションについて教えてもらいました。荒瀬さんご自身がトランスフォーメーションを経験したことはありますか?

荒瀬:私にとってのトランスフォーメーションは、前職を辞めて自分のビジョンのために活動を始めたことでしょうか。ただ完全変態ではないですね。完全変態は全く違う自分になるわけで、なかなかそういう人はいないでしょうね。不完全変態なら徐々に変化していくのでまだあると思います。

記者:そうすると、東南アジアに赴任されたのが起業の大きなきっかけだったということですね。

荒瀬:そうですね。日本の競争力が大きく落ちていると気が付くきっかけですね。日本にいると新聞の中に書いてあるんです。書いてあります当時も。でも肌で誰も感じていなくて、私を含めて「そうなの?」ぐらいな感じでいたと思うんですよね。それを実感できたのはやっぱり日本の外に出たからでしょうね。

記者:荒瀬さんのお話を伺っていると、相手に寄り添うようなコミュニケーションの仕方をされていると感じます。昔からそのようなコミュニケーションだったのですか?

荒瀬:うーん。寄り添うようなコミュニケーションができているかというと、なかなかそうは自分では思わないですけれども。世の中には色んな人がいるなというのが日本を出た瞬間によくわかりますね。あとIT業界にいた人間って何でもITで解決しようとするんです。私も含めて。でも、世の中それが最善の策じゃないことが多いんですよね。ここはITやAIでやるけど、ここは人にやってもらおうぐらいが丁度いいんです。それなりの緩やかな移行が必要だと思います。一気にやろうとすると全てが崩壊します。既存ビジネスも新規ビジネスも両方崩壊しますから。

誰もが共感するビジョンがあれば変化の突破口になる

記者:では最後に、読者のみなさんへ荒瀬さんのメッセージをいただけますか?

荒瀬:日本の競争力について考えるためには日本というものをまず学ばなきゃいけないんですけど、日本について学ぶために一番よいのは日本以外に行くことですね。日本にいると日本の競争力とか日本の実力がよくわからない。他の国に行って初めて「あ!日本ってそれなりにアジアでリスペクトされてるんだ」とか。日本の製造、製品ってすごい評価されてるんだとか。逆にデジカメはシェアはすごい高くて評価されていたけれどスマホが出てきた瞬間にいきなり無くなっちゃたなとか。色んなことにすごく気付けます。また、日本で見たそれぞれのメーカーのイメージと、海外で受けるそのメーカーのイメージって全然違ったりするんですよ。だから日本の競争力と言った時に日本国内でのマーケットシェアではなくて、グローバルで何がどこがどう売れてるのかとか、そういったところの本質を理解しなきゃいけないし、やっぱり日本を知るためには日本の外から日本を見てみることのが大事なんじゃないかと思います。

記者:日本について知ったあとはどうしたらいいでしょうか?

荒瀬:日本の競争力を高めたいという気持ちに関しては誰もが賛同してくれます。たぶんそれは誰も否定できないはずなんですよ。そこは意見が分かれることはないんですね。色んな方がやっぱり協力してくださいますし、色んな方の力を借りながら私は色んなことをやっています。自分一人でできることなんてほとんど何もなくて、もう人の力を借りまくってます。でもみなさん力を貸していただけます。誰もが共感してくれるビジョンというがあれば、色んな人が手伝ってくれるんだなと実感しています。それはグロービスで立ち上げた研究会で色んな講演依頼をしている時もそうで、そのビジョンに共感したから喋ろうという風にみんな思っていただけるのかなと感じています。やっぱり共通のビジョンというのが大事だと思います。
   
記者:日本人がなかなか変われない中でも、それが一つの突破口になりそうですか?

荒瀬:なるといいなと思っています。

記者:荒瀬さん、今日は貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。

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荒瀬光宏さんに関する情報は、以下から見ることができます。

【編集後記】

今回記者を担当した川口、口野、多田隈です。

荒瀬さんの実体験に基づいたお話はとても力強く、「子どもや孫の世代に誇れる日本を残す」という想いにあふれていました。どのお話も印象深かったですが、中でも「マーケットや産業を構成している人がどういう人達で、それぞれどんな立場でものを考えているのか理解して取り組む」というお話は、どの分野にも当てはまることだと感じハッとさせられました。また、今やりたいことや夢を探されている方にとっては、荒瀬さんがもともとデジタルトランスフォーメーションにすごく関心があったということではなく、紆余曲折あって起業にまでたどり着かれている姿はヒントになるのではないでしょうか。荒瀬さんの活動がますます発展されることを心から願っています!

この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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