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【詩】百億光年レター

138億年前に生まれた自我が、意志を持って拡大した。音のない爆発のあと宇宙は晴れ上がった。爆発による膨張で零下270度まで冷えた宇宙の種。ゆらぎが深い夜を抱きしめて、結合して溶け合い成長した。そこには他者を分かつふちや輪郭のようなものはなかった。自我は目に見えず質量は存在する暗い物質を主食として、身ひとつを作り上げていった。

自我は、引き延ばされた夢を見ていた。彼女が思い描いたアイデアは、百億光年の距離を超えて幾多の銀河団の思想に反映され、いのちがある星では、あらゆる生きものの原子や、毛細血管や、樹木の構造に投影された。その創作はすべてが作為的に生まれたものではなく、筆に任せるままに無邪気であり、暫定的なかたちや色を決めピンで留めるように実体化した。あそびがなくては、と彼女は思った。いちど生まれたもの、かたちづくったものでも、小さな芽が四肢を伸ばして幹から枝葉を増やし根を広げるように、偶然の好機をとらえて自らの意志で変化する闊達さと、図々しさがなくては、と思った。

ながいながい創作のあと、はじめて彼女は自分から切り出されたものたちがひとりでに動き出し生態系を作っていく様子や、その表情の豊かさ、ヴァリエーションに感嘆した。もとがひとつの自我なのだから、この多元宇宙の中で、ふとした拍子に他のものたちと通じ合う瞬間、奇跡のような共時性が備わるのは当然のことだった。だれかがわたしのために泣いてくれる世界にしたいと、わたしが最初にそうしたいと強く願ったのだ。

その祈りが、目が眩むような旅程と時間を経て、いま星空を見上げるあなたに光の書簡として届いた。同時に彼女は、わたしもひとつの装置でしかなく、だれかのために使ってもらうためのものだと思った。いまはそれを悲しいとは思わなかった。わたしをふくめた総体としての自我が、だれかを暖かい毛布で包み込むようにやさしく、有効に使われますように、と願った。彼女はまだ、夢のつづきを見ていた。





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