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キャリアチェンジ:弁護士を辞めて、中小企業で経営の立て直しに取り組む

弁護士として企業法務に関わっているうちに自分も経営のプレーヤーになりたいと思って、中小企業の経営に携わる道を選んだ人がいます。弁護士から中小企業の会社員への転身は、仕事内容だけでなく、立場も、収入も異なります。なぜ、どうやってキャリアチェンジを実現したのでしょうか。

第三者でなく主役としてビジネスに関わりたい

馬場信春さん(仮名/34歳)は学生時代に大学卒業までに弁護士になるという目標を立てて、大学1年生から勉強を始めて在学中に試験に合格されました。司法修習を経て竹田・村山法律事務所(仮称)に就職。大手ではないけれど、企業法務の分野では知る人ぞ知る有力な事務所で尊敬する上司、先輩の元で弁護士として仕事にまい進されていました。そこで8年間ほど様々な企業の案件に従事する中で、第三者として法律に限られた分野だけをアドバイスすることに物足りなさを感じてきました。そして、第三者というサポーターの立場でクライアントの事業に関わるのではなく、自分が事業を推進する主役になりたいと思うようになったそうです。

MBAに進学

そこでキャリアチェンジを考え始めましたが、企業に勤務するといっても法務部での仕事では転職する意欲が湧かず、かといって他に何が出来るだろうか、何をやりたいか、なかなか考えがまとまりませんでした。しかし、最終的には自分が関心を持っているのは経営だと気づき、経営を体系的に学び、且つ、得意とは言えないファイナンスや英語力の強化をしたいと思い、米国の大学へMBA留学を決意しました。

2年間のMBA留学の1年目が終了した夏休みは、学生は就職活動の一環で2,3週間のインターンシップを企業で行います。馬場さんは経営に関心があったのと、同級生の影響もあり外資系の経営コンサルティングファームであるサーモン&カンパニー(仮称)でインターンを行いました。現役コンサルタントとともに企業の経営課題に取り組むことは、非常に学びが多く、卒業後はこのファームで経営コンサルタントとして勤務したいとも思うようになりました。ただ、一方で第三者の立場で企業経営に関わる立場は弁護士と同じです。また、MBAの科目で面白かったコーポレートファイナンスの分野にも興味があり、自分としてはもっと主体的、且つ、総合的に経営に関わる仕事が良いなぁと思って他にどんな道があるのかと検討をしていました。

PEファンドに興味が湧くも・・・

夏休みが終わり、2年目のクラスが始まって同級生と就職活動状況について会話した時に、ある同級生が企業再生を手掛けるPEファンドでインターンをした話を聞きました。投資家から集めたファンド資金を企業へ投資し、投資後は株主として経営を支援し企業価値を上げて売却(IPOや他企業への売却等)する…という仕事を聞き、ひょっとしてこれは自らが当事者となって、しかも今学んでいる経営とファイナンスの両方に携わることが出来る仕事だと魅力を感じました。当時PEファンドはMBA卒業生の進路では人気の職種でした。

早速、PEファンドへの就職に向けて情報収集にあたりましたがインターンシップの時期は既に終了していました。しかも、PEファンドが中途採用の募集をしていたとしても「M&Aの実務経験5年以上」などの応募条件があって、なかなか選考を受ける機会に恵まれませんでした。

しかし、そこは行動力のある馬場さん。応募書類としてカバーレターに熱い志望動機と自己紹介を記載してレジュメとともに複数の投資ファンドへ送付しました。すると、そのうち1社だけ「お会いしましょう。」という返事がありました。その会社、サニー・キャピタル(仮称)は、投資先企業の経営者や従業員との信頼関係を大事にしてリストラありきではない企業再生を手掛ける魅力的な会社でした。その方針に共感して、また幸運なことに先方からも採用内定を頂いて、一度は入社を意思決定しようかと思っていました。しかし、PEファンドへの理解が進むにつれて、株主の立場と経営者の立場の違いもリアルに見えてきました。
そして、悩んだ末、自分はやはり事業会社で経営の立て直しをやりたいのだと腹が座ったのです。

経営不振の中小企業へ入社

そして、入社を決めた先はTKDマシナリー(仮称)という経営状態が宜しくない年商100億円位の中小企業です。弁護士からの異業種への未経験者としての転職であることから、年収はその会社の制度に従うと話して面接をお受けになりました。最終的に内定し、年収も当時米国のMBA卒業生としては標準的な1000万円を頂けました。

馬場さんが採用された種明かしをすると、同社は海外子会社が赤字であることに加えて、取引先や現地社員との様々な問題を抱えていました。これらを解決することが出来る英語力とタフな交渉力がある人物が同社にはいないという課題があったのです。そこに馬場さんが現れて、この人ならやってくれそうだと期待されたという背景でした。
そして、入社して数か月後に現地に赴いたら、想像以上のひどい状況だったそうです。

海外事業を立て直す

海外拠点が米国にあったのですが、取引先からの訴訟や社員とのトラブルを多数抱えていました。会社はこれらによって金縛りにあったも同然で立ちすくんでいたのです。業績を回復させる為の施策を実行する以前に、これら内憂外患を解決して、事業に、仕事にまい進できるようにしないと身動きが取れないまま会社が病死してしまう状況に陥っていました。

「これは俺にしか出来ない!」と人情派の弁護士であった馬場さんは確信しました。法律の知識やスキルと、人を理解してトラブルを手打ちにすることは、まさに弁護士の仕事です。
一般の人であれば地獄の様なミッションでしたが、馬場さんは現地に常駐して半年以上をかけて解決をしました。そして、内憂外患を解決して現地法人は再び事業を進めていくことが出来るようになったのです。

経営陣への見習いとして

海外現地法人の懸案を解決したことで現地法人ではもちろんのこと、東京本社の皆さんからも、海外事業も重要な柱である同社においては必要な人材と認められて、現在は海外事業部長、兼、経営企画室長として、海外事業に責任を負うとともに全社の組織改革と業務改善を経営陣や社員の皆さんと一緒に取り組んでおられます。ご本人曰く、「ビジネスの素人だけど素晴らしい機会を頂いて、まさに経営者になる為の修行をさせて頂いている」とのことです。しかも、馬場さんらしいのは「これでお給料を頂くのは申し訳ないので、会社の価値を高めることで恩返しをしないと」と本気で仰っていました。

各社の年収水準

ところで、馬場さんが勤務していた準大手の法律事務所とインターンをした経営コンサルティング会社、内定を辞退したPEファンド、入社をした会社の年収水準は下記の通りでした。

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準大手法律事務所、竹田・村山法律事務所(仮称):
アソシエイト(弁護士)
年俸1200万円+超過作業分の支払い(合計で2000万円前後)

外資系経営コンサルティング会社、サーモン&カンパニー(仮称):
コンサルタント
年俸1300万円+ボーナス(250万円前後)

PEファンド、サニー・キャピタル(仮称):
シニア・アソシエイト
年俸1500万円+ボーナス(500万円前後)+投資のインセンティブ(不定期)

TKDマシナリー(仮称):
海外事業部長、兼、経営企画室長
年俸1000万円(+将来、経営が改善されたら決算賞与が出る可能性有り)
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現職のTKDマシナリーの年収は、(今のところ)前職の弁護士時代の約半分ですね。弁護士事務所に引き続き勤務をしてロースクールへ留学して復帰すればパートナーに昇格して年収は倍以上が見込まれていました。しかし、馬場さんは退職して、ロースクールへは留学せずに私費でMBA留学をしたのでした。

年収については上記の通り、インターンをした経営コンサルティング会社は未経験からの入社となると20%くらい下がる水準でのオファー年俸でした。ただ、2~3年以内に一つ上の職位であるマネージャーに昇格すればベース年俸が1500万円以上(+ボーナス約300万円)に上がり前職水準に回復することが出来る給与制度です。

PEファンドについては、同社を選んでいれば年収が下がることはなく、昇格すれば更に上がり、投資のインセンティブ(キャリード・インタレスト)を得られる場合にはかなり大きな金額が入ってくる可能性がありました。

しかし、一見エリートっぽい経歴である馬場さんでしたが、中身は野武士でした。収入は生活に必要な最低ライン(馬場さんは800万円と仰っていました)を超えていれば「やりたいことをやる」という考えがぶれることはありませんでした。

今後きっと馬場さんは更にTKDマシナリーにとってかけがえのない存在となり、お客様と同社の発展に大いに貢献をされることと思います。

(2022年3月7日)
山本恵亮
1級キャリアコンサルティング技能士
プロフィール
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