見出し画像

脈打つような愛を、次こそはする


始めに断っておくが、今回のハイライトは“ミュージカル映画鑑賞“だ。

冷静に考えたら1拍も脈がない恋、明白な心停止を押し切って約3ヶ月の間、頑なに心臓マッサージを試みてきた。あの大門未知子でさえ手がツり「わたし失敗したいんで」とサジを投げたくなる案件だ。
諦めることを知らないわけではない。むしろ人生諦めてきたことの方が星の数よりも多いし、継続してきたことなど絶無BBAだが、いつまでも執着してしまう謎を一向に解き明かせないまま夏が終わりそうで、菊次郎のサマーを脳内爆音再生中だ。
ブラ(想い人の別称:以前の泥酔ダル絡み会合の一部始終はこちら)からの連絡が途絶えた日からきっかり2週間後、

「そうはいうてもお宅のブラJr.は朝も早よからスタンディングして困ってはるんちゃいますのんシコ」

みたいなセクハラLINEを送りつけ、当然の如く一向に返事が来ないのでそこからさらに2週間後、

「ワシもうこれ以上は追いかけんのやめよう思てますわ(はよ引き止めて)、いえいえキライになったとかちゃいます(むしろ好きすぎて吐血しそう)、単に辛抱が足らん性格でして(迅速に早急に抱きしめに来て)、せやからお返事いただけないようであれば(おいこら聞こえとんのか)、こちらもそれ相応の云々かんぬん(はよ引きとめにこんかいこのメンヘラ製造機ィィィィーッ)...」

と最終通告を言い渡すも、ブラは神隠しにあっているか黒ヤギさんなのでお便りは来ず、さっきの手紙のご用事なぁに?な按配で、ならばいっそ、そちらの世界で楽しくやりたまえよ!!!と思えれば〜Fin(完)〜なのだが、思えないから恋煩い、盛大に床に伏した夜と夜と、そのまた夜。

俺の好きコールに何のレスポンスもないからこのライブは終わらねぇぜぇぇぇぇ!!と無駄な絶叫が虚しくこだまする。ただの騒音おばさんじゃねぇか。まさか愛に沈黙で答えるタイプのメンか...でもこの場合は沈思黙考ではなくただの無視だ...つれぇ。ピュアに辛い。まだ処女やぞ!(※あくまで自己申告です)

スマホが擦り切れるまで延々とYOUTUBEでタロット占い動画を見る。タイマン張って大枚を叩いていた頃が懐かしい。あれは前世のことだったか。今じゃタダで何度でも占ってもらえる時代だ。

“あの人の今の気持ち”や“離れてしまったお相手の深層心理”、“復活の可能性・今後の展望”みたいなテーマを祈るように見ていたら、うっかり「もうすぐ脱毛が終わるでしょう」と言われて拍子抜けする。どんな質問に対する答えだ。これがNHKなら視聴者ナメとんのかワレェ!といって暴動を起こすが、いかんせんタダで見させて頂いているYOUTUBE様だ、泣き寝入るしかない。あの人の気持ちが終わるといわれるよりはマシだ。

しかし待てど暮らせど音沙汰がない。1週間後には連絡来る言うたやんけ!と怒り狂ってもしょうがないし、さっき泣き寝入ると決めたばかりではないか。もう打つ手は1本もない、万に一つあるとすれば手がない私でも出来ること、『待つ』の一択のみ。終始ノーガード戦法を貫いてきたので心は大負傷、“愛は傷つけ合うことである”と何かで読んだ覚えがあるが、それではこれは愛と呼んでいいのか。少なくとも私はブラを傷つけてはいないし、ご飯も一度しか行っていない。されど心はメッタ刺し、殺傷能力だけはやたらと高いのが拗らせ男子だ。

放っておくと1日中スマホを握りしめて離さないので、ひとまず気晴らしに出かけることにした。「ミュージカル好きなお前にピッタリの映画がやってるから是非」と勧められ『インザハイツ』を観に行く。

冒頭のフリから実に1500文字、ブラへの愚痴を聞いて欲しいが為の枕詞として“ミュージカル映画鑑賞”が乱用されたと疑われても仕方がない。どうか片乳と半股開きで許してほしい所存、さぁハイライトへGO!

午後7時のヒューマントラスト。
この日は公開初日。ギチギチに混んでるんちゃうか...とマスクを3重にして劇場へ。いっそ息を止めたほうがよいのではと最近とみに感じる(けど止めない)。
おっとその前に発券をしなければ。ネット予約してあるからこの画面に入力して...っと。

画像1


タンタンタン、タンタターン!
うぉぉぉぉぉい!全然タッチパネルが反応しないじぇぇぇ!!!


まさかの“ビニール袋めくれない現象(通称:加齢)”の再来。
え?KAWAKI?KANSOU?焦る人差し指にそっと舌を当てて湿らせる。コンマ5秒の出来事である。舐めた指でタッチパネルと格闘している姿を見られでもしたら即座に老害として追放されてしまう恐ろしい世の中だ、BBAはこんな時だけ秒で動ける仕組みになっているのだ。

すん...。

おいおいしっかりしてくれや!パネルどうなっとんねん!こちとら恥を忍んで指まで湿らせてんねんぞ!なんでマグロやねん!お前も処女か!(※あくまで自己申告です)

見かねた劇場スタッフが声をかけてくる。

ス「お困りですk...」
や「(食い気味で)お困りです、あと5分で上映なのにお困りしてます、お願いします全然動かないんですタッチパネルが動かあqwせdrftgyふじこlp;@:..!!!!」

もう忍んではいられない。恥じていては本編が終わるし、老体を鞭打って稼いだ日銭も泡になる。せめて元だけは取らねば。嗚呼BBA根性ここに極まれり。

スタッフは私のスマホを覗き込むと、「はい、はい、なるほど」と言いながらトントンと画面に番号を入力していく。

な!お前が握っているのはまさか、伝家の宝刀・タッチペンではないか!!!!

や「お兄さんのですか?」
ス「え?いや、普通にここ置いてましたよ」

はにゃ?

NO〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

画像2


すぐ!すぐ右!なぜ!どうして見えなかったのどうして!

ス「そんな時もありますよ。まぁよくある老化現象のひとつです」

最後の方はそう言ったように聞こえただけなので、どうか彼を責めないでいただきたいのだが、恋でもないのに盲目になったのは初めてで、いよいよ押し迫る閉経の二文字に戦々恐々とした。

滑り込みセーフで開演1分前。
指定の席について辺りを見渡すも人おらず。
ここはあれかい?日活しか上映してない田舎の寂れた映画館か何かかい?

いいや、ここは世界の中心SHIBUYAだ。
時期も時期だからとは思うけれど、現実はこうも非情かと、生きているのが悲しくて仕様が無いと呟いた太宰の気分になる。

反して冒頭からテンション高めな本編。
舞台はニューヨークの移民の街・ワシントンハイツ。そこで育った若者たちが、自分の夢や希望に向かって奮闘するという話だ。
ミュージカルだから当たり前なのだが、セリフがない。
あるのは歌と踊りだけだ。

画像3

座席が震えるぐらい熱いパッションで己のエモーショナルな気持ちを歌い上げる面々。実際、私も何度か音楽にノりかけたが、【HAJI-恥-】という日本古来の文化がしみつきまくっていてノれなかった。
他の客の様子も伺ったが、狂ったように踊り出す輩も、ご機嫌なビートをかましてくるビッチも見当たらず、皆一様に微動だにせず画面を眺めていた。さすが地震大国、揺れに強いし動じない。我々が団結すればイナバの物置にも勝てるだろう。まさか今日の上映はアラフォーオーバーしか入れない設定だったのか。
映画の内容と自分の感情がリンクせず、気晴らしに来たのに心に暗雲が立ち込めるというパラドクスを抱えたまま退場。
元を取るどころかガッツリ何かを絞り取られた気分がしてみぞおちの辺りがシクシクする。

“死ぬこと以外かすり傷”ではない。それは陽キャの発想だ。
陰に生きる者にとって、生きるとは時に死ぬことよりもスパイシーでクライシスでディサポイントメント、恋なんて最たる例だ。

映画を観た2週間後、ふいに全てがどうでもよくなり、

「狂いそうだから返信して、一欠片の優しさがあるなら私を切って」(原文ママ)

とブラにメールを送りつけた。もうLINEは諦めた。もともとGmailでしかやりとりしない仲だったのだ。初心忘るべからず。

だがそれ以降、現在もブラからは何の連絡もない。
“神隠しに合ったまま黒ヤギさんは召された”ということで、この恋という名の絶望からは手を引くと決めた。

ス「そんな時もありますよ。まぁよくある老化現象のひとつです」

若人が優しく肩に手を置く。
脈打つような愛を、次こそはするよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?