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短編小説・詩

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ちょっと重めのヒューマンドラマが多めの作品群。
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記事一覧

味しらべ。【詩】

味しらべ。【詩】

チョコレートはジゴロ
甘く溶けて、口の中にじゅん、と広がる

おかきは江戸っ子
固すぎて、ちょっといけず
でも、噛み砕いてみるといいお味

ミニトマトはお孫さん
トマトよりちっちゃくて、かわいくって
どうしようもなく特別感

このお味噌汁はママ
昔は当たり前だと思ってたけど
大人になったらじんわり染みる
忘れたくない、あたたかさ

竹馬ん友の頭ん中。【短編小説】

竹馬ん友の頭ん中。【短編小説】

 メロス。君がアホの子であることは承知している。
 だが、今回だけは言わせてもらうぞ。

 その一。王の暗殺を企てるなら、家の用事は済ませてから来なさい。
 その二。勝手に人を身代わり指名するんじゃありません!

 幼少期に足が速いというだけで女子にもてはやされ、勘違いして成長したせいで友と呼べる者がいないのは知っているが。
 私は今、誰とでも広く親交を持ってきた事をかつてないほど悔やんているぞ。

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蜘蛛の糸の蜘蛛【掌編小説】

蜘蛛の糸の蜘蛛【掌編小説】

 いかにも私は天上に暮らす蜘蛛である。

 悟った人・仏陀の遣いであり、あの方が望むならばどんな役目でも果たしたいと思っておる。しかし――。

 いくら蜘蛛とて、無限に糸を吐ける訳ではない。
 糸を吐く行為自体、それなりに負担がかかるのだ。

 「地獄の底に糸を垂らし、大の男ひとりを引っ張り上げろ」とは、何という無理難題!

 ……とはいえ、否と言えるはずもなく。

 僅かな猶予を使い、氣を集める

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サラダには向かない。【詩】

サラダには向かない。【詩】

買ったばかりのレタスの葉に茶色の筋がありまして
それが生きていた頃にこの子が貯めた栄養素なのも知っていますが

私は一枚剝いで捨ててしまう
だって見栄えが悪いんだもの

「せっかくがんばったのに」なんて怒ったら嫌
残りは全部きれいに食べるわ

君の命に毎回手を合わせて
「いただきます」って言ったあと
ぺろりと私の一部にしてしまうから

ざまあみろ【詩】

ざまあみろ【詩】

糸にぶら下がって
ゆらゆらしている針が嫌い

子供のころは
おっかなびっくり
なかなか穴に通せなくて
勤めだしても
全部お母さんに丸投げた

だけど 三十過ぎたら
私しかあのちっさな穴が見えなくなって
しぶしぶ 糸通しの役目を仰せつかった

えらくあっけなく済んじゃって
ちょっと呆気にとられるくらい

いつの日か
私がおばあちゃんになっても
かわりに糸を通してくれる人はいないけれど

それなら

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テロメア。【再掲】

テロメア。【再掲】

 独りぼっちは、寒い。肌がひやりとして、ピリピリと引き攣れるよう。
 五十年前。この世界から、「ニンゲン」は消えてしまいました。

「……おはよう、メア」
「なーん」

 私は明るい日差しで、いつも目を覚まします。時計は必要ありません。だって、時間はニンゲンが勝手に作った概念なのですから。大勢の人々が混乱なく動くためのそれは、もう役目を終えていました。
 ベッドの上に飛び乗ってきた年寄りの猫・メア

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