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2回目の転職をすべきか?敏腕セールス・マネージャーのキャリアチェンジ(2/2)

良き仲間でありライバルであった同僚の転職を機に自分のキャリアに悩み始めたインターネット系広告会社の営業マネージャーの羽田さんのキャリア・チェンジ事例2回目です。

羽田さんはプレイングマネージャーとして自らも営業実績を叩き出しつつ、メンバーをリードしトップクラスの成果を上げる輝ける存在でした。
しかし、「このままで良いのか」と悩み始めると、今まで興味を持てていたことに興味が失せたり、上手く回っていたことが機能しなくなってきたことなどが見えてきました。

誰にでも起こりうる悩み

羽田さんは自分がどうすれば良いのか分からずに途方に暮れていましたが、自分の中で何かが終わりつつあることだけは感じ取っていました。

そしてある日、久しぶりに前職の広告代理店での先輩に相談がてらお会いしました。羽田さんの4年上で隣のチームのマネージャーをしていた先輩で、今は転職をしてあるSaaSビジネスの新興企業で営業部長として複数の営業チームを統括している人物です。

先輩は羽田さんが自分の状況や辛さを話すのをじっと耳を傾けて聞いてくれました。そして、自分にも同じような気持ちになったことがあると言うのです。それも、広告代理店にいた時に、羽田さんや自分のチームにいた若手メンバーなど若くて優秀なメンバーが続々と転職をしていくのを見て「俺もこれでいいのか」と悩み始めたそうです。

彼らがいた会社は新卒の就職活動でも人気の大手広告代理店で、そこの社員というだけで「すごい」と言われる会社で辞めるなんて勿体ないと誰もが信じていたのです。ところが、入社3年~5年位の有望な若手メンバーが次々と聞いたことも無いネット系のちゃらい(と先輩たちが思っていた)会社へ転職をする姿を目の当たりにして、自分も考えるきっかけになったそうです。

尊敬して慕っていた先輩も、ずっと前のあの頃に自分と同じような悩みを持っていたと聞いて、羽田さんは少し安心をしました。「俺も同じように悩んでいたし、他にも〇〇さんや△△も同じように悩んでいたよ」と先輩は言うのです。

自分が悩んでいることは、自分だけの特有の事象ではなくて、誰にでも起こりうる自然なことだと思うと、気持ちが楽になりました。

「終わりは終わりとして受け入れろ」

そして、先輩との会話が人生を変えるきっかけとなります。

「お前、もうプレーヤーとしての自分が終わってるんだよ」
と先輩は言いました。

「マネージジャーと言っても、プレイングマネージャーとして自分も売り上げを上げながら、チームを引っ張っているんだろ?」

「チームの中で一番の売り上げを上げることで、その結果と働きざまを示してリードするお前のやり方がもう終わってるんだよ」

「今までの羽田はもう死んだと思えよ」

「過去を引きずっている奴が一番みっともないぜ。ふられた彼女に未練たらたらで次にいけない奴いるだろ?」

「終わりは終わりとして受け入れることが始まりへの第一歩だよ。」

「まず、そっからや」

過去を捉え直す

では、これまでの自分が終わったと理解して、その次にどうやって悩みを解決したのか?と聞くと、先輩が師匠として仰いでいた人物からのアドバイスで自叙伝を書いて自分の人生を振り返ったと教えてくれました。

記憶がある子供の時代から現在に至るまでの自叙伝を書いたそうです。もちろん、誰にも見せないものとして。

これまでの人生の節目、節目で、自分は何を感じて、どう考えて、決断してきたのか、考えたとのこと。そして、その決断が今にどう影響しているのか、どんな自分を形づくっていったのか、振り返ったそうです。

そうすると、今まで自分とはこうだ、と思っていた自らの姿とは別の姿が見えてきたと言います。

羽田さんは、この話を聞いた時には「自分の別の姿が見えてきた」という発言に正直ぴんとはこなかったのですが、尊敬する先輩のアドバイスに従って自叙伝を書き始めました。

書きながら、小学生時代から高校生まで水泳部であったこと、高校時代にはキャプテンとして県の大会で部が優勝するまで頑張ったことなどを思い出しました。常に自分が選手で、選手をやって好成績を収めながら部員に「羽田さん、すげぇー」と言われて尊敬を集め、その威光で部員が入部し、部員が従い影響されて頑張り、部が県の強豪として名を轟かせていたのです。営業マネージャーになってからも、同じ方法でやってきたことに気づきました。

しかし、大学の体育会水泳部では自分よりも優秀な選手が何人もいて自分はリーダーになれないと思い込み、目立たない部員として4年間を過ごしたことを思い出しました。初めて挫折を感じたのがこの時でした。その時の悔しさで、社会人になってからは仕事を頑張ってきたことも思い出しました。

そうすると、今までの仕事のやり方では、自分の器以上にチームは大きくはならないのではないかと気づいたのです。更に、このやり方に限界を感じ、かつ、飽きてしまった自分にも。

「ああ、今までの俺のやり方は終わったな」

羽田さんは、過去のやり方と考え方を手放すことを納得して決断しました。

そして、過去を手放すことを決断した記念に、一人旅に出ました。

マネジメント方法を変えて現職を継続

旅から戻った羽田さんは、すっきりとした気持ちでした。とは言え、次が見えていない不安な気持ちも残っていました。が、部長とも相談して自分のプレーヤーとしての役割を縮小して、チームメンバーの営業活動を支援することやメンバーの育成に力点を置くやり方に変えました。

はじめの1,2年は苦労もして、これでいいのかと悩み何度もプレイングマネージャーとしての従来のやり方に戻したい誘惑にかられましたが、メンバーが成長してチームの成果が過去最高を更新しはじめ、何よりもメンバーの充実度やモチベーションが高まっていくのを実感することが嬉しいと思う自分を発見しました。

水泳部の選手兼キャプテンから、監督へ。

過去の自分を終わらしてから2年程が経過して、羽田さんはこれからは監督スタイルで仕事をやっていくことに納得感を持って再びフルスイングで仕事に取組み始めました。

羽田さんのキャリアチェンジは転職ではなく、自らの仕事のスタイルのチェンジでした。

キャリアチェンジとは、何も転職だけが前提ではありません。

この様に現職を続ける形でのキャリアチェンジもあるのですね。

(2022年5月16日)
1級キャリアコンサルティング技能士
山本恵亮
プロフィール 

2回目の転職をすべきか?敏腕セールス・マネージャーが迎えたキャリアの節目(1/2)

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