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日本酒をワイングラスで飲む、が意味するもの。

「好きなぐい飲みを選んで下さい」

っていうお店には、たまに出会う。

でも、「酒器の素材も形も大きさも、好きなものを言って下さい」っていうお店にはまだ出会っていない。

そんな素敵なお店ないかな。

思わず唸っちゃうような、その日本酒に合うベスト酒器を見つけさせてくれるような、ワクワクさせてくれるお店。

酒器によって日本酒の味わいの感じ方は驚くほど変わる、

というのは本当の話だ。

・華やかな吟醸香など「香り」の要素を外せない日本酒にはワイングラス(ブルゴーニュ形、ボルドー形)

・芳醇な厚めの旨み・酸味を感じるには、口の中に一度に広がるよう、飲み口の広い平杯

・軽快、爽やかなシンプルな味わいの日本酒には飲み切りサイズのお猪口を...

ぐらいの教科書的な基本知識は持っている。

華やかな吟醸香が特徴のお酒をお猪口で頂くのは香りが感じきれずもったいないし、開栓したての常温の熟成酒をワイングラスで飲むのは香りが強烈過ぎる。


ワイングラスで飲む

といった教科書的な世界には関係なく、
ぼくは日本酒をワイングラスで飲む。

吟醸香が特徴のお酒はもちろん、開栓仕立ての香りの強烈な熟成酒も、教科書的には平杯をおススメする濃醇旨口のシンプル純米酒も、香味をほとんど感じないシンプル軽快なお酒も。

全てワイングラスで飲む。

理由は単純。

良くも悪くもグラスという素材は香りや味わいの隅々まで、全ての輪郭をきっちりと届けてくれると思うから。

そして、ワイングラスの形状が良くも悪くもしっかりとそのお酒の香りを届けてくれるから。

日本酒の美味しさというのは、一言で表せるものではなく、香りと味の重なり模様にあると思っている。

入口の上立ち香、口に含んでからの味わい、含み香と後味のキレ感、余韻。

それらは個々に独立して個別に存在しているのではなく、入口の上立ち香が口に含んでからの味わいに重なるところが始まりで、酸味や苦味の特徴を繊細に感じながらキレと余韻までを一続きで感じるところまでが日本酒の味わいだ。

この一連のテイスティング作業が大好きだし、香りと味わいの重なり模様こそが日本酒の本質だと思っている。

だから、入口でそこまでいなくて良いと思える苦味も、余韻の長過ぎる甘みも、厚すぎると思える酸味も全てはその日本酒が醸し出してくれた味わいと思って大切に感じながら味わっている。

その作業に支配されている瞬間が大好きだ。

良いところも、ダメなところも全部見せてくれと思う。

しっかりと輪郭を持って、好きなやり方で主張してくれと思う。

輪郭を持たない香りや味わいも何とか捕まえてみるから、何も考えずにありのままで来てくれと思う。

日本酒をワイングラスで飲む。

ぼくは日本酒を愛してしまっている。

だからその香りと味わいの全てを感じたいと思う。

お米と水というこの上なくシンプルで上品な素材を、微生物という大自然が育ててくれる作品をそのままの姿で見せて欲しいと思う。

良いところも悪いところも全てありのまま姿で見せてくれる酒器。

日本酒にはワイングラスだと思う。

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