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おいしい酒器。利き酒Vol.1『たかちよ/純米吟醸/愛山』

これ、前からずっとしてみたかったやつ。

同じ日本酒で、酒器を変えると味わいがどれほど変化するのか。酒器を代えて利き酒する、「おいしい酒器」シリーズの記念すべき第一弾。

結論から言うと、酒器が変わると味わいも相当変化する。

日本酒の美味しさの本質は「味わいの重なり模様」にあると思っているぼくは、普段日本酒をワイングラスで飲む(『リーデル』というグラスメーカの脚なしタイプ)。

理由は単純で、グラスという素材は香りや味わいをその隅々まで、くっきりとした輪郭で届けてくれるから。またワイングラスの先すぼみの形状が、そのお酒の持つ香りをきちんと届けてくれるから。つまり、香りも味の要素(甘み、旨み、酸味、苦味)も、「隠れてしまう」ということが起こらないため、「味わいの重なり」という点を最も感じやすいのがワイングラス。

今回は、そんなぼくの個人的嗜好は一旦置いておいて、他の酒器で飲むと味わいや香りが具体的にどう違うのか試してみた、その記録。

色んな貴重な発見がありました。

そして、何より楽しかった!


1.銘柄選定の基準

今回酒器別のテイスティングに選んだ銘柄は、『たかちよ 純米吟醸』の限定品。ラベルは表題写真の通り。

選定理由は、近年流行りの無濾過生原酒という、お米の甘みたっぷりジューシーさの中にも「バランス感」が生命線と思われるお酒において、各香味のバランス具合が酒器によってどのように変化するのかを見たかったため。(注釈:ほんとは、酒屋さんでどうしても気になって美味しそうなので即買いしたもの。正直。。)

【基本spec】 
原料:米、米麹 
製造時期:2020年1月
造り:純米吟醸、無濾過、生酒、原酒
使用米:愛山100%
精米歩合: 59%
アルコール度数:16度
酵母:きょうかい1801


2.用いた酒器と選定の基準

今回用いた酒器は以下の一覧表にある5種類。

1)普段は①のワイングラスで飲んでいるので、これがぼくの標準。

2)②利き猪口だけ磁器になるが、これは日本酒界で利き酒の「標準」酒器。ぼくの「標準」である①ワイングラスとの差異を知る目的。利き猪口のサイズは①ワイングラスの口先口径と同じぐらいの8勺(1合の8/10)を使用。

3)②以外の素材は全てグラスで揃えた。素材は同じ条件で、形状が違うだけで味わいがどれだけ変化するのかを見るのが目的。


3.酒器別 テイスティングコメント

①ワイングラス 結果:◎
マスカット、リンゴや洋梨を思わせるフルーティーな上立香。

口に含むと豊かなお米の甘みが、柔らかい酸味とほんのりした苦味とに支えられて口の中に大きく広がる。

キレ感は、酸味が柔らかく膨らむと同時に苦味が舌の上から横へと綺麗に流れるかのよう。ジューシー感とフレッシュ感を含め、各味わい要素のバランス感がお見事。まさしく「味わいの重なり模様」を楽しめる。


②利き猪口 結果:○
①のワイングラスに比べて上立香は弱まる。鼻を利き猪口のかなり奥の方まで入れてみて初めて洋梨とマスカットを思わせるほのかな香りを感じる程度。

口に含むと①ワイングラスに比べて、甘みと酸味がほんの少し柔らかく感じる。ワイングラスの時に感じた入口の苦味感が消えるところは、飲む人によっては長所になり得る。

キレも同様、酸味の膨らみでもってキレた感があり、苦味はかなり奥の方で感じる程度。ワイングラスに比べて全体的に味わいの輪郭が柔らかく優しい。苦味を感じにくい分だけ、酸味に支えられた甘味を感じやすい気がする。

③天開グラス 結果:○
上立香はかなり感じにくくなるが、ほのかに果実感を感じる程度。
ただ、全体的な味のまとまり感は悪くない。

口に含むと酸味がやや表に出ながら、お米の甘みをうまく表現してくれる。苦味は控えめ。口先がやや開いているとはいえ、入口が狭いので、軽快めなスタートから、口に入ってその後の味わいの広がりが感じられる。厚めの酸味に支えられたお米の甘みが長らく口の中に留まる。

甘みと酸味の余韻が長い。苦味は最後でほんのり感じる程度。

「味の重なり模様」という点ではワイングラスに劣るものの、バランス感とまとまり感はある。


④カクテルグラス 結果:×
上立香を感じない。香りの要素を外せないお酒なのでもったいない。

口に含むと、お米の甘みを少し上回る程度の苦味が表に出てくる。その後に厚めの酸味がある。

キレは苦味感。

完全にバランス感を失っている印象。味が重ならず、バラバラ感がある。


⑤シャンパングラス 結果:○または△
上立香はほぼ感じない。もったいない。

口に含むと、豊かな甘みと酸味の膨らみを感じる。甘み、酸味の膨らみ感では一番良いかもしれない。グラスの形状から一気に口に入って舌の真ん中近く上に長く留まるためか、苦味を感じるまでに時間を要する。

キレも優しい。苦味というよりは酸味のキレ感がある。

まとまり感としても悪くないと思う。


4.総評

近年流行りの「お米の甘さを綺麗に表現」した無濾過生原酒。この手のお酒は、やはり入口の香り(上立香)という要素を外せない以上は、どうしても①ワイングラスに軍配が上がる。

口に含むとわかるが、この入口の香りというのは、単なる「香り」という単一要素ではなく、口に含んでから最初に特徴として感じる味わい(このお酒だと甘みや酸味)に対して「最初に重なる味の一要素」なのだ。だから、この入口の香りが弱い(①以外の4種類)という時点で、既に味わいの重なりの層が一つ無くなってしまう。これはもったいない。

そのほかでは、③天開グラスが飲み屋で多用される理由が、少しわかった気がする。冷蔵保管の冷たいお酒を出すことが多い飲み屋さんでは、③の天開の細長い形状がその飲用温度に非常にマッチしており、一気に、良い意味での軽快さを失わずに飲みきれる。また、苦味といった個人によっては余計な味わいになる要素が奥に隠れるのも利点だろう。一言でいうと、「飲みやすい」酒器なのだ。

⑤のシャンパングラスは正直期待薄であったが、入口の上立香がなくなるという最大の欠点を除けば、全然ありだと思う。甘みと酸味の膨らみ感、結果としての旨みの厚さという意味では、これが一番だったように思う。意外な発見が素直に嬉しい。

また違う銘柄でやってみます。

ていうか、これほんとに楽しい!

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