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【雑感】2023/4/15 J1-第8節 浦和vs札幌

常に80分経過したくらいのオープン具合で殴りあうことに定評がある、Jリーグの中ではとてもユニークな存在の札幌に対して、ほとんどのチームはそのテンションに引きずり込まれ気付かぬうちに得点も失点もかさんでいくのですが、この試合の浦和はなるべく札幌のテンションにはお付き合いせず、きちんと自分たちの土俵で勝負できたのではないかと思います。


まず、浦和の保持vs札幌の非保持の話をするための前提として、札幌のマンツーマン対応での各担当を図で整理しておきます。

勿論、浦和の方がポジションを変えていれば誰が誰につくというのは変化しますが、基本的にはこの状態だったと思います。


札幌のマンツーマンでの非保持に対して前半から浦和は手前から繋ぐときにはスペースに下りながら縦パスを受ける選手と、そこに対して斜め下にポジションを取ってレイオフの形で前向きにボールを受けられる選手を準備していたように見えます。

最初に縦パスを受ける選手がスペースに「下りながら」というのがポイントで、その場に留まっていると背後から相手に当たられてしまう可能性が高くなりますが、下がりながら、つまり相手から離れながらボールを受けることでボールを受ける瞬間は相手にくっつかれていない状態になれていることが多かったです。

レイオフを受ける選手も正面で落としのパスを受けようとすると、最初に縦パスを受けた選手についてきた札幌の選手がその勢いのまま二度追い出来てしまうので、角度をつけたポジションを取っているというのが大事なポイント。


また、この試合ではビルドアップでCBの間で西川がボールを受けることが多かったですね。札幌のマンツーマンは当然FP10人が浦和のFP10人に対してついていきます。なので、西川がそこに加われば1人余るというのは自然な話。

勿論、札幌の方もこれは織り込み済みだったと思います。それは浅野やキムゴンヒのアクションに現れていて、彼らが西川に寄せていく時には必ず自分のマーク担当を捨てて出ていくので、その選手を背中で消しながら(西川から自分のマーク担当へは出させないようにしながら)寄せていました。自分のマーク担当に近い位置から西川へ寄せていくことになるので、意識していなくてもそうなるだけとも言えそうですが。


ただ、浦和の方は先述の通り、前から縦パスを受けに下りてきた選手とそこからレイオフを受ける選手という関係性が出来ていたので、西川から1か所を経由してCBへ落としてオープンな状態を作るということが出来ていました。この方法での前進の成功例は31’20~だったかなと思います。

浦和の2列目の選手はスタート位置が少し高めになっていて、自分が下りて受けるためのスペースを残しておいているようにも見えました。この場面は関根がそこへ田中を引き連れて下りてきて、ホイブラーテンへボールを落としています。これによって浅野の矢印の根元でホイブラーテンがオープンにボールを持つことが出来ました。

この場面で良かったことは、ホイブラーテンのすぐ前にいた荻原がホイブラーテンが運ぶのに合わせて自分も前に進んでいったことです。これによって荻原のマークを担当している金子は、迂闊にホイブラーテンへズレていくと田中が関根についていくために出ていったことで空いたスペースを荻原に提供することになってしまうので、荻原と一緒にいるしかありません。

小泉も同じスペースを意識して前向きに動いているので福森も小泉を捨てられず、結局ホイブラーテンが1人で50mくらい運んで前進しています。


また、手前に下りて縦パスを受けようとする浦和の選手に札幌の担当者はついていくので、それによって人がいなくなった場所へめがけてロングボールを入れるということも行っていました。マンツーマンなので当然手前のエリアも相手ゴールに近いエリアも数的同数になっていて、一発ロングボールが通ればチャンスになる可能性があるということもしっかりトライ出来ていたと思います。

昨年までのリカルドはどちらかと言うと、スタート位置を出来るだけ手前にしてまずは前向きにボールを持とうとする、そのために2列目の選手(象徴的だったのは小泉)もスタート位置が低くなってどんどん札幌の選手を前に引き寄せて苦しくなることが多かったです。

勿論、これで一発ロングボールで裏返せば、上手くいけば1v1とか2v2のような局面が作れるのですが、そうすると今度はロングボールを入れた先に人数がいないのでネガトラが機能せずにボールがどんどん行き来してしまうという展開だったように思います。

この試合のように高い位置にもきちんと選手がいる状態、ロングボールを入れても3v3や4v4くらいの人数がいる状態なので、手前も奥も使っているのに簡単にはオープンな展開にならなかったというのもこの試合の大切なポイントだったような気がします。


Jリーグを見ている人なら九九と同じくらいスラスラ言えるミシャ式の可変方法に対して、浦和はどちらかと言えば好戦的なプレッシングをしていたように見えました。

ただ、それは「対ミシャ式」としての特注品では無くて、4-4-2で構えたところから、2トップは中を消す、SHは縦スライドするというこれまでの基本動作に加えて、普段よりもCHがFW-SHのゲートを塞ぎに前に出ていくアクションが多め、という少しの変化でした。もしかしたら、札幌の選手の動きに合わせてそうなっただけで、やっている選手たちはそうした変化の意識さえ持っていなかったかもしれません。

これによって中央を経由したり、最後尾から対角のボールを飛ばして逆サイドへ展開するという場面をほとんど作らせず、札幌の保持の時間を少なくすることが出来ていたと思います。32'20~のプレッシングが特に綺麗にはまった場面だったのではないでしょうか。

毎試合同じ原則、考え方でプレーする方が判断が楽ですし、試合を重ねるほど練度が高まりやすいです。ただ、相手があるから毎試合同じという訳にはいかないよねというのが自然なことだと思います。

浦和がやっていることはとてもオーソドックスなプレッシングなのですが、そのオーソドックスなプレッシングを打ち破るのがミシャ式でもあるので、特別なことでは無く、凡事徹底と言うのか基本的なアクションを怠らないことでこれだけ札幌のボール前進を阻止出来ているのはとても良い状態だと思います。

この辺りは先日の川崎とのルヴァン杯の試合でも感じたことですが、クラブがフットボール本部を構えて、突飛な戦術では無く普遍的なことをバランス良く、尚且つ高いレベルで、という方向性の中で4-4-2での非保持を積み上げてきた成果なのかなと。


さて、試合自体は34分に中村がDOGSOで退場し、浦和が数的有利になりました。マンツーマンは人数が同数だからこそ威力があるのですが、さすがのミシャも1人少なくなったのでFWのキムゴンヒを下げて中盤から後ろの人数を確保しました。

これによって、浦和はショルツかホイブラーテンが必ず浮くようになるので、2CB+岩尾で横にボールを動かしながら、オープンになった人が前にボールを運んでいくことを繰り返していくことになります。

前半のうちは札幌がまだ前に出てきていたので41'05~のホイブラーテンからのロングボールを大久保が受けて、大久保のシュートのこぼれ球を敦樹が詰めるという神戸戦のゴールにも近いような形で決定機を作れていました。

ただ、後半になると札幌が非保持で前向きなアクションが作れずにズルズル後ろ重心になっていって、CHの福森すら最終ラインに吸収される6-2-1のような状態になりますが、こうなると逆に浦和にとってはプレーエリアが圧縮されてしまうので、それまでのように相手を前後に揺さぶることが難しくなってしまいました。

裏のスペースが無いわけでは無いですが、そこで少しでもボールが長くなればラインを割ってしまってネガトラの局面を作れず相手ボールになってしまうので、簡単に裏にボールを出せるかというとそれは躊躇してしまうという感情は想像できます。


ショルツのゴールが生まれたのは札幌がポジトラで前向きに出ていこうとしたところをカットして引っくり返したという流れでした。札幌の選手たちがゴール前から少し前に出てきたことで浦和の選手たちが前向きなアクションを起こしやすい状況が生まれたというイメージ。

これ以降は札幌の方が追いつくために前のめりになってきたこともあって、オフサイドによって取り消された関根のゴールは興梠と関根の裏へのアクションがあったり、PK獲得に至る前には荻原の抜け出し(大久保に対するパラれらのアクション)があったり、ピッチを広く使えるようになればきちんと裏へのアクションが起こせていたので、これは良いことだなと思います。


交代するorしないで少しまごついた隙に関根が中盤ラインに戻り切れずにCH脇を使われて逆サイドまで展開されたところから失点してしまった部分や、ホセカンテが自らプレータイム調整も兼ねて10数分で退場してしまったのは残念でした。

そうした反省点はありながらも、それぞれが必要なアクションを適切に実行できる回数が開幕から約2か月でしっかり増やせているのと、ベンチメンバー、さらにはベンチ外のメンバーも含めてチームの雰囲気を上手く作れているのは普通に凄いなと思います。リーグ戦での優勝経験のある監督、コーチだけあるなという言い方はだいぶ上から目線な気もしますが、本当にそう思います。

ACL決勝がいよいよ再来週。思えば2019年もACL決勝前の試合は川崎戦でした。あの時はホームゲームでしたが、0-2で敗れてそれまでもリーグ戦でも成績が芳しくなくなんだかモヤモヤした心境で決勝へ向かっていった記憶があります。今回はチーム状態も上向いていてあの頃とは違うはず。等々力できっちり川崎に勝って気持ち良くACLへ迎えるように後押ししたいですね。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。


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