見出し画像

【キャリコン視点】リーダーシップのスタイルを考える②【映画編】

ドラマ・映画好きなキャリアコンサルタント xyzです。

以前、リーダーシップのスタイルを考えると題して6つのドラマを取り上げました。


さて、今回は映画編です。実はこちらの方を先に書き出していたのですが、upするのが随分後になってしまいました。

今回は、最近話題の【サーバント・リーダーシップ】について取り上げてみます。

映画を紹介する前に、このサーバント・リーダーシップについて少し。

サーバント・リーダーシップ

サーバント(servant)は、「奉仕者」や「使用人」という意味です。

civil servantといえば公務員のことですね。

サーバントとリーダー。
奉仕者と先導者/指導者。
相反する二つの言葉が合わさっていますが、一体どんなリーダー像なのでしょうか。

サーバントリーダーシップは、ロバート・グリーンリーフ(1904~1990)が1970年に提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学です。
サーバントリーダーは、奉仕や支援を通じて、周囲から信頼を得て、主体的に協力してもらえる状況を作り出します。
NPO法人日本サーバント•リーダーシップ協会HPより

リーダーたる者、まず相手に奉仕し、その後に相手を導く。

人々の上に立つよりも人々を下支えする、そんなイメージです。

サーバント・リーダーシップの反対として支配型リーダーシップが挙げられています。

支配型リーダーシップとは、前回の記事で挙げたドラマ『白い巨塔』の財前五郎のイメージでしょうか。

『県庁の星』

さて、今回取り上げる映画は邦画『県庁の星』、小説が原作です。

映画の概要はこちらから。

主人公の野村聡は県庁のキャリア組公務員。総予算200億円のケアタウンプロジェクトの企画の立案者です。

県のプロジェクト「民間企業との人事交流研修」のメンバー7人に野村も選ばれ、研修先であるスーパー「満天堂」に半年間配属されることになります。

士気の下がりきった職場で

これも県庁での出世のため、と野村は意気揚々とスーパーに乗り込みますが、このスーパー、全体的にダメなオーラが漂っています。

店長をはじめ店員全員に余裕がなく、職場(バックヤード)は乱雑で士気も下がりきっています。何から手をつけていいかわからないくらいに問題が山積しているので、その場しのぎでやりすごしつつ結局何もしないまま……だから何も変わらない。

野村の‘’教育係‘’に任命された二宮泰子も、ベテランとはいえ、一介のパート店員

店長は勝手に「パートリーダー」と呼んで、彼女にあらゆる雑務を丸投げしていますが、時給は他のパートさんたちと同じ(!)だそうで……リーダー給とか出さないんかい!

そんな待遇なのに二宮は真面目にキビキビとベテランらしい仕事をしています。仕事量と責任だけ余計に負わされて、不満はありながらも、毎日の業務をこなすことに必死で余裕がない!

それなのに県庁からきた「お客様」のお世話係まで!

野村が「お客様」らしくおとなしくしてくれていればいいけれど、いろんなことに首を突っ込むせいで余計な仕事を作るわ、現状を上から目線で非難してくるわ……二宮も何かあっても見て見ぬふり。そりゃ、頑張っても給料に反映されないなら、なるべく余計な仕事は増やしたくないし、面倒なことには関わりたくないですよね。

野村は、着任早々、職場の問題点の数々に気が付き、早速改善提案書(分厚い!)を作って店長に出しますが、読むそぶりもない店長。教育係の二宮に見せても、面倒くさそうな様子です。

ベテランパート店員の二宮だって、問題点の数々は野村に指摘されるまでもなくわかっているのです。多分他の店員たちも。このままではまずいということも。わかっているけれど、今更どうしようもないと諦めてしまっています。

問題は、この諦めムード。

改善しよう、と立ち上がるのは、まだその職場、所属組織に対して多少なりとも期待があるから。

しかし、「何を言っても無駄だ」「どうせ何も変わらない」と諦めてしまうのは、職場や所属組織に期待も信頼もなくなった、末期的な症状です。大丈夫かな、このスーパー……。

人は力では動かない

県庁流に事を進めようとしてもスーパーの従業員たちからは全く受け入れられない野村。

県庁ではうまく仕事をやってきた(と自分では思っていた)のに、なぜスーパーではうまくいかないのかと苛立ちを募らせます。

で、ますます高圧的な態度になる野村……強制型リーダーシップを加速させていきます。

強制型は、医局のような階層型組織にはハマりやすいのかもしれません。

トップダウン方式で指示を行き渡らせる仕組み、実行させる仕組みにはフィットしやすいリーダーシップですが、一方的で閉塞感に支配された組織となりがちで、メンバー達に自主性や積極性が失われ、硬直化した組織になる可能性も高まります。パワハラの温床にもなりがちです。
前記事『リーダーシップのスタイルを考える①』より

県庁は、医局同様に階層型組織です。指示命令系統も厳格で絶対的な上下関係が守られています。

「政治は人の上に人を作り、人の下に人を作る」が野村の信条……。もちろん常に自分は上だという自負がある野村。

一方、派遣されたスーパー満点堂は、組織図もない、マニュアルもない、強いリーダーもいない。

県庁流に慣れている野村の目には、満点堂は組織としてまったく統制の取れていない、つまり行き当たりばったりでいい加減な集団だと映っています。

行政処分一歩手前の崖っぷちスーパー満点堂をなんとか立て直そうと野村は必死になりますが、誰も野村を認めないし、誰もついてきてくれません。

ケンチョーさん

何故野村は受け入れられないのか?

それは、野村がスーパーを再建しようとしている動機にありました。

不祥事が起きたら自分のキャリアに傷がつくから困る、上手くやって結果を出せれば県庁に戻った時に自分のキャリアに箔がつく。

どちらにしても気にしているのは自分、自分、自分、自分……。

スーパーやその従業員のためを思って、のことではなく、自分の出世のことしか頭にない野村の言うことを、店員たちが本気で聞くわけもありません。

野村は所詮県庁から来た「お客様」……皆からは名前ではなく「ケンチョーさん」と呼ばれる始末。なんというアウェー感……。人望もなければ慕われてもいない……。

その上「自分だけが正しい」「下は上の指示に従うものだ」「だから俺の言うことに黙って従え」と頭ごなしに自説を押し付けるスタイルですから、従業員たちの猛反発にあいます。
(野村の業務改善計画自体は間違ってないんですけれどね……とても真っ当な指摘なんですよ!)

残念なことに、完全に 県庁 vs 民間 の対立構図が出来上がっています。

リーダーシップとしては、良くない見本ですね。

ケンチョーさんの挫折

傲慢、自己中、高圧的、自信家……と、嫌われ者だった野村でしたが、とあるきっかけ(ネタバレ回避)で変わり、そのことがきっかけでスーパーの店員に対する態度を改めていきます。

一番変わったのは、謙虚になり「人を尊重する」ようになったことです。

人の意見に耳を傾けるようになった
人に受け入れてもらいやすい伝え方を考えるようになった
自分さえ良ければという考えを捨てた

いわば「利他の精神」ですね。

利己から利他への大転換です!

力による支配ではなく相手に尽くすことで人を動かすことを、苦い経験の数々から野村は学びます。


利他とサーバント・リーダーシップ

利他という新たな観点を備えた野村は、持ち前のやる気と実行力を、スーパーのため、店員たちのために発揮し始めます。

黙々と裏方仕事にも精を出し、その地道な行動が徐々に職場の雰囲気を変え、店員たちの意識を変えていきます。

上で述べた、サーバント・リーダーシップですが、部下にただ盲目的に「尽くす」「仕える」のではなく、目的にフォーカスして利他的になることが重要です。

つまり、いかに全体のビジョンのために個を捨て利他的になれるか、それがチームメンバーの主体性に作用していく……リーダーとしてチームを率いる鍵になるのではないでしょうか。

サーバント・リーダーシップの10の特性を挙げます。

1. 傾聴 Listening
2.共感 Empathy
3.癒し Healing
4.気づき Awareness
5.納得(説得)Persuasion
6.概念化 Concept
7.先見力 Foresight
8.執事役 Stuwardship
9.成長への関与 Commitment to Growth
10.コミュニティー作り Building community

初めから上の10個全てが野村に当てはまったわけではありませんが、そのいくつかについては、変化した野村の姿に見られました。


①傾聴

メンバーの意見をしっかりと聞き、自分の意見を押し通すのではなく、リーダーとして何ができるかを考える姿勢と行動です。野村は店員たちの言い分をしっかりと聞くようになりました。

④気づき

社内のさまざまな環境に「気づく」ことも大切なスキルです。偏見にとらわれずに物事をフラットな状態で見ることで、社員も新しい気づきをリーダーから得ることができるのです。

⑤納得

リーダーとチームメンバーがお互いに納得を得ながら物事を進めていきます。自分の意見を無理やり押し通すのではなく、相手の意見を踏まえて最適解を導いていく。納得できた後の、店員たちの頑張りは別人のようでした。

⑥概念化

チームとしてのビジョン、達成目標を明確にもち、問題点も含めそれらをメンバーにわかりやすく伝え、共有することも、リーダーの大切な役目です。
このあたりは元々野村は得意なジャンルのようでした。

⑦先見力

先を見通すことは、リーダーに求められるスキルの中でも特に求められるものです。予測力とも言えますね。先見力によって、トラブルを回避、未然に防ぐことができます。組織やメンバーを守る為には必要な力です。野村の先見力でスーパーは救われます。

⑧執事役

英国のコスチュームドラマに登場する「執事」のように、常に一歩引いて主人のために完璧な仕事を遂行するスキルです。執事役に徹することのできるリーダーは、メンバーが気持ちよく働いてもらうための自己犠牲の精神をもっています。ドラマ後半では、誰もしない(でも大事な)仕事を黙々と淡々とこなす野村の姿がありました。

新しいリーダーシップの形

野村は「自分ひとりが主人公」という考えから「チームメンバーみんなが主人公」という考えにシフトしました。

リーダーによるスタンドプレーから、チームでのグッジョブへ。

権限や力による支配から、信頼による支援へ。

サーバント・リーダーシップは「個人が導く」から「集団を活かす」リーダー像です。

リーダーだけ優秀でも一人の力だけでは組織の諸問題や課題に対処しきれなくなってきた現代。

チームひいては組織の業績向上には、チーム内、組織内の関係性が影響することも、この新しいリーダーシップが台頭したことに関係するかもしれませんね。

「心理的安全性が組織の生産性を高めるために必要な要素」と研究結果を発表したのはGoogle社でしたが、こうしたことも、サーバント・リーダーシップの認知を広めた一因かもしれません。

県庁からスーパーへの出向がなければ、野村は変わらなかったと思います。これまで通り、強制型リーダーシップで強引に仕事を進めていったことでしょう。

さて、野村と店員たちはスーパーをどう変えていくのでしょうか?

野村の今後の県庁でのキャリアは如何に?(ネタバレ回避)

スーパーでの経験や挫折が、野村に自分を見つめ直す機会を与えました。
これまで県庁でしてきた仕事、自分がしてきたことを振り返り、大きな過ちに気がついた時。その時が野村のキャリアの分岐点になりました。

今回はこの辺で。

最後まで読んでくださってありがとうございました^^

この記事が参加している募集

#多様性を考える

27,931件