浦和レッズ 2023年の総括
1年間お疲れさまでした。今年も年間総括の時期がやってきましたね。昨年は三年計画の最終年で、年間総括だけでなく三年計画全体の総括を記事を4本に分けて、全体で約10万字のボリュームで行いました。
僕がこうして文章を書くのはこれで4シーズン目なのですが、自分なりの感想をアウトプットすればするほど、試合を観たり監督や選手たちのコメントを読んだりした時に思うこと、言いたいことのボリュームが増えてきたような気がします。それは自分の中で何かを言い切ることが難しくなってきているからなのだろうと思います。
つまり、何か1つの事象に対して直感的に思うことはあるものの、その後に落ち着いて考えた時に違う見え方になることが多々あって、その結果、自分の意見が「これはこうだとは思うんだけど、こういう理由も考えられるからそこは難しいよね~」というなんとも弱腰なものになっているきらいがあるように思っているということです。
それでも僕がこうして文章を書くのは、自分の気持ちの落としどころを見つけるためというか、自分なりに頭を整理して次のシーズンへ向かっていく準備をするためでもあります。今年はこれだけ多くの試合を観てきたわけで、ぼんやりしているとその1試合、1試合の記憶は簡単に混ざって区別がつかなくなってしまいます。なので、時間はかかるし頭も疲れるのですが、僕自身が抱いた2023シーズンの浦和レッズに対しての気持ちや、未来に向けてのおもいを整理する作業にどうかお付き合いください。
◆シーズン振り返り
この1年を評価し、来年以降の展望をしていくためも、まずは監督たちのコメントや僕が1年間書いてきた雑感を中心に2023シーズンを振り返っていこうと思います。
昨年まではシーズン中も1か月ごとに振り返りをしていたのですが、今年はしんどくてそこまでは出来ませんでした。ただ、シーズンを振り返るにあたって、60試合をまとめて一気に振り返るのは大変です。なので、チームの構築の仕方や選手の起用のされ方、ピッチ上で表現されたものなどを鑑みて以下の4つの時期に分けて整理していこうと思います。
2023年の1番のトピックであるGWのACL決勝までの時期
ACL決勝から過密日程の中でチームに変化を加えようとした夏の中断までの時期
夏の移籍ウィンドウが空いたところからシーズン終盤の山場へと向かっていった時期
ルヴァン杯決勝以降の正にシーズン終盤の時期
(1)プレシーズン~ACL決勝
まずはチームの構築をしつつ、クラブの大きな目標の1つだったACL優勝に向かっていった時期から振り返っていきます。2022年から2023年にかけては監督交代があったので、リカルドからスコルジャさんへ監督を交代したことについての年始の就任会見での土田SDのコメントから見てみます。
僕はこのコメントを読んで「次の段階へ進む」という言葉が気になりました。
まずは大前提、つまり「昨年までの段階」を整理しておこうと思います。2019年末から始まったフットボール本部体制が「三年計画」を掲げ、2020年は大槻さん、2021年~2022年はリカルドに監督を任せてきました。
監督は大きく分けて指導者タイプと管理者タイプの2つで、大槻さんやリカルドはどちらかというと指導者タイプだと思っています。クラブの再建を目指してコンセプトを定めた中で、そのコンセプトを表現できる選手を育てていく段階では、ある程度指導者が選手のプレーを決めてあげる、こういう場面はこうすると教え導いてあげる、そうしたスタンスが求められます。
ただ、チームが成長していく中で選手たち自身でプレー選択が出来るようになった時には、ある程度選手に判断を委ねるように方針を変更していく必要があります。そして、僕は「三年計画」を指導者の「決める」「委ねる」のバランスに軸を置いて見て行く中で「委ねる」の割合を増やす時期に来たのだろうということを三年計画の総括の中で書きました。
僕の中で感じた選手たちと指導者のスタンスでのギャップ、要はそろそろ選手たちを大人扱いして「委ねる」の方に舵を切っていっても良いのではないかということが土田SDの言う「次の段階」ということだったのかなと解釈しています。そして、スコルジャさんは管理者タイプの監督であり、選手たちに「委ねる」割合が強い状態を理想としていることはシーズン中のコメントからも窺えます。
また、スコルジャさんが大槻さんやリカルドと大きく違うのは、監督として1部リーグでの優勝経験があるということです。30年で1度しかリーグ優勝出来ていないクラブがリーグ優勝を狙うのであれば、成績、実績のある人を連れてくるというのは自然なことだと思います。内部にはノウハウが無いのですから、それがある人に来てもらう方が話が早いわけですから。
なので、スコルジャさんの招聘についてはいよいよクラブが結果を出しに行くシーズン(勿論いつだって結果は出したいけども)という読み取り方をしましたし、だからこそ僕も結果をより重視するような見方をしたシーズンでした。
スコルジャさんのフットボール観は、シーズン前にレフポズナンの試合を観て予習したように、4局面の回転数を上げる、それを出来るだけ敵陣で繰り返す、そうしたアグレッシブなスタンスのものだという理解をしています。ただ、ACL決勝を5月に控えているということもあって、まずは守備の強化から着手していきました。
さらに、非保持を整理して試合を壊さないようにすることを優先しつつも目先の結果も求める必要があることから、ACL決勝までの間は出来るだけ前年からの継続をベースにしながらメンバーを固定して、連携を無理やりにでも高めていくアプローチを取りました。特にメンバーを固定して良かった点としては非保持で4-4-2の構造を維持しながら対応し続けることが出来るようになったことが挙げられます。
ACL決勝の2試合を振り返ると、前線の選手の非保持での貢献は絶大でしたし、岩尾がキャンプからやってきた守備の部分が自分たちの立ち返る場所や共通認識としてあったのが良かったと橋本英郎との対談で話していたように、このアプローチは正しかったと思います。
開幕2連敗でスタートしましたが、この敗戦はいずれも非保持でのSHのアクションの部分でエラーがあったところからでした。レフポズナンを予習した中でも非保持でのタスクで難易度が高いと思われたのはSHです。
4-4-2でセットした時に2トップが中央を埋める、2トップの脇にボールが来たらSHが縦スライドして迎え撃つ、この時に逆サイドのSHはCHの脇へ絞りつつも相手がリサイクルをしようとしたときには縦スライドして元のサイドへ押し返しに行くアクションが求められます。開幕2試合での失点はSHがCHの脇を埋められなかったことで、自分たちの組織の内側を通って逆サイドまで展開されてしまったところからでした。
中盤で絞るだけ、前に出るだけ、そうした決め打ちの態度ではNGなので、それを出来るだけ長い時間、的確にこなす体力と判断の良さが求められます。当初はSHにモーベルグや松崎が起用されましたが、次第に非保持での貢献度の高さから大久保、関根が1stチョイスになっていきました。
チームとしての非保持の精度で言えば、4節の神戸戦あたりでチームとしての構造を維持しながら対応できるようなった実感がありましたし、8節の札幌戦では、オーソドックスな4-4-2を配置でぶっ壊すことに定評のあるミシャ式に対してもキャンプから構築してきたスタンスで対応できたことは見ていて安心感があったことを雑感に書きました。
一方で保持に目を向けると、前線4人のポジショニングは流動的にする、ハーフレーンの奥を取りに行く、ということはキャンプの頃から目指していることとして聞こえてきた訳ですが、非保持の構築を優先した結果、保持の部分ではチームとして目指すことの表現はなかなか出来ていない状態でした。ただ、スコルジャさんはこの辺りを仕方のないこととして割り切っていて、「ACL決勝が終わったら本気出す」という感覚だったのだろうと思います。
それでも、リーグで開幕2連敗スタートしながらACL決勝に向かうまでの戦績は、リーグ戦が9節消化して5勝2分2敗で首位とは勝ち点差2での4位という上々のものでした。ルヴァン杯を含めてもリーグの2試合以降は負けなしで、スコルジャさんが本来目指している保持の部分の構築を先送りにして表現できていない状況でありながらも、しっかり結果を出したことでチームとしてもやれるという自信をもってACL決勝に向かって行けたのではないかと思います。
ACL決勝での勝利は、フットボール本部体制での強化や三年計画といった取り組みの方向性が間違っていないことを示すものだったと思います。特にゾーンディフェンスによる4-4-2の守備練度の高さは前年までの取り組みが土台としてあったからだろうということは雑感に書いた通りです。
ACL決勝の前には一度トレーニングで3バックを試したこともあったようですが、4-4-2のままの方が良いだろうと信じることが出来たのは、それまでの3年間で継続してきた成果だったのだろうと思っています。
こうして彼らの取り組みが報われたという点で、三年計画を大真面目に捉えてきた僕にとってはACL優勝はとても嬉しい出来事でしたし、1人の浦和レッズを愛する者としてもこの上ない幸せに包まれた最高の瞬間でした。今のクラブが報われて欲しいという「おもい」が強かった分、そして2019年の悔しさが大きかった分、試合終了のホイッスルが鳴り、スタジアムが爆発するような大きさでの「We are Reds」コールの後はしばらく涙が止まりませんでした。
ちなみに、僕がACL決勝ユニを購入してつけた番号は関根です。2017年は途中でチームを離れて、2019年には決勝に臨むもカリージョに蹂躙され、昨年夏の決勝トーナメントの全北戦の前には僕らに熱く呼びかけをして、こうした物語を彼が自分の力で幸せな形で成就させたことへの敬意を責任原理主義者として彼の名前と番号を背負うことで表したいと思いました。
またこの景色を見たい、この調子でリーグも獲りに行くぞ、そうした気持ちがあった反面、ACL決勝を目指して闘った中でそれを勝ち取ったことによる達成感があった分、その後の試合でいかにテンションを落とさずに闘っていくのかというのは人間がプレーする以上、簡単ではないだろうという不安も少なからずありました。
(2)ACL決勝後~夏の中断期間
ACL決勝の興奮が残るままに中3日で鳥栖戦がやってきて2節以来の敗戦を喫しました。試合全体を観れば、鳥栖の非保持がある程度人を捕まえに行くのに対してそれをひっくり返すような展開を作りながら相手ゴールへ向かう場面も作れていました。ただ、手前から繋いで前進しようとする部分についてチームとして積み上げにあまり着手できていなかったこともあって、この試合ではビルドアップでのミスから失点しています。
ただ、次のG大阪戦ではCHがビルドアップ時に簡単に最後尾に落ちないだけでなく、それまでのようにCH2枚が6番、8番で棲み分けず、キャンプの頃から求めていたような8番2枚のようなイメージでプレーさせているような印象を受けました。また、前線4枚の流動性という部分が上手く表現できていた場面もあって、「ACL終わったら本気出す」がいよいよ実行に移されたのだとワクワクするような内容でした。
さらに、この前線4人の流動性は次の福岡戦でも表現できていただけでなく、裏へのアクションとそこへボールを出すタイミングがあってきている手ごたえもありました。
ただ、このタイミングでミッドウィークにACL決勝があったことによって延期されていたリーグ戦や、ルヴァン杯と天皇杯が入る7連戦に突入しました。こうした日程の影響もあってACL決勝に向けて固定されていたメンバーを少しずつ入れ替えながら闘っていくことになります。スタメンのトップ下が小泉から安居になったり、SHにFWが本職の髙橋やリンセンが試され始めたのもこの時期です。
SHについてはACL決勝までに固めた非保持の部分が緩むことをどれだけ許容できるかというのがポイントになります。この時点でリーグ戦の約1/3を消化する段階に来ており、他のクラブは開幕してから少しずつチームとしての枠組みを固めながら進んでいる時期なのに対して、浦和は固まったものを組み替える時期になっていたので、試すことと結果を出すこととのジレンマを抱えることになったと思います。
象徴的だったのは16節の鹿島戦で、試合開始時点では左SHにリンセン、トップ下が関根という並びでした。狭いスペースでも味方と繋がりながらプレーできるし、ボールを受けたらターンも出来る器用さを持つ関根がこのポジションでスタートすることにワクワクしましたが、試合が始まると左SHのリンセンのところで非保持の構造が崩れそうな雰囲気がプンプンしていたので、12分頃には関根とリンセンのポジションを入れ替えて試合を壊さないような手当てがされました。
試合後の「僕のトップ下人生は10分で終わりました。それは残念過ぎました」という関根のコメントには思わず笑ってしまいましたが、それと同時に今持っている武器(堅固な非保持)を一旦脇に置いて別の武器(相手を押し込む保持)を手に入れることの難しさを感じるものでした。
それもあってか、ルヴァン杯や天皇杯ではある程度ターンオーバーすることはあったものの、カップ戦で結果を出した選手がリーグ戦に絡むというサイクルにもなかなかならず、試合に絡む選手とそうでない選手の差がありました。
この時期では6/26の定例会見にラファコーチが出席した際にもっとミドルシュートを増やすような声掛けをしているという話があった直後の湘南戦で露骨にシュートを打つハードルが下がったことはありましたが、ハーフレーンの奥を取りに行く意識やタイミングが揃う回数が少なく、そもそもそこまで安定してボールを運べる回数も多くないという課題が続いていました。
また、CHは8番2枚が理想としつつも、結局は岩尾が6番役としてヘソの位置や、そこから最後尾に落ちるような形になることが定着していきました。ただ、それはトップ下に入るのが10番タイプではなく安居になっていたり、SHに入る大久保や関根が裏に抜けるよりも相手の組織の間で受けてプレーすることに長所があったり、SBが酒井、明本、荻原と前に出て行く、好戦的な姿勢を出せる選手であったりしたことが理由なのだろうという印象でした。この辺りは前半戦振り返りの振り返りの記事でも触れました。
また、その試合の前後が5日以上空く、つまり連戦の入り口、間、出口のどれにも属さないような試合というのはACL決勝以降では6/18のルヴァン杯グループステージ最終節の清水戦のみでした。しかも、この清水戦が2023年最後の連戦に属さない試合で、これ以降の試合はシーズンが終わるまですべて連戦に属する試合でした。
連戦に属さない試合は1年間通して開幕戦を含めて5試合しかなく、これは浦和に次いで多い55試合を戦った横浜FMの14試合と比べても大きな差がありますし、優勝した神戸はそれが17試合ありました。(しかも神戸は9/3の京都戦以降すべてが連戦に属さない試合!)
そうした日程的な要因から、トレーニングは戦術的な積み上げよりも選手のコンディション維持、回復に費やされることが多くなったのではないかと想像します。モルフォサイクルにのっとるのであれば、試合と試合の間は5~6日程度空いていてその間にコンディションの回復、身体の負荷、思考の負荷を調節しながら試合に向かっていくことが理想とされています。
5~6日空いたとしても中3日程度の連戦を続けた後となると、それまでにコンディションが十分に回復する前に再び消耗することを繰り返しているので、通常のサイクルを回すのは選手の身体面だけでなく精神面にも負荷がかかっていたことは想像に難くありません。こうした日程の中で完全なターンオーバーが出来る試合はあまりなかったこともあって、チームとして戦術的な積み上げをすることは難しかったのだろうと思います。
それに加えて、スコルジャさんが選手に対して「委ねる」傾向の強い監督であることも影響してか、それぞれの選手が自分の上手く振舞える場所でプレーをする回数が増える傾向にあったのではないかと思います。チームとしての枠を上手く共有出来ない状態では個人で何が出来るかが晒されやすくなります。そして、さらに過密日程となった後半戦はそこで大いに苦労することになってしまいました。
(3)夏の中断後~10月
7/16のC大阪戦から8/2の天皇杯名古屋戦までは中16日ありましたが、その半分の8日間をオフに充てています。オフ明けは体を起こすようなトレーニングをする日にしたり、試合前日は追い込んだトレーニングはしないので、この期間も戦術的な積み上げをまとめて行うよりはコンディションを回復し、普通に試合に向かっていく準備をしてきたという見方で良いと思います。
そして、この中断明けから10月末の鹿島戦までを2連戦、6日空いて4連戦、7日空いて8連戦、6日空いて5連戦という強行軍で駆け抜けていきました。これは勿論、8/22に行われたACLプレーオフの理文戦に勝って本戦に出場したからでもあるのですが、中断前からある程度こういった日程は覚悟していて、だからこそ中断期間はしっかり体と心を休めることを優先したのだろうと推測します。
さらに言えば、この後も元々スコルジャさんが目指したもの、レフポズナンで表現してきたようなものを目指すようなトレーニングで戦術的な積み上げをすることは難しいということをある程度覚悟していたのかもしれません。
チームとしてトレーニングで積み上げが出来ないとなれば、出来ることとしては試合に絡めそうな選手を補強するということになるのですが、この夏の期間は確かに出場機会の少なかった選手たち(犬飼、松崎、モーベルグ)を放出したものの、加入した選手は怪我で数年試合に出場できていない安部、欧州や中東で思うように結果が出ていない中島、ムアントンからの練習生たちの中で評価が高かったものの実力が未知数なエカニット・パンヤの3選手でした。厳しい言い方ですが、結果的には加入当時に想定していた範囲は出なかったかなと思います。この辺りは後程改めて触れることにしましょう。
後半戦はACL決勝の後に見られたような前線4人のコンビネーションはどんどん見られなくなった印象です。相手が前に出てきた時にそれをひっくり返すボールが上手く入った時には良い展開になったのかなと思いますが、前線のアクション不足と手前の選手が無用なロストを避けるために運べなくなるデッドロックのような状態にもなりやすかったなと思います。
広島戦は、敗れたものの明本が前線で起用されてカンテのゴールの時などは相手の背後へのアクションを何度も行っていてボールが上手く前に出て行くことがあったのに対して、その次の名古屋戦や新潟戦では相手の中盤背後でボールを受ける選手ばかりになって上手くボールを前進させられずに苦しんでいたように見えます。
保持の内容はなかなか安定しないものの、名古屋戦、湘南戦はカンテの理不尽ゴールで勝ち点3を奪い取りました。これは2021年のユンカーもそうでしたが、どんなチームでもチームとして100点満点のボール前進が出来ることはそんなに多くないので、50点くらいで前進した状況であってもゴールを決めてくれる選手がいるかどうかで順位表での立ち位置は大きく変わります。
これは自分たちが上位になればなるほど、下位チームと対戦した時に相手はゴール前を固めてくることがある訳で、それでも強引にゴールをこじ開けることも必要になります。力関係的に3ポイントを稼げる相手からいかに稼ぐかがリーグ戦で上の順位に行くためには大切なので、ゴール前にはやはりお金をかけるべきです。
9月に入ると髙橋、リンセン、シャルクといったアタッカー陣に出番が回ってくるようになります。ただ、それは大久保、中島、明本といった選手たちが負傷して前線の駒が足りなくなったという要素もありました。9/15の京都戦ではリンセンがPKを取ってもらえなかったシーンに印象が引っ張られがちですが、終盤の前線がカンテ、リンセン、興梠、髙橋というファイアーフォーメーションが初めて採用されたことも見逃せません。試合終盤であり、相手がカウンターの打ち手をあまり持っていなければ力技で殴り続けることが出来そうだという手ごたえは持ったのかなと思います。(効果は未知数)
人の入れ替えがあって構造維持の部分で難しさはあったものの、非保持はミドルゾーンで構えれば西川、ショルツ、ホイブラーテンが最後は何とかしてくれるという安心感はあるので、何とか攻撃の部分で上手い組み合わせが無いかというのを模索している中でのアタッカー全部乗せのトライだったのかもしれません。
ルヴァン杯準々決勝でG大阪との連戦があって、月末の9/24にもG大阪とのアウェーゲームがありました。今季、最もケツが浮いた試合は間違いなくこの試合だったでしょうね。
G大阪戦の前(27節消化時点)での浦和の勝ち点は46で、首位の神戸との勝ち点差は6という状況でした。一般的に言われる逆転可能な勝ち点差=残り試合数という公式に当てはめた時にはそろそろ勝ち点差を詰めていかないといけない時期に来ていて、カンテが退場したとしても勝ち点3を獲りに行く必要があった、それは相手が下位チームなので引き分けが優勝を争う相手の勝ち点を削ることにはならない試合だった、ということが残り時間のスタンスを決めました。
ただ、夏の終わりからリーグ戦は湘南、新潟、京都、G大阪、横浜FC、柏と最終的にボトムハーフになったチームとの対戦結果が3勝3分と、6試合で6ポ
イントを落としたことは優勝を目指す上では足りなかった部分なのだろうと思います。先ほど引用したスコルジャさんの「攻守のバランスを見つけないといけない」というのは、こういう試合で勝ち点を取りこぼさないために求めていきたかったことなのでしょう。
そうした中で、横浜FMとのルヴァン杯準決勝の2戦目では関根が右SBとして起用され、CHが敦樹が代表に行っていたこともあって安居と岩尾のペアになりましたが、この試合では2CHがなるべく最後尾に落ちず、右SBの関根が相手SHを制御しながらボールを前進させられており、ついにここで上手いバランスが見つかったかもしれないという高揚感がありました。
しかし、この次の柏戦で関根が負傷してしまい、ACLの浦項とのホームゲームでは岩波、ホイブラーテンのCBになりましたが、「前線のアクション不足と手前の選手が無用なロストを避けるために運べなくなるデッドロック」が再発して、またしても保持での形を探すことになってしまいました。
順位表だけ見れば優勝争いに関われている状況で、だからこそそこを目指したいという気持ちはあったのですが、チームが過密日程でコンディションが上がらず離脱者も増えていってチームとしてやれることがどんどん限定されていく負のスパイラルに陥っている感覚もありました。そして、秋が深まる11月にはいよいよごまかしがきかなくなっていったように見えました。
(4)ルヴァン杯決勝以降
ルヴァン杯の決勝、ACLのGS最大のライバルである浦項とのアウェーゲーム、リーグ首位の神戸との直接対決と11月は勝負の3連戦でスタートしますが、3連敗という非常につらい結果になってしまいました。
ただ、これらの敗戦はシーズンでずっと続いていたチームとしていかにボールを前進させるかが積み上げられず、そこで個人戦術の中で解決できるほどのものもなかったという課題がそのまま表出したのだろうと思います。
この総括記事を書くにあたってスコルジャさんの定例会見や試合後会見を一通り読み返したのですが、終盤に行くにつれてチームとしてこういう所を狙いたいという話よりはなんとか選手の気持ちを奮い立たせられないかという話が増えていったような印象を受けました。
また、試合自体も選手たちのコンディションが良くないというところを起点としていたような印象です。福岡戦ではビルドアップでのリポジショニングを前提とした設計では無かったように見えましたし、神戸戦では試合後の岩尾や小泉のコメントからも体力的にきついことは割り切って戦っていたことが窺えましたし、その試合の雑感でもそういうことがあったのではないかということは書きました。
そして、神戸戦の最後には西川が独断でCKに攻撃参加し、そのCKを前川にキャッチされたところを起点に失点してしまいました。これについてはその人の倫理観というか、組織の中での規律に対する価値感によってとらえ方が少し違うのだろうと思います。
結局、次の福岡戦では西川がそのままスタメン出場しました。スコルジャさんは監督はチームとしての規律を設けはするものの、選手はそれにただ従うだけではなく自分で判断してプレーすることも求めてきています。
浦和はクラブとして「コンセプト」「プレーモデル」と定義していますが、これは行動を縛るものではなく、あくまでも判断のサポートになるものであると思います。なので、監督の指示とは異なる判断をしたから試合から外すという安直な判断をしなかったことには理解をするべきだと思っていますし、それは雑感でも書いた通りです。
33節の福岡戦では敦樹が負傷、岩尾がカード累積で出場できなかったことでCHは安居と柴戸の組み合わせになりました。また、久しぶりに2週間試合が空いたことでコンディションが少し回復していたことや、チームとして今季目指していたと思われる事項のリマインドが図られたような印象を受けました。
象徴的なのは、CH2枚が最後尾に落ちないことでリサイクルする時に最後尾までボールを戻してU字に展開するのではなく、中央にいるCHを経由してショートカットすることでボールをなるべく早く移動させられるようにしていたように見えたことです。ただ、ルヴァン杯決勝のようなゴールキックを弾き返された流れから失点すると、最後にはビルドアップでどこでオープンな選手を作るのかをやり切れなかったことをきっかけにして、今季最多タイの3失点目を奪われてしまいました。
ACLの武漢戦、リーグ最終節の札幌戦は勝利したものの、いずれもそれまでの取りこぼしが響いて結局ACLは最後のハノイ戦で敗れてGS敗退、リーグは広島が最後の最後で勝ち点3を取り切って4位で終了と、ルヴァン杯決勝も含めてあと少し及ばないという結果を突き付けられ続けてシーズンが終わっていきました。
一発勝負のカップ戦ではある程度結果を出し続けてきた歴史はあるものの、継続して結果を出し続けることが必要なリーグ戦ではなかなか高い順位にい続けられていない浦和ですが、今季もまたリーグ戦を勝ち抜くための安定性であったり、選手たちのプレー選択も含めた戦略性であったりが足りなかったのだなと感じました。ここは後で改めて考えていくことにします。
そして、シーズンの最後にはACL優勝で出場権を勝ち取ったCWCへの挑戦がありました。結果としては4位に終わった中で見えたのは、普段よりレベルの高い相手と対戦する中でも、上手くいかない現象は国内やアジアでの試合でも上手くいかなかったところと同じでしたし、国内やアジアの試合で出来たことが出来た部分もありました。
メンバー次第では4-4-2できちんとブロックを作って守備対応できるものの、そのメンバーでは攻撃の火力が足りず、ゴールを獲りに行くためのカードを切れば切るほど非保持の構造が弱まっていきましたし、保持で前進するためのポジショニングやアクションが足りず、このレベルの相手では個人では上回れないので手詰まりになってしまいました。
CWCの感想については、マンチェスターシティ戦の雑感の最後に書いたことと今のところ感覚が変わらないのでそのまま抜粋して、今シーズンの振り返りを終わりたいと思います。
結局、土田SDがスコルジャさんの就任会見で話していた「次の段階へ」という言葉に対して僕が感じた「そろそろ選手たちを大人扱いして「委ねる」の方に舵を切っていっても良いのではないか」という感覚は、それまでのシーズンではチーム戦術の枠組みによって個人戦術のルーズさが見えにくくなっていたことによる勘違い、あるいは思い上がりだったのかもしれません。確かにチームの成績も、挑むステージのレベルもそれまでの3年と比べれば「次の段階」でしたが、フットボールの中身はまだまだだったと思い知らされました。
◆クラブ、チームへの評価
1年間のチームの流れを振り返ったところで、ここからは1年間トータルで見た時にピッチ上でクラブとして目指していたものが表現できていたのか、
表現させるためにクラブが行ったアプローチは適切だったのか、という点を見て行きます。
(1)コンセプトは表現されたか
大事なことなので毎年書きますが、浦和レッズが定めているコンセプトは以下の3点です。
攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレー
個の能力の最大限発揮
前向き・攻撃的・情熱的なプレー
コンセプトは抽象度の高い階層にあるので、この3点を表現する方法はたくさんありますし、表現されている時の状態も多様です。そのため、もう少し具体的な目線を揃えるものとして、このもう1つ下の階層に保持と非保持のコンセプト(=プレーモデル)も設定されています。
保持は「攻撃はとにかくスピード。運ぶ、味方のスピードを生かす、数的有利をつくる、ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持っていく。」、非保持は「最終ラインを高く設定し、前線から最終ラインまでをコンパクトに保ち、ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う、ボールをできるだけスピーディーに展開する、そのためには積極的で細やかなラインコントロールが必要になる(=ゾーンディフェンス)」というものです。
①攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレー
この項目は主にチーム全体のプレーについてのコンセプトになります。攻守に切れ目のないということは、4局面の循環がスムーズに行われること、つまり保持をしながら非保持に備える、非保持をしながら保持に備えるという要素が必要です。もう少し具体的に言えば、ボールを失ったらすぐに奪い返せるか、ボールを奪ったら相手に奪い返されずに保持へ繋げられるか、こうしたトランジションをしっかり行えるかということになります。
スコルジャ体制ではレフポズナンでの試合ぶりからして、4局面の回転数が上がることが想定されました。それは、先ほど確認した保持でのコンセプト(プレーモデル)で定義されている「攻撃はとにかくスピード」「ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持っていく」という要素とスコルジャさんがレフポズナンで表現していたプレーが近く、スピードをもって前進するということはエラーも発生しやすいのでネガトラの局面も多く発生するだろうと想定されるからです。
また、非保持から保持への移行についても、レフポズナンではゾーンディフェンスの割合が高く、出来るだけ自分たちの配置がランダムにならないように整理されていたので、ポジトラのタイミングで誰がどこにいるのか分からないという状況は生まれにくくしようとする思想に見えました。
しかし、残念ながら僕の感覚としては今季は攻守の切れ目が多かったと思います。それは主に保持の部分でチームとしてのバランスを見つけられなかったことが大きいと思っています。前章で触れた通り、保持ではSBが手前からスタートすることが少なく、CH(特に岩尾)が列を落としてビルドアップすることが多かったため、ネガトラでフィルター役になれそうなSBやCHの選手がボールの1つ手前の列にいられる状態を作りにくかったからです。
前年のリカルド体制では各選手のスタート位置を「決める」割合が強かったので、4-1-2-3のような配置になった時もSBを左右どちらか、あるいは両方を残すような形もやっており、SBを手前からスタートさせることでCHが列落ちしなくても済むような形にしてしまう時期もありました。
ただ、今季はプレシーズンからACL決勝に向けて非保持の構築を優先したためビルドアップの並び方は「委ねる」割合が強い状態でスタートし、2列目の選手たちは足元で受ける傾向が強いため列落ちしながらボールを受ける回数が増え、それに合わせて馬力のあるSBが高い位置を取るようになり、CBのサポートをするためにCHが列落ちするようになるという状況になっていきました。
シーズンの中で何度か2CHをどちらも列落ちさせず、SBが相手のプレッシングラインの脇からスタートさせるトライはありましたが、大半の試合はビルドアップが上手くいかなくなるとベンチから岩尾を落として3枚回しにするようなオーダーがあって、攻守が分断しやすい配置でしかプレーが出来ないようになってしまいました。
過密日程によってトレーニングで戦術的な積み上げ(チーム戦術/手段の共有)が出来ない、それによってプレーする選手たちが同じ未来を描きにくく、コミュニケーションだけでは解決できず、選手個々の中にある快適なポジションでのプレーに終始しやすくなってしまったのだろうと想像します。
トレーニングが出来ないのであればコミュニケーションで認識の共有をしていくしかないのですが、コミュニケーションには「話のタネ」があった方が盛り上がりやすいです。残念ながら、今季のチームは保持の部分で個人戦術の階層でいかに相手を外すか、オープンにボールを持てる状況を作るかというプレーを高いレベルでやり切れる選手が少ないように見えたので、「話のタネ」を上手く用意することが難しかったのかもしません。
保持のコンセプトにある「運ぶ、味方のスピードを生かす、数的有利をつくる」という要素が表現されていたことは少なかったと思います。特に「運ぶ」については少なかった印象です。
ボールを前進(移動)させる方法はパスをするかドリブルするかのどちらかです。パスをするとボールは移動させる人の下から離れ、ドリブルをするとボールは移動させる人と一緒に動きます。つまり、ボールを前進させる時には、パスをすれば出し手がパスをした後に押し上げない限り移動させた人(出し手)がボールの後方に置き去りになり、ドリブルをすればボールも人も一緒に前進することになります。
「数的有利をつくる」という観点に立った時に、パスの場合は出し手が出しっ放しになるとボールの近くにいられる可能性のある人数は1人減ります。パス&ゴーが基本事項として口酸っぱく言われるのはそういった理由もあるのだろうと思います。
そうなると、運んだ方がボールを移動させている人は常にボールと一緒にいるので周りがリポジショニングすることで数的有利を作りやすくなります。また、人よりボールの方が速く動けるので、パスばかりすると人がボールについていけずリポジショニングが間に合わないので数的有利を作るのがどんどん難しくなりますが、運ぶのを挟むことによって人がボールの移動と同じくらいのスピードで動くことが出来るのでリポジショニングが間に合いやすいです。
保持のコンセプトではありますが、ボール周辺に数的有利をつくることで攻守に切れ目のないプレーがしやすくなる、そのために運ぶことも必要、といった具合に上手に保持をすれば自然と攻守に切れ目が無くなりやすいはずです。
「運ぶ」は主にビルドアップ隊や、相手のプレッシングラインを越える位置にいる選手が行うことになりますが、今季浦和のビルドアップ隊でそれをきちんとやり続けられたのはショルツくらいだったのかなと。ここのチームとしての基準は引き上げていかないといけないだろうと思います。
一方で、非保持のコンセプトは半分出来て、半分出来なかったという感じでしょうか。「前線から最終ラインまでをコンパクトに保ち、ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う」という要素はプレシーズンから優先事項として取り組んできた甲斐あって表現できる回数が多かったと思います。
ただ、「最終ラインを高く設定」という要素はなかなか表現できませんでした。それはデータ的にも示されていて、最終ラインの高さは平均すると41.4mで、これはJ1で最も高くラインを保っていた横浜FMの44.9mと3.5mの開きがあります。
浦和にはショルツとホイブラーテンという広いスペースでも適切に対応できるCBがいるものの、ずっと触れてきたように非保持でのタスクをきちんとこなせる前線の選手が少なく、プレッシングに出て行こうとしても簡単に外されてしまうのでラインを高くしにくかったこと、そもそもコンディション的にラインを上げるだけの体力が見込めなかったことが要因として考えられます。
勿論、ACL決勝の勝因としてフットボール本部の立ち上げに伴い、2020年の大槻体制から4-4-2をベースにしたゾーンディフェンスを選手を入れ替えながら積み上げてきて、それがこの4年間で着実に成長していることを実感できているのは確かです。出来る選手がきちんといる状態にはなった次は出来るだけ多くの選手が出来るようになった状態にする段階へ移行しなければいけません。
これはどの局面でも当てはまることですが、浦和のプレーコンセプトを表現出来る選手が凄いのではなく、出来ない選手がダメ、浦和の選手なら出来て当たり前という方向へ基準を引き上げていく必要があります。
②個の能力の最大限発揮
今季は特にゴール前は個の質でやり切れた印象です。特に西川、ショルツ、ホイブラーテンの3選手はその象徴でしょう。非保持はチームとして撤退時に戻る場所、カバーの仕方が設定されていたこともあると思います、ただ、それは彼らが簡単にスライディングせず最後まで粘って対応する、不用意なファウルを犯さない、そういった基本的な部分を徹底し続けたことがリーグ最少失点という結果に表れたのだろうと思います。
また、夏以降の勝敗はカンテ次第というか、彼の理不尽が炸裂するかどうかでスコアが動くかどうかが変わるくらいに彼の個の能力に依存していたと思います。チームとしての枠組みを作れなかった分、個に依存するしかなかったという見方が妥当だろうというのはここまででも触れてきた通りです。
個々に持っている能力を発揮してきたとは思いますが、個々の能力を伸ばすことが出来たのかというとそういう印象はあまり持っていないです。勿論、大久保、小泉、敦樹、明本など一昨年や昨年から続けて試合に出ている選手たちは着実に力をつけているとは思います。安居についても出場機会は増えて試合慣れしていったところはあると思います。ただ、彼については昨年も「出ればこれくらいやってくれそうだな」という雰囲気があって、その範疇を出るところまではいっていないのかなと。
細かいポイントで見れば出来るようになってはいると思います。ただ、僕は20代中盤から後半になっていく選手たちにはチームの結果を背負えるだけのプレーをして欲しいです。チームの結果に結びつくような、具体的に言えば得点、アシスト、あるいはその手前に関わるようなプレーをもっと期待していました。
平野や馬渡など出場機会が少なかった選手の多くは後ろ目のポジションの選手でした。守備から構築していった今季のチームに於いて、特にDFやCHの選手に求められる守備の強度やポジショニングの正確性に対しての基準が昨年より高かったのだろうと思います。それは8月の湘南戦の後に岩波がスコルジャさんから「ちゃんと潰せるか?」ということを何度も聞かれたというコメントをしていたことからも窺えます。
右SBは酒井が何度か離脱するたびに左利きの明本や荻原が入ったり、終盤には関根が入ったりと、本職である馬渡や宮本にとっては厳しい判断が下され続けました。勿論、監督は手元にいる選手たちを上手く組み合わせて短所が隠れるようにしたり、長所が掛け算になるようにしたりできれば理想ですが、ポジションによって看過できるポイントが違うのは当然です。
前線の選手であれば守備がルーズになる代わりに得点に絡んでくれれば場面によって起用する可能性が高くなると思いますが、後列の選手であれば守備のルーズさは致命的です。能力を発揮するために、あるいは能力を発揮する場を与えられるために、最低限必要なレベルが昨年よりも引き上げられたので、そこに到達できなかった選手もいたという見方をしても良さそうです。
③前向き・攻撃的・情熱的なプレー
今季は早い段階からリーグの順位表では上の方に居続けられたり、ルヴァン杯で決勝に残るなど、大一番になりうる試合が多かったこともあって前向きな雰囲気は感じました。スコルジャさんの勝負に対するマネジメントが優れていたこともそうした雰囲気を作っていたとも思います。
youtubeやSNSでロッカールームでの声掛けの映像を何度か見る機会がありましたが、選手を讃えたり、鼓舞したりする言葉の選び方はとても上手で、観ているこちらも高まるものがありました。通訳している羽生さんのスキルが素晴らしいというのもあると思います。
また、スコルジャさんは試合後の会見や定例会見でも、常に前向きな言葉を発信していましたし、結果が出なかった時には自分に矢印を向ける実直さがありました。そうした姿勢が選手たちの良いお手本になっていたのかもしれません。
また、チームとしては、ほとんどの試合でベースとなる4-4-2の非保持を相手に合わせて変化させる割合が小さく、自分たちが上手く振舞えるバランスの中でプレーすることが多かったと思います。その結果、配置で後手に回ったらそのままになってしまうというといった展開になるようなことは無かったと思います。
守備で立ち返る場所があるというか、簡単にはやられないという自信をつけていくことが出来たというのが、昨年までは先に失点するとそのまま沈みがちだったチームが、特に序盤のC大阪戦、新潟戦に見られたように逆転勝利したり、先制された後にそのまま失点をして試合を壊すことがなかったりというところに現れているのかなと思います。
チームとして求めているプレーが上手く表現できていない選手もそこに対する努力をしている姿勢は感じました。中でも途中加入のエカニットは試合をこなすにつれて非保持で矢印を出すときに周りを見てから行くようになってきました。
リカルド体制の短所として、上手にプレーする選手が増えて、チーム戦術の枠組みがキッチリ設定された中でそれをこなす傾向が強くなると、感情が前に出てきにくくなるきらいがあったように見えます。
今季はチーム戦術の枠組みが弱まったことで、個々で何が出来るかというところが晒された訳ですが、そういう時に髙橋、リンセン、シャルクといった選手たちが情熱を表に出してプレーしていて、フットボールに於ける正論とは少しズレたとしても人間がプレーするからこその熱さはビハインドの試合でも感じやすかったのかなと思います。
(2)編成について
フットボール本部が設立されて4シーズン目となった今季に向けての編成はその前の2年間と比べて入れ替えの人数が少なかったです。今季の補強はレンタルバックの興梠と荻原、J2から吉田と髙橋、国外からホイブラーテンとカンテの6名でした。
これは時間の経過によって前体制の間に結ばれた契約から解放されて、フットボール本部が自分たちの基準でチーム編成してきたことで、大幅な入れ替えは不要になってきたということが大きいのではないかと思います。単純にACL決勝まで時間がない上に日本初挑戦の監督を招聘したので選手を入れ替えてチーム構築している場合では無かったというのもあると思いますが。
近年の浦和の編成で特徴的なのは「北欧ルート」だろうと思います。今季もポーランド人の指導者、ノルウェー人のDFが加入しています。ただ、見方としては北欧だから獲得している訳では無く、結果的に北欧から獲得することが増えたという方が適切だろうと思います。
浦和はいわゆるプロビンチャタイプのクラブではないです。それはホームタウンが首都圏の100万人都市だから、紆余曲折はありながらも2002年のナビスコ杯決勝進出以来コンスタントに何かしらのタイトルに手が届く場所にいつづけてきたから、サポーターの数が一番多くて収入はある方だから、色々な要因からそう思っています。
何事も成長するためには過程が必要なのですが、それを肯定してもらうためには何かしらの結果が途中でも必要です。このバランスについての僕の意見は三年計画の総括で書いた通りです。
結果を出しながら内容も高めるのは誰だってそうしたいし、それが出来たら苦労しないのですが、それを実現するためには指導者も選手もある程度の能力を持っていて、結果が計算できる人たちでチームを編成していくことになります。自チームで育てるよりも出来る人に来てもらう方が話が早いですからね。
ただ、フットボールは世界と地続きなので、出来る人の中でもレベルが高い人はより大きな市場の中にいます。今の日本、Jリーグ、浦和という立ち位置や経済状況からすると、その中心にいる人に来てもらうのは簡単ではないので、欧州5大リーグがある国々よりも1つ、2つ下のランクに位置する国で実績を積んだ人に着目するのは自然なことなのかなと思いますし、身の丈に合った適切な方針だと思います。そして、これに合致するのが北欧なのだと思いますし、ハイジャックされてしまったギアクマキスはスコットランドリーグ所属のギリシャ人で、彼の立ち位置もまたこれに合致したものだったと思います。
シーズンに向けての補強で言うと、興梠の復帰による影響が普段のトレーニングの雰囲気づくりにおいてどれだけ大きかったかというのは色々な選手たちのコメントから出てきています。ACL決勝に向けて自身初の自主トレに取り組んで、しっかりアルヒラルへのリベンジに貢献してくれました。ただ、それによってコンディションのピークが前半に来て、シーズン終盤には試合に絡むのも難しくなっていきました。
ただ、興梠のコンディションが落ちてきたタイミングで新加入のカンテのコンディションが上がってきてCFの1stチョイスになる選手が上手く入れ替わっていったなと思います。2列目のエリアに下りてきながら少々厳しいボールも一旦収めてくれるのはそれこそ全盛期の興梠がいた時のそれを思い起こしました。
髙橋もルヴァン杯の初戦でいきなり怪我をして出遅れてしまいましたが、シーズン終盤に向けて出場機会は増やしていきましたし、リーグのアウェーG大阪戦では記憶に残るゴールを決めてくれました。ただ、チームとして決定機の数が少なかったことや、6月~7月のチームで攻守のバランスを模索していてSHで起用され始めたころは、周りとの兼ね合いで何故かクロスを上げる側になってしまっていました。
そして、シーズンの最後にはACL武漢戦で脳震盪を食らってしまい、CWCも現地まで行ったにも関わらずギリギリでのメンバー入替によって出場できなくなるということで、彼にとってはシーズンの頭とお尻に災難が来る1年になってしまいました。
冬(シーズン前)と夏(シーズン途中)では移籍市場での立ち回り方は違います。特に夏は即効性というか、試合をこなす中でここが足りないという部分をピンポイントで補強して終盤に向けてブーストできるのが理想です。ただ、A契約の枠があり、基本的には冬の補強でその枠は大体埋まるので選手を獲得するためには選手を放出しないといけません。この夏に放出した選手はモーベルグ、松崎、犬飼の3名でした。
「あの選手は放出すべきだ」という言い方は好きではないのですが、クラブとして考えた時に監督から見限られているというか、試合に絡めそうな気配がない選手については移籍先を見つけて試合に出られそうな環境へ移してあげるということも選手に対しての優しさとして必要だと思います。また、試合に出ている選手を固定化しないためにも、レギュラー争いに負けている選手は放出、争える選手を獲得することで常にチーム内に競争がある状態を作ることも大切です。
そういう点で言うと、目立つのは右SBで、酒井がキャンプの段階から怪我をしており、シーズンを通しても離脱と復帰を繰り返していていた中で、代わりに右SBに入ったのは明本、荻原、関根でした。勿論、今のチームの基準に合うレベルのSBとなるとそもそも市場全体に人数がいないので連れてくるのは難しいのですが、ここの入れ替えが出来なかったのは不満が残るところではあります。
また、2列目についても放出と補強自体はしたものの、獲得した選手が中島、エカニット、そして怪我からコンディションを戻している過程にいる安部の3名で、彼らはいずれも中盤のスペースの中で上手く振舞うことを特徴としているような印象があります。
ただ、チームとして課題だったのは前線のアクションの不足であって、例えばSHに足が速いとか、裏へのアクションを起こすことを惜しまないとか、そういったキャラクターの選手補強にならなかったのは違和感がありました。最後のアルアハリ戦の後の会見でスコルジャさんもそうしたアクションの部分の物足りなさに言及しています。
夏の編成はJ1下位や下のカテゴリーであれば、他のクラブで出場機会がない選手をそのシーズン限りの期限付き移籍でその場しのぎの補強をすることが多いですが、浦和のようにJ1上位を狙っていくチームは基本的には他のクラブで活躍している選手をきちんとお金を使って完全移籍で獲得することの方が多いと思います。
となると、この時期の編成はそのシーズンをしのぐためだけでなく次のシーズン、次の次のシーズンと少し先も見たやりくりが必要になります。これはお金の面もありますし、A契約の枠の話、さらには次のシーズン以降の監督(選手起用の基準)がどうなるかなど色々な要素が絡みます。
A契約の枠の話は結構面倒で、ACLに出るかどうかで2枠の増減があります。今季の浦和はACLに出場したので2枠増えた27枠(ホームグロウン選手は対象外)でした。夏の補強期間が終わった段階で埋まっていたのは26枠なので1枠空いてはいたものの、そこは翌年にACLに出られるかが不透明なのでシーズン途中に枠を埋めきるまで補強するのかというと判断が難しいところです。
それでも、フットボール本部はこの辺りのオペレーションをもっと上手に行えるようにならないといけません。横浜FMは獲得したもののハマらない選手は夏にJ2へ大量放出しますが、これも枠を確保するためのオペレーションであり、それと同時に試合に出られない選手に別のクラブで出場機会を得られるチャンスを提供することにもなります。
浦和のフットボール本部にはまだこの部分のある意味での冷酷さが足りていないのだろうと思います。西野TDが槙野や宇賀神に対して契約満了を告げた時に「バスを降りてもらうしかなかった」という話をしていましたが、浦和が強いチームであり続けるためには「選手が出て行くから獲得する」のではなく「選手を獲りたいから出す」という順序であるべきです。選手の国外挑戦という場合はちょっと事情が変わりますが。
ただ、ここ数年はメディアとの関係が良好なのか、内部に口が軽い人がいなくなったのか、移籍の噂が外に漏れ出ることがほとんど無くなったので、「やろうとしているけど話がまとまらなかった」のか、「やろうとすらしていなかった」のかは外からは分かりません。編成については、僕らは結果でしかそれを見ることが出来ないのが評価するうえで難しいポイントではあります。
(3)チーム成績の比較
フットボール本部体制4シーズン目が終わって成績はちゃんと良くなっているのかが気になったので通年制に戻った2017年以降の大まかな成績を表にしました。
改めてみると2017年(ミシャ最終年)の得点64は凄いのですが、失点54というのがいかにも「ミシャやってたなー」という感じですし、2019年の勝ち点37は今思い返してもゾッとします。
フットボール本部体制になった2020年からを見ると得点数はあまり変化していませんが、負けの数は年々減っています。これはあまりオープンな展開にならないようにチームとしての配置、構造を重視する監督がチームを率いている印象とも合致します。ただ、「ケツの浮くサッカー」とか「2点取られても3点取る」といった2019年末のフットボール本部設立時に語られていた言葉に対して、チームとしてのキャラクターは今のところ逆の方向に進んでいます。
それでも、リーグ優勝をするため、そして安定して優勝争いをしていくためには試合が壊れる確率を出来るだけ減らす堅実さが必要です。なので、プレースタイルとしては言っていたことと今の状態に乖離はあるものの、チームの成績に対しては適切な方向へ進んでいるのだろうと思います。
これはフットボール本部体制になってから、補強が成功したポジションが主に後列だったことが大きいと思います。選手で言えば、ショルツ、酒井、ホイブラーテンがそうですし、GKコーチのジョアンやスコルジャさんが一緒に連れてきたマココーチの存在はとても大きかったと思います。
後列は特にフットボールの原理原則を徹底していかにリスクを減らせるかという部分が求められやすいポジションなので、スカウティングデータを活用しながら論理的な選手補強をしようとしている今の浦和が、論理で解決する要素が多いポジションで適切な補強が出来たのは納得感があります。
ただ、前線もフットボールの原理原則を徹底しながらゴールまでの道筋を作れることはCWCで対戦したマンチェスターシティを見て改めて感じたことなので、そこについても今後、編成やトレーニングで今のクラブの方向性の中で改善して行ける部分だと期待しています。
そして、今季についてはリーグ優勝の実績がある人を監督として招聘しましたが、スコルジャさんはその期待に違わぬ指揮ぶりだったと思います。ACL決勝の後には土田SD、西野TDによる会見があり、フットボール本部体制になってから継続してきたことの延長にあるシーズンでのここまでのスコルジャさんの手腕を評価するコメントがありました。
西野さんの話していたスコルジャさんのバランスとマネジメント力というのはシーズンの終盤までずっと発揮されていたと思います。その中でも特にリーグ戦は年間通して安定したパフォーマンスをすること、目先の結果だけでなく先も見据えてプレーをすることという点は度々スコルジャさんの会見でも話されていたことでした。5/12の定例会見と8月のアウェー広島戦後の会見のコメントを抜粋します。
既にシーズンの結果を知っている僕らからすると、こうしたスコルジャさんの危惧がシーズン終盤に表出してしまったことが分かります。勿論、目の前の相手を倒して勝ち点3を掴みたい、そのためにリスクをかけて前に出たい、という感情を抱くのは自然なことだと思います。ただ、それはトーナメント方式の1戦必勝による勝負でより発揮できるメンタリティであって、長い期間で様々な相手と対戦するリーグ戦においては必ずしも目の前の相手から勝ち点3を取らなくても総合的に上回ることは可能です。
この辺りはクラブとしても2006年の優勝はもうずいぶん前のことですし、2016年の年間勝ち点1位は自分たちのやりたいことを相手に押し付けるサッカーで勝ち続けられたという点で、堅実に、長い目で見て結果を出しに行くアプローチとスタジアムで観ている人たちのテンションで相違があるのだろうと思います。
勿論、スタジアムで観ている限り、というかすべての試合で勝って欲しいし、勝とうとするチームに気持ちが乗るのが自然です。ただ、その日の展開の中でどこかで腹を括るというか、割り切ったメンタリティで試合を乗り切ることを理解することも大切だと思います。
その中で、試合の要所ではガッと力を込める、熱量を上げる、という瞬間をスタンドから作ることが出来るポテンシャルはあると思っています。それはスコルジャさんが定例会見でも触れてくれたことですし、浦和以外の試合をスタジアムで観た時に抑揚のない盛り上がり方をしているなと感じることがちょくちょくあって、そこは浦和のゴール裏をはじめ、指定席の中にも少なからずフットボールの勘所を掴むことが出来ている人がいる、そういう人たちが雰囲気づくりに寄与しているというのはもっと強みにしていけるはずです。
全員が勝負のポイントをきちんと理解する必要はないと思います。なんとなく「こういう展開(景色)の時に点が入ると勝つよな」という体験を通じて、感覚的にその記憶を持っている人が増えればそれでも良いです。結果的にスタジアム全体の空気が合えばそれで良いはずです。
ただ、そういう状態になるためには堅実に戦っていく中で結果も出して観ている人に体験させることが必要です。適切なやり方をしていても成功体験が得られなければそれを信じることが難しくなるからです。なので、今季のチームは勝負所で堅実に戦い、結果を出せるチャンスがあったと思うので、そこで至らない部分があったのは残念でした。
◆2024年への期待
スコルジャさんの退任発表からほどなくして新監督にペア・マティアス・ヘグモさんの就任が発表されました。直近のシーズンでリーグ優勝しているのはスコルジャさんと共通していて、リーグ優勝を目指すなら実績のある監督を連れてくるべきという方向性は継続されています。
ベースは4-1-2-3の配置で保持も非保持も行いそうだというのは話が出ていますし、まだ1試合しか観ていませんがその試合でも4-1-2-3となっていました。ただ、これはスコルジャさんがレフポズナンでやっていたことが浦和ではなかなか表現できなかったのと同様に、必ずしもヘグモさんが直近のチームで表現させていたスタイルで浦和の選手たちがプレーできるかは分かりません。
今季の課題として個人戦術の部分を挙げましたが、まさにそこはその国のフットボールの前提、当たり前がどういうものなのかというものが反映されているのだと思います。チーム戦術、配置の噛み合わせによって個々の認知、判断のガイドを用意する訳ですが、ガイドがあったとしても何をどう見て何を感じるのかは個々の感性、習性が起点になります。選手たちが子供の頃から受けてきた指導や積み重ねてきた経験によって感性、習性が形成されていて、それは環境によって大きく変わるものなのだろうと思います。
僕は大槻さんやリカルドといったチームとしての枠組みを明確にしてくれる指導者のおかげで選手たちの個人戦術で足りていない部分が見えにくくなっていて、そこに対する過信があったのだろうと思います。
個人戦術がチーム戦術に内包されていたことで、結果的に必要なアクションを要求され続けていて出来たことが、チーム戦術の枠組みが変わるとフットボールの原理原則として必要なことであっても、明確に求められなくなるとそれが必要ではないように思ってしまった、あるいは他のことへ意識が向いて忘れてしまった、そういったことが起きていたのではないかと想像します。
なので、仮にヘグモさんが4-1-2-3での保持、非保持というチーム戦術でのアプローチを多めにする人だとしても、フットボールの原理原則である個人戦術の部分もきちんとトレーニング出来る、意識づけし続けてあげられるコーチやスタッフもいる状態にしてもらいたいなと思います。
ボールを持っていれば、相手のゴールに向かうこと、そのために自分と相手ゴールの間にボールの通り道を作ること、ボールの通り道が作れる場所でボールを受けること、自分がそうした場所にいないならボールの通り道が作れる場所にいる味方を見つけてボールを渡すこと、こうしたシンプルで基本的な原理原則を絶えず、そして出来るだけ早く実行し続けられるようなアプローチをしてもらいたいです。マンチェスターシティ戦の後に小泉が話していたことはこういうことであって欲しいなと思っています。
マンチェスターシティはフットボールの原理原則を愚直に、そして高い精度で、高い強度で繰り返していました。サイコロを振るように運や感性だけに任せるフットボールをするようなものは今の浦和は目指していないと思っています。2020年の末から本格的にフットボール本部が彼らの設定した基準で獲得してきた選手たちは真面目な性格の選手で、何か突出した身体能力を武器にしてきたのではなく丁寧にプレーするタイプが多い印象です。
そこに偏っているきらいはあるとは思いますが、ACL決勝やCWCでは今の方向性は間違っていないとは思うけど今よりもスケールアップしないといけないということを感じました。そのためには、今年プレー時間が多かった選手であっても、2025年のCWCで必要になるスケールに届かないと判断すれば「バスを降りてもらう」ことになるのだろうと思います。
これまではチーム基準や方向性に合いそうな選手を連れてくるというフェーズでしたが、ここからは方向性には合うけど基準に満たない、そこへ到達するまで待てないという選手は放出して入れ替えていくというフェーズになっていきます。
次回のCWCまでは1年半。つまり、編成のチャンスは3回しかなく、勿論2025年のCWC直前である2025シーズンに向けての補強も大切ですが、CWCでチームの軸となる選手を作るためにはその前のシーズンである2024年のシーズンにその選手が中心になっていくような形になることが理想です。そう考えると、CWCを経験したこの熱量で迎える編成期間が次回のCWCで目指せるスケール感がどの程度なのかというのを決定づける可能性もあるのではないかと思います。
僕はまだ納得はいっていないですが、来季浦和はリーグ戦とルヴァン杯しかありませんし、ルヴァン杯は大会フォーマットが変わって最初からトーナメントになったので最小で39試合しかなくなります。今年と比べて20試合も少ないとなると試合に対する渇望感や1試合に向けた準備時間が取れる分だけ重みも増していきそうです。
逆に言うと、今季のようにトレーニングの時間が取れなかったから仕方ないねという話は出来ないので、より日常の質が試合の内容に直結するのではないかと思います。日本初挑戦の監督がどのくらいの時間で文化や習慣に適応できるのかは未知数ですが、今のチームに求められているのはチーム戦術だけでなく、フットボールの原理原則をきちんとやれるかどうかなので、そこはヘグモさんも僕らも過信せず、質を高めていくトライをしてもらいたいと思います。
◆最後に
2020年から2022年は三年計画としてクラブの土台を作り直す取り組みの時間でしたが、2023年から2025年は三年計画season2として、この土台の上にどれだけ大きなものを建てられるのかにトライしていく時間になっていきそうです。というか、そうしなければいけないと思います。
思い返せば、クラブ変革の最初のシーズンとなった2020年が降格無しになったこと、そして三年計画最終年に挑んだACLはオーストラリア勢は不参加、中国のクラブは若手のみの編成だったというだけでなく、決勝トーナメントの3試合を全て埼玉スタジアムで闘うことが出来て対戦相手も2試合はレベルの劣る東南アジアのクラブでした。さらに、決勝は当初2月案だったのが5月になり、優勝したタイミングがCWCのフォーマット変更によって2回分の出場権を獲得するものだった、というこの流れは出来すぎています。こんな強運ありますか。
「チャンスの女神には後ろ髪が無い」という言い方をしますが、浦和がここで世界の舞台に名乗りを上げていけるクラブになれるチャンスが正に目の前にあります。ここで日和って挑戦せずに一介のJクラブのまま終わることほど悔しいことはないと思いますし、ここから1年半の取り組みは今後10年、20年のこのクラブの立ち位置を左右する可能性がある重大な局面だと思います。チャンスの女神の前髪を掴むのは正にここからの1年半だと思いますし、そうした気概を持つことがクラブの中での当たり前であって欲しいです。
川崎が風間体制になって「止める、蹴る、外す」という個人レベルのリテラシーを高める取り組みを始めたのが2012年の途中で、そこから5年半かけて初めてリーグ優勝に到達しました。横浜FMがシティフットボールグループ傘下になったのが2014年の途中で、彼らもまたそこから5年半かけてリーグ優勝に到達しています。そして、浦和レッズがフットボール本部体勢になって5年半後に迎えるのが2025年のCWCです。興奮しませんか。滾ってきませんか。俺たちもやってやろうっていう気になりませんか。
僕は大槻さんの頃も、リカルドの頃も、「結果は大事だけどそれより内容やプロセスを求めていくべきだ」というスタンスでした。ただ、彼らと共にした三年計画を経て僕が思ったのは、僕は浦和レッズというクラブに自分の好みのスタイルや内容を求めているかというとそうではないのではないかという感覚でした。
結局、浦和レッズの試合を観てテンションが上がるのは内容が良くて勝ちを逃した時よりも、とにかく勝った時でした。勿論、シーズン通して闘った結果優勝を勝ち取るためにリスクを回避する場面が必要かつ、そこへの理解も必要なのは先述した通りですし、少しずつクラブが方向性を継続しながら適切な土台を作れている実感が持てるようになったから求める結果のハードルを上げていったのかもしれません。
それでも、まだ僕は「三連覇、それが浦和の三年計画」ということは出来ません。まだまだ浦和のフットボールは未熟です。フットボール本部のオペレーションも未熟です。サポーターである僕のフットボール理解も未熟です。まだ一度しか、それも15年以上前にしか優勝を出来ていないクラブなのですから。
だからこそ、2024年はその未熟さを払拭する年にしたい。2025年のCWCに挑むための自信を掴む年にしたい。このクラブが1つ上のステージに上がるための年にしたい。そう思うわけです。
勿論、成長は一進一退で、2021年に掴めていたと思っていた自信が2022年の序盤に波に乗れなかったことでどこかへ行ってしまったようなことが2024年も起こるかもしれません。それでもフットボール本部設立以来、着実にクラブは力をつけていると思いますし、そこを信じてリーグ優勝へ挑める土俵に立てていると思います。課題はありますが、それを克服しながらシーズンを戦った先に大きな成果をあげる可能性は十分にあると思います。
今年も長々とお付き合いいただきありがとうございました。また来年、是非力強くリーグ優勝を目指す気持ちを持って再会しましょう。今回はこの辺で。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?