Xueli

ドラマ秘密の森を中心に二次創作しています。 https://www.pixiv.net…

Xueli

ドラマ秘密の森を中心に二次創作しています。 https://www.pixiv.net/users/61498894/novels

記事一覧

つなぐ

弟を愛し始めた瞬間から、テサンが破滅することはすでに決まっていた。  いつからかわからないほど幼い頃から、弟への愛は当たり前のようにテサンの中にあった。 家族へ…

Xueli
3年前

星の子

はじめは、兄のことを考えるだけで、自分がバラバラになって崩れるような気分だった。 砕けたかけらをひとつひとつ拾い集めるのには時間がかかった。 そのうち年月がたつと…

Xueli
3年前
1

2人の雪の夜

「研修行くんですね!検事さんも」 はい、という電話越しの返事に、思わずヨジンは微笑んだ。 協議会の仕事の一環で、地方の警察や検察を視察するのだ。 都会から離れたと…

Xueli
3年前
2

Almost Human #2 君の味

男の子を拾った。 彼を最初に見たのは、婚約者と食事をした高級ホテルのレストランだった。歳のいったスーツ姿の男性と、学生ふうの青年という2人組の客だった。 2人は親…

Xueli
3年前
9

sniff 続きの話

出勤したシモクはマスクをしていた。 ウイルス性の風邪の後遺症で鼻がおかしくなってしまった。人から違和感のある匂いがするのだ。 正直マスクをしてもあまり効果はない。…

Xueli
3年前
9

sniff

「今年の冬は、新型のインフルエンザと見られる疾患が大流行しています。 高熱の後にだるさ、頭痛、味覚や嗅覚の異常が見られるのが特徴です。予防の方法は…」 ニュースが…

Xueli
3年前
14

Almost Human #1 Toxic

今日は君がつけて  同意すると、先生の手が伸びてきて裸の背中に触れた。 腕を後ろに回され、革でできた手枷を丁寧にはめられる。先生が固定ベルトを強く引き締めると、…

Xueli
3年前
8

時雨る日

【会社社長誘拐事件・容疑者逮捕】 【社長は遺体で発見】 その名前を見たのは、新聞の一面記事の中だった。もう数ヶ月も前だ。 【担当の原州地検ファンシモク検事は、捜査…

Xueli
3年前
10

Scarlet Red

標的は女だ。 音もなく尾行する。 距離を詰め、真後ろに忍びより、上着の襟元を掴んで強く引っ張る。 女が倒れる。 馬乗りになって頭を殴りつける。一発、二発。 三度目に…

Xueli
3年前
12

執事 ファン・シモクのクリスマス

「てっぺんまで全部写してよ?  あのきれいな天窓も入れてね!」 高級ホテルのロビー。 吹き抜けになった広い空間には巨大なクリスマスツリーと、その横でポーズをとる女性…

Xueli
3年前
5

#5 Thanatos

ほかの男ともこんなふうにしたんですか よかったですか   落ち着いた声でSが聞いてきたのは、ベッドの上だった。 私達は向かい合って絡み合い、上りつめようとする直前だ…

Xueli
3年前
7

#4 月の裏側

夢を見た。   優しく微笑む彼女に、笑顔で応える自分。 なにか良いことがあったような、嬉しそうな彼女に体を寄せる。 いつのまにか自分の手にナイフを持っている。 力を…

Xueli
3年前
3

#3 記憶の香り

家を出てから2ヶ月ほどが経ったころ、Sのかつての上司から連絡があり、会うことになった。結婚の仲介をしてくれた人だ。 こちらへ来る用事のついでに と言葉を濁していた…

Xueli
3年前
2

#2 Sと彼女

今日の担当裁判が終わり自分のデスクに戻ったSは、法服のポケットに入った紙切れの存在を思い出した。取り出して広げると、書き込まれた離婚届である。ゆっくりと記名を眺…

Xueli
3年前
2

#1 Sと私

「離婚はしません」 まるで、夕飯は用意しなくていいと言っているかのように、いつもの無表情で告げると Sは仕事へ出かけた。 私の勇気を振り絞ったあげくの答えが、こう…

Xueli
3年前
3
つなぐ

つなぐ

弟を愛し始めた瞬間から、テサンが破滅することはすでに決まっていた。 

いつからかわからないほど幼い頃から、弟への愛は当たり前のようにテサンの中にあった。
家族へのそれとは違う、狂おしい熱を持つ愛だった。
それはやがて長い時間をかけてゆっくりと、身の内を焦がす炎となった。
じわじわと自らを焼きつくしていった。

テサンとテスルは小さい頃から仲が良かったが、両親を失ってからさらに強く結びついた。

もっとみる
星の子

星の子

はじめは、兄のことを考えるだけで、自分がバラバラになって崩れるような気分だった。
砕けたかけらをひとつひとつ拾い集めるのには時間がかかった。
そのうち年月がたつと、崩れるまではいかなくなったが、いちいち切られるような痛みがあった。
まるで、自分を繋ぎ止めている楔に少しずつ亀裂がはいるように。遅かれ早かれ崩壊するのに違いはない。

兄の部屋をひっくり返して、テスルは探し物をしていた。
兄の持ち物は少

もっとみる
2人の雪の夜

2人の雪の夜

「研修行くんですね!検事さんも」
はい、という電話越しの返事に、思わずヨジンは微笑んだ。

協議会の仕事の一環で、地方の警察や検察を視察するのだ。
都会から離れたところで知り合いと仕事する、それだけのことが、特別なイベントに思えた。そんなことが楽しみになるほど、ヨジンの毎日は忙しかった。

好きな仕事だが、業務量が多いうえに休みが少なく、安らぐ暇がなかった。気の合う同僚もおらず、ずっと気を張ってい

もっとみる
Almost Human    #2     君の味

Almost Human #2 君の味

男の子を拾った。

彼を最初に見たのは、婚約者と食事をした高級ホテルのレストランだった。歳のいったスーツ姿の男性と、学生ふうの青年という2人組の客だった。

2人は親子のように見えたが、食事中に男性の方が声を荒げた。私は、迷惑だと思って彼らを見たのを覚えている。
青年は意に介さず食事を続けていた。歳のわりに落ち着き払った態度が気に障るのか、相手の男性は苛立っていた。
青年は猫背気味で華奢な体型なが

もっとみる
sniff    続きの話

sniff 続きの話

出勤したシモクはマスクをしていた。
ウイルス性の風邪の後遺症で鼻がおかしくなってしまった。人から違和感のある匂いがするのだ。
正直マスクをしてもあまり効果はない。匂いは本当には存在しておらず、鼻や脳にウイルスが作用して錯覚させているのかもしれなかった。

匂いの中でも、特にハンヨジン警部補のそれにはお手上げだった。非常に良い香りで中毒性があった。
家にマフラーを取りに来た時、室内にいても彼女が近づ

もっとみる
sniff

sniff

「今年の冬は、新型のインフルエンザと見られる疾患が大流行しています。
高熱の後にだるさ、頭痛、味覚や嗅覚の異常が見られるのが特徴です。予防の方法は…」
ニュースが流れるのを、はっきりしない頭でヨジンは聞いていた。高熱がようやく治まったのに、まだ治らないのか。すっかり流行に乗ってしまった。
体のだるさと、味覚と嗅覚の異常を感じた。食欲が戻っても、食事が全然おいしくない。医者によると、しばらくすれば元

もっとみる
Almost Human      #1  Toxic

Almost Human #1 Toxic

今日は君がつけて 

同意すると、先生の手が伸びてきて裸の背中に触れた。
腕を後ろに回され、革でできた手枷を丁寧にはめられる。先生が固定ベルトを強く引き締めると、なめした革の甘い匂いが漂った。
自由を奪われてベッドに横たわる。

「痛くしないでください」
相手を喜ばせるために言う。先生はその意図を知っている。「悪い子ね」
浮き出た肩甲骨にそって、指が這う。
そして始まる。痛みが訪れる。

Sは19

もっとみる
時雨る日

時雨る日

【会社社長誘拐事件・容疑者逮捕】
【社長は遺体で発見】
その名前を見たのは、新聞の一面記事の中だった。もう数ヶ月も前だ。
【担当の原州地検ファンシモク検事は、捜査の遅れを認め、遺憾の意を表明…】

きのう本人から連絡があり、それを思い出した。
(用があってそちらに行きます。時間があればお会いしたいです)

珍しいこともある。
とっさに、何かヘマをしたのかと焦った自分が可笑しかった。
後輩に起訴され

もっとみる
Scarlet Red

Scarlet Red

標的は女だ。
音もなく尾行する。
距離を詰め、真後ろに忍びより、上着の襟元を掴んで強く引っ張る。
女が倒れる。
馬乗りになって頭を殴りつける。一発、二発。
三度目に振り下ろした右手を女に掴まれると、ひねって体を返される。腕を後ろに回されて押さえられた。女が怒鳴る。
「やめなさい!!」

ナイフを取り出して振り回す。 

ーー左手で?

ナイフが女の肩に当たる。手ごたえを感じる。
相手がひるんだ隙に

もっとみる

執事 ファン・シモクのクリスマス

「てっぺんまで全部写してよ? 
あのきれいな天窓も入れてね!」

高級ホテルのロビー。
吹き抜けになった広い空間には巨大なクリスマスツリーと、その横でポーズをとる女性がいる。
大声で指示する彼女を、スーツ姿の男性が携帯電話のカメラで撮ろうとしている。
両膝を床につき、這いつくばらんばかりになってベストショットをフレームに収めようとする姿に、通行人たちは気の毒そうな一瞥をくれる。

撮り終わった男性

もっとみる

#5 Thanatos

ほかの男ともこんなふうにしたんですか
よかったですか
 
落ち着いた声でSが聞いてきたのは、ベッドの上だった。
私達は向かい合って絡み合い、上りつめようとする直前だった。身体を揺らしながらささやいてくる。

「遊びじゃなく本気で愛してた?
今も?」

私は片手でSの口を塞いだ
Sは私の指を口に含んで甘噛みし、まっすぐこちらを見てくる。
眉根ひとつ動かさずじっと観察しようとする、その視線から逃れよう

もっとみる

#4 月の裏側

夢を見た。
 

優しく微笑む彼女に、笑顔で応える自分。
なにか良いことがあったような、嬉しそうな彼女に体を寄せる。
いつのまにか自分の手にナイフを持っている。
力を込めて彼女の心臓を背中から刺し、抱きしめた。
気がつけば同じ刺し傷が自分の胸にもあり、血が流れている。
彼女を離さないようにしたいのに、腕に力が入らない。
体が冷たくなっていくのを感じながら、同時に安らぎを覚える。

目が覚めるとSは

もっとみる
#3 記憶の香り

#3 記憶の香り

家を出てから2ヶ月ほどが経ったころ、Sのかつての上司から連絡があり、会うことになった。結婚の仲介をしてくれた人だ。

こちらへ来る用事のついでに と言葉を濁していたが、私たちが別居したことを聞き、気にしているのだとわかった。

「夫婦のことは、他人がどうこういうものではないんだけど… あいつのことだから。いろいろ奥さんも我慢してるのはわかってる」「ここは私の顔を立てて、もう一度チャンスをやってくれ

もっとみる
#2  Sと彼女

#2 Sと彼女

今日の担当裁判が終わり自分のデスクに戻ったSは、法服のポケットに入った紙切れの存在を思い出した。取り出して広げると、書き込まれた離婚届である。ゆっくりと記名を眺めてから丁寧にしわをのばすと、部屋の隅に歩いていき、シュレッダーにそれを飲み込ませた。

それは朝いちばんに係長が差し出した書類の束に混ざっていた。係長は何か言いたげだったが、Sは私的な書類が紛れ込んでいますね、とだけ言った。これが職場に届

もっとみる
#1   Sと私

#1 Sと私

「離婚はしません」

まるで、夕飯は用意しなくていいと言っているかのように、いつもの無表情で告げると Sは仕事へ出かけた。

私の勇気を振り絞ったあげくの答えが、こうもあっけないものとは、ほとんど予想通りだ。私にはわかっていた。

Sとはお互いの職場の上司の紹介で知り合った。お見合いのようなものだった。

ハンサムだが面白みのなさそうな人だ、と思った。

だが私には彼を拒否する理由はなかった。結

もっとみる