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ショート百合小説《とうこねくと! ぷち》神波家プリンパフェ失踪事件

 みなさん、おはようございます。北郷恵理子です。
「……ない……」
 今、開け放った冷蔵庫の中を睨みながらそうつぶやいたパジャマ姿の奥さま──神波東子さまの付き人をしています。
 
「東子さま、何がないんですか?」
 寝ぼけまなこをこすりながら私がそう問いかけると、東子さまはこちらをゆっくり向き、険しい表情で私を見つめました。
 
「ないのよ……私のプリンが……」
 
「へっ?」
「昨日買ってきて、あとで食べようと思ってたプリンがないのよ。生クリームたっぷりのプリンパフェ……」
「そうなんですか」
「……恵理子ちゃん、やけに淡白ね」
 東子さまの目がギラリと光ります。いやいや、東子さま……
 
「もしかして、私を疑ってます?」
 まさかとは思いながらも、私はそう聞いてみました。
 
「この家にいるのは私とあなただけ。夜には玄関も窓も全部鍵をかけていたんだから、外部からの犯行は不可能よ。だとしたら、まず真っ先に疑うべきはあなたじゃない」
 顎に手をかけ、まるで名探偵のごとく自己流の推理を始める東子さま。
 いやいや、気持ちが乗ってきちゃったんでしょうか……
 
「ちょっと待ってください。私、この晩はずっと寝てましたよ!」
「それを証明出来る人は?」
 こんなセリフ、よくミステリードラマとかで聞きますよね。
「証明って……」
 思わず、追い詰められた犯人のように口ごもってしまいます。
 ……いやいや、私は犯人じゃありませんよ!?
 
「決まりね……。犯人は恵理子ちゃん、あなたよ!」
 私をビシィッと指差して、東子さまはドヤと言わんばかりに勝ち誇った顔をしました。
 
「いやいや、東子さま……」
 東子さまの自由さにいささか脱力しながらも、私はそばにあった台所のゴミ箱を指差しました。
「それ、なんですか?」
「えっ?」
 東子さまもそちらを見ます。
 
 私が指差した先には……プリンパフェを食べた後の空の容器が捨てられていました。
 
「こ、これは、あなたが食べた後に……」
「いいえ。これは東子さまが食べたものです」
「どっ、どうしてそう言いきれるの!?」
「あれです」
 今度は、洗った食器を入れるための水切りカゴを指差します。その中にひとつだけポツンと置かれていたのは──
 
「あれ、東子さまがいつも使っているスプーンですよね?」
 
 細かく模様が彫られた、シルバーのアンティークスプーン……
 間違いなく、東子さまのものです。
 
「昨日の夜。東子さまはお酒に強いわけでもないのに、そこそこの量の日本酒を飲んでいましたよね。東子さまはお休みになり、私はその約1時間後に寝室に戻りました。その後すぐ、廊下を歩く音と冷蔵庫を開ける音が聞こえてきましたが……」
 私は顎に手をかけ、東子さまを見据えました。
「お酒に酔った状態でプリンパフェを食べ、翌朝には記憶がなかった。でも、犯行に使ったスプーンを隠していなかった……。完全犯罪とはいきませんでしたね」
「……!」
 息を呑んだ東子さまに、私はひと言。
 
「観念してください」
 
「……すみません、私がやりました……」
 その場に座り込み、東子さまはうなだれました。
 
 今日、10月7日はミステリー記念日。
 やり取りがいささか大げさだった気もしますが、たまにはこんなミステリーごっこも面白いかもしれませんね。
 『迷』探偵の東子さまも愛おしく感じてしまう私なのでした。

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