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2022年の本ベスト約10冊

 今年も色々面白そうな本がたくさんありましたね。読みたかった本を全部読めたわけではないですが、それはまた来年のお楽しみ。
 今回は、2022年に読んだ今年刊行の本の中から、約10冊を選んでみました。

 まずは上半期ベストでも取り上げたもの。詳細はこちらの記事にて。


1.NSA

アンドレアス・エシュバッハ 著/赤坂桃子 訳(ハヤカワ文庫SF)

 2022年最初に読んだ本がとんでもなかったという……。好きになれるかわからずに上巻だけ買って、速攻で下巻を注文した本。本作に登場するオイゲン・レトケは、「物語の登場人物としては最高にいいけど現実には絶対に会いたくない人No.1」。
 個人的には2022年ベストと言っても過言ではない面白さ。いい年始の始まりでした(お話はそんな清々しいものではないですが)。詳しくは先述の「2022年上半期の本ベスト約10冊」にてあれこれ綴りましたので、気になる方はぜひ覗いてみて下さいね。


2.「その他の外国文学」の翻訳者

白水社編集部

 日頃読んでいる翻訳ものがますます好きになった本。この本をきっかけに読んだ色んな国の本がとても面白かったので(関連書籍については「2022年上半期の本ベスト約10冊」にて)、2022年はこの本なくして語れなかったなと思います。


3.マイ・ポリスマン

ベサン・ロバーツ 著/守口弥生 訳(二見書房) 

 こんなに膝に矢を受ける恋愛小説なかなかありませんでした。本作関連のエッセイを公式リンクの下に置いておきますので、宜しければぜひ。


 ここまでは上半期に読んだ本でした。さて、後半戦は7月以降に読んだ本です。(刊行時期は2022年上半期かもしれませんが、私が読んだタイミングということでご容赦を~)


4.無垢なる花たちのためのユートピア

川野芽生 著(東京創元社)

 触れたらすぐに崩れてしまいそうなほど繊細で、どこまでも残酷で心がざわつく。ひりひり痛むような息苦しいような、真綿で首を締めてくるSF短編集。読んだというより、飲み込んだ……と言った感じの不思議な本。
 著者が歌人ということもあり、言葉に”纏わりつく”雰囲気が最高に良いです。滑らかな絹のような猛毒
 特に好きなのは、楽園を目指して空を旅する船を舞台にした表題作『無垢なる花たちのためのユートピア』、一番うわぁ……と脳にこびりついたのは最後に収録されている『卒業の終わり』です。


5.異常 アノマリー

エルヴェ・ル・テリエ 著 / 加藤かおり 訳(早川書房)

 あなたなんてものをお書きになったの…? 淡々としたわかりやすい文体で語られる“異常”が、不気味で福音で呪いであるような物語。読了後に見るカバーとカバーを外した表紙、本当に素敵……(遠い目)
 下のような感じで、大ヒットに伴い全面帯の真っ赤なパッケージで展開されていた時期もありましたが、個人的にこのお話に対して抱いた印象はちょっと違います。どちらかと言うと、さりげなく読んで「えっ」となる感覚、後から静かに湧いて来る怖いな怖いな……の余韻。そういうものを味わうお話だと私は思った次第です。


6.シャーロック・ホームズとシャドウェルの影

ジェイムズ・ラヴグローヴ 著 / 日暮雅通 訳(ハヤカワ文庫)

 子どもの頃からシャーロック・ホームズが好きな私にとって、初のパスティーシュ。とにかく面白くて、徹夜しかける勢いで読みました。クトゥルーものだけどちゃんとホームズもの。どちらのファンにも楽しめるはず!
 そしてこの観点は人によると思いますが、自分は、ホームズとワトスンが事件解決のために動いている(二人の関係性に焦点が当たるより、事件が主軸で進む)ホームズシリーズが好きなので、本作は私の好みにドンピシャでした。
 続編もあるとのこと、今から楽しみです。


7.捜索者

タナ・フレンチ 著 / 北野寿美枝 訳(早川書房)

 とにかく分厚い674ページ、「いつ事件が起きるんだ……?」と逆に不安になるほど淡々と進むどんより曇った田舎の風景。音楽で言うとアンビエント。主人公が引退した元警官という時点で何か起きそうな気がするのに、ずっとそんな調子でそわそわ目が離せず、あっと言う間に読み終えていました。
 著者・訳者の技量の高さによって醸し出される緊張感や物悲しさはもちろん、作中を取り巻く田舎独特の閉塞感や息苦しさがそうさせるのでしょう。じわじわとゆっくり、しかし確実に広がっていくインクのシミのような展開は紙の本だからこそ味わえるスピード感。名作です。
(余談ですが、本作と次に取り上げる作品がいずれも指の第一関節より分厚い本だったので、その後分厚い文庫本に対しての抵抗感がぐっと下がりました。ありがとうタナ・フレンチ……。)


8.美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック

マッケンジー・リー 著 / 桐谷知未 訳(二見文庫)

 1700年代を舞台にした、放蕩息子・モンティのグランドツアー。同性愛や家長制度、人種差別……と深刻な題材を含みつつも、主人公の語り口とひっきりなしに起こる事件のおかげでドタバタ冒険譚に仕上がっています。その一方で、本当なら大人になるべきモンティの内面が、まだまだ繊細な少年というのがひりひり痛む……。秘めたる恋心の独白の美しさは必読です。彼らの“物語の先の人生”が愛おしく思えるお話です。
 また、特筆すべきは訳者あとがき
 『モンティにきかれたら、わたしたちはどう答えるでしょうか?』と、ある質問が提示されているのですが、それを見た瞬間に、物語を読み進めて来た間に溜め込んできた感情が溢れ返って号泣してしまいました。
 彼らが生きた時代の道の先に私たちが居るのなら、世界はどう変わっただろう……。そんなことに思いを馳せる愛おしい一冊です。
 
 本作については、こちらの記事でも取り上げています。


9.殺しへのライン

アンソニー・ホロヴィッツ 著 / 山田蘭 訳(東京創元社)

 嫌な感じの名探偵ホーソーンと作家アンソニー・ホロヴィッツの凸凹コンビが繰り広げる推理冒険譚第三弾。第三弾ですよ。それなのに(だからこそ)、ますます輝きを増すミステリー。「ある島で行われる文芸フェスに行ったら殺人事件が起きた」なんて、この二人でなければ遭遇しないし解決出来ない事件! と、ずっとワクワクしてました。
 読めば読むほど、小説だけでなくエンタメ全体への愛が増していくのも魅力。私はなんとなくイギリス映画やドラマ・お芝居を観ることが多いので、そうした舞台を垣間見ることが出来る現代ドラマとしても楽しめました。


10.掌に眠る舞台

小川洋子 著(集英社)

 小川洋子作品に流れる、淡々とした日差しの中の靄みたいな空気感が大好きです。本作は短編集で、「舞台」を題材にした物語がたくさん詰まった贅沢な一冊。日常あるいは非日常を、著者の“理屈ではない柔らかな要素分解”によって紐解き、その景色の中で紡がれていく物語。本当に心地いいです。
 一番のお気に入りは、「お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私(引用元:以下公式ページ)」を描いた『装飾用の役者』です。


11.窓辺の愛書家

エリー・グリフィス 著 / 上條ひろみ 訳(東京創元社)

 前作『見知らぬ人』が大好きだったので、続編である本作はさてさて……と思って読んだらやっぱり好きでした。エリー・グリフィスが高齢者ミステリーを書いてくれるなんて……(私シニアが活躍するコンテンツが大好きです)。
 どんどん絡んでいく人間関係と深まる謎、「そことそこが繋がってるの……」とびっくりするのが心地いい。前作で登場した俺たちのクレアも出て来るし、なんやかんやでクレアと仲良くなってる刑事ハービンダーの様子にも愛着がわいてきます。


12.彼は彼女の顔が見えない

アリス・フィニー 著 / 越智睦 訳(東京創元社)

 ああ、彼は彼女の顔が見えないってそういうこと……。という驚きと、大雪の中ドライブする一組の夫婦の姿で幕を開ける本作。その時点でもう名作の予感、読んでも読んでも正直なかなか事件は起きない。その不穏さがたまらなくて、地味な絵面が続くはずなのに気になって気になって読み進めてしまった小説
 舞台が”大雪で身動きが取れなくなった教会”ということもあり、登場人物がとても少ないので、「海外文学はやたら人が出て来るから苦手……」という人にもおすすめ(でも簡単に人間関係を把握出来るとは言ってない)。
 また、著者は経歴がほぼ不明なんだとか。こういう物語の外にある謎めいた雰囲気も、たまらなくいいですね。


13.木曜殺人クラブ 二度死んだ男

リチャード・オスマン 著 / 羽田詩津子 訳(早川書房)

 高齢者向け高級集合住宅で生活する四人が、暇つぶしで集った『木曜殺人クラブ』の作品第二弾。私が理想とする高齢者が活躍するコンテンツで、大好きで仕方がありません。
 いや、そういう思い入れを抜きにしても、全く飽きの来ないストーリーに魅了されること間違いなし。これは小説ですが、劇場版ですよ劇場版。
 今回の事件は、彼らと同じ集合住宅に引っ越して来た謎の男をきっかけに繰り広げられる、繰り広げ……広がり過ぎでは? という大事件。お馴染みの四人や彼らの周辺人物について、知らなかった一面を見られるのも楽しいです。
 あと、著者によるめちゃめちゃウッキウキの謝辞も見所の一つです。こんな始まり方ある? と笑ってしまいました。

 前作の感想は、こちらに入っています。


14.英国屋敷の二通の遺書

R・V・ラーム 著 / 法村里絵 訳(東京創元社)

 読み終わった瞬間の私の感想は、「もう私、あらすじも含めて誰も信じられない……」でした。だって、こんな風に書かれたらだいたい想像する筋書きがあるじゃあありませんか……。

代々の主(あるじ)が非業の死を遂げたグレイブルック荘。数々の事件を解決したアスレヤは、現主人・バスカーに請われて屋敷を訪れる。バスカーは何者かに命を狙われ、二通の遺書を書いていた。どちらが効力を持つかは、彼の死に方によって決まる。遺書が人々の心をざわつかせるなか、ついに惨劇が! アスレヤは殺人と屋敷をめぐる謎に挑む。

公式ページより

 嘘じゃん……。もう誰も信じないんだからね……。
 そう思いながら本を閉じ、めちゃめちゃ面白かったなー! という満足感でいっぱいになる一冊。ただの"屋敷で起きた殺人事件”で終わらないとんでもない展開、そして屋敷の中だけでもかなり拗れたあれこれ。出るわ出るわの驚きに、読みながら何度か「ええーっ!」と声を上げました。
 現代のインドで事件が起きるのですが、古い洋館・陸の孤島という『金田一少年の事件簿』(というか往年の推理小説)を思わせる舞台設定が心憎い。ああ、憎い、憎い……。
 主人公のアスレヤが何かと過去について意味ありげな気配を醸し出しているので、その点についても気になるところ。彼が活躍する続編もあるとか、ぜひ読みたいと思っております。


終わりに

 2022年、良作多すぎでは……? 年末に読もうと思っている本もいくつかあるので、そちらを読むのも楽しみ。(ほんとは「木曜殺人クラブ」もそのうちの一冊だったのに、少し読んだら我慢出来なくなって読破してしまいました。)

 最後に、今年読んだ本の感想ツイートまとめを置いておきます。

 好きな本と出合えたいい一年でした。2023年も好きな物語・ことばにたくさん出合いたいものです。



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© 2022 Aki Yamukai

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