Xueli

ドラマ秘密の森を中心に二次創作しています。 https://www.pixiv.net…

Xueli

ドラマ秘密の森を中心に二次創作しています。 https://www.pixiv.net/users/61498894/novels

最近の記事

つなぐ

弟を愛し始めた瞬間から、テサンが破滅することはすでに決まっていた。  いつからかわからないほど幼い頃から、弟への愛は当たり前のようにテサンの中にあった。 家族へのそれとは違う、狂おしい熱を持つ愛だった。 それはやがて長い時間をかけてゆっくりと、身の内を焦がす炎となった。 じわじわと自らを焼きつくしていった。 テサンとテスルは小さい頃から仲が良かったが、両親を失ってからさらに強く結びついた。 たった2人だけで生きていくしかなかった兄弟は、父の愛、母の愛までもお互いに求めあっ

    • 星の子

      はじめは、兄のことを考えるだけで、自分がバラバラになって崩れるような気分だった。 砕けたかけらをひとつひとつ拾い集めるのには時間がかかった。 そのうち年月がたつと、崩れるまではいかなくなったが、いちいち切られるような痛みがあった。 まるで、自分を繋ぎ止めている楔に少しずつ亀裂がはいるように。遅かれ早かれ崩壊するのに違いはない。 兄の部屋をひっくり返して、テスルは探し物をしていた。 兄の持ち物は少ない。着古した服、自動車整備に使う道具、撮影に使う道具、写真の雑誌、本。写真に関

      • 2人の雪の夜

        「研修行くんですね!検事さんも」 はい、という電話越しの返事に、思わずヨジンは微笑んだ。 協議会の仕事の一環で、地方の警察や検察を視察するのだ。 都会から離れたところで知り合いと仕事する、それだけのことが、特別なイベントに思えた。そんなことが楽しみになるほど、ヨジンの毎日は忙しかった。 好きな仕事だが、業務量が多いうえに休みが少なく、安らぐ暇がなかった。気の合う同僚もおらず、ずっと気を張っているために消耗した。息抜きといえば、たまに以前の職場の刑事たちと飲みに行くのが関の

        • Almost Human #2 君の味

          男の子を拾った。 彼を最初に見たのは、婚約者と食事をした高級ホテルのレストランだった。歳のいったスーツ姿の男性と、学生ふうの青年という2人組の客だった。 2人は親子のように見えたが、食事中に男性の方が声を荒げた。私は、迷惑だと思って彼らを見たのを覚えている。 青年は意に介さず食事を続けていた。歳のわりに落ち着き払った態度が気に障るのか、相手の男性は苛立っていた。 青年は猫背気味で華奢な体型ながら、手足は大きく、あどけない顔つきとアンバランスだった。変に大人びた子どものよう

        つなぐ

          sniff 続きの話

          出勤したシモクはマスクをしていた。 ウイルス性の風邪の後遺症で鼻がおかしくなってしまった。人から違和感のある匂いがするのだ。 正直マスクをしてもあまり効果はない。匂いは本当には存在しておらず、鼻や脳にウイルスが作用して錯覚させているのかもしれなかった。 匂いの中でも、特にハンヨジン警部補のそれにはお手上げだった。非常に良い香りで中毒性があった。 家にマフラーを取りに来た時、室内にいても彼女が近づいてくるのがわかった。香りが徐々に濃くなっていくにつれ、だんだん頭の中に霧がかか

          sniff 続きの話

          sniff

          「今年の冬は、新型のインフルエンザと見られる疾患が大流行しています。 高熱の後にだるさ、頭痛、味覚や嗅覚の異常が見られるのが特徴です。予防の方法は…」 ニュースが流れるのを、はっきりしない頭でヨジンは聞いていた。高熱がようやく治まったのに、まだ治らないのか。すっかり流行に乗ってしまった。 体のだるさと、味覚と嗅覚の異常を感じた。食欲が戻っても、食事が全然おいしくない。医者によると、しばらくすれば元に戻るという。このままずっとこうだったらどうしよう。不安な気持ちを抑えて久しぶり

          Almost Human #1 Toxic

          今日は君がつけて  同意すると、先生の手が伸びてきて裸の背中に触れた。 腕を後ろに回され、革でできた手枷を丁寧にはめられる。先生が固定ベルトを強く引き締めると、なめした革の甘い匂いが漂った。 自由を奪われてベッドに横たわる。 「痛くしないでください」 相手を喜ばせるために言う。先生はその意図を知っている。「悪い子ね」 浮き出た肩甲骨にそって、指が這う。 そして始まる。痛みが訪れる。 Sは19歳で、いつも空腹だった。 大学に入って一人暮らしを始めたが、奨学金をもらっている

          Almost Human #1 Toxic

          時雨る日

          【会社社長誘拐事件・容疑者逮捕】 【社長は遺体で発見】 その名前を見たのは、新聞の一面記事の中だった。もう数ヶ月も前だ。 【担当の原州地検ファンシモク検事は、捜査の遅れを認め、遺憾の意を表明…】 きのう本人から連絡があり、それを思い出した。 (用があってそちらに行きます。時間があればお会いしたいです) 珍しいこともある。 とっさに、何かヘマをしたのかと焦った自分が可笑しかった。 後輩に起訴されそうになっていた頃を思い返すと、遠い昔のようだった。 拒む理由はない。酒でも飲も

          時雨る日

          Scarlet Red

          標的は女だ。 音もなく尾行する。 距離を詰め、真後ろに忍びより、上着の襟元を掴んで強く引っ張る。 女が倒れる。 馬乗りになって頭を殴りつける。一発、二発。 三度目に振り下ろした右手を女に掴まれると、ひねって体を返される。腕を後ろに回されて押さえられた。女が怒鳴る。 「やめなさい!!」 ナイフを取り出して振り回す。  ーー左手で? ナイフが女の肩に当たる。手ごたえを感じる。 相手がひるんだ隙に腕を振り払う。女と目が合う。 とっさのことに大きな目を見張り、言葉を失っているハ

          Scarlet Red

          執事 ファン・シモクのクリスマス

          「てっぺんまで全部写してよ?  あのきれいな天窓も入れてね!」 高級ホテルのロビー。 吹き抜けになった広い空間には巨大なクリスマスツリーと、その横でポーズをとる女性がいる。 大声で指示する彼女を、スーツ姿の男性が携帯電話のカメラで撮ろうとしている。 両膝を床につき、這いつくばらんばかりになってベストショットをフレームに収めようとする姿に、通行人たちは気の毒そうな一瞥をくれる。 撮り終わった男性は女性の方に近づくと、しゃがんで携帯を上にをかざしながら言った。 「お嬢様と天窓

          執事 ファン・シモクのクリスマス

          #5 Thanatos

          ほかの男ともこんなふうにしたんですか よかったですか   落ち着いた声でSが聞いてきたのは、ベッドの上だった。 私達は向かい合って絡み合い、上りつめようとする直前だった。身体を揺らしながらささやいてくる。 「遊びじゃなく本気で愛してた? 今も?」 私は片手でSの口を塞いだ Sは私の指を口に含んで甘噛みし、まっすぐこちらを見てくる。 眉根ひとつ動かさずじっと観察しようとする、その視線から逃れようと、私は背中へ腕を回した。舌を彼の耳に這わせ、はっきりささやいた。 「そう、本

          #5 Thanatos

          #4 月の裏側

          夢を見た。   優しく微笑む彼女に、笑顔で応える自分。 なにか良いことがあったような、嬉しそうな彼女に体を寄せる。 いつのまにか自分の手にナイフを持っている。 力を込めて彼女の心臓を背中から刺し、抱きしめた。 気がつけば同じ刺し傷が自分の胸にもあり、血が流れている。 彼女を離さないようにしたいのに、腕に力が入らない。 体が冷たくなっていくのを感じながら、同時に安らぎを覚える。 目が覚めるとSは、胸を押さえて出血していないか確かめた。ナイフで刺した感触が手に残っていた。

          #4 月の裏側

          #3 記憶の香り

          家を出てから2ヶ月ほどが経ったころ、Sのかつての上司から連絡があり、会うことになった。結婚の仲介をしてくれた人だ。 こちらへ来る用事のついでに と言葉を濁していたが、私たちが別居したことを聞き、気にしているのだとわかった。 「夫婦のことは、他人がどうこういうものではないんだけど… あいつのことだから。いろいろ奥さんも我慢してるのはわかってる」「ここは私の顔を立てて、もう一度チャンスをやってくれないか」 地検の近くの喫茶店で、上司がこんなふうに私に頭を下げていることを、S

          #3 記憶の香り

          #2 Sと彼女

          今日の担当裁判が終わり自分のデスクに戻ったSは、法服のポケットに入った紙切れの存在を思い出した。取り出して広げると、書き込まれた離婚届である。ゆっくりと記名を眺めてから丁寧にしわをのばすと、部屋の隅に歩いていき、シュレッダーにそれを飲み込ませた。 それは朝いちばんに係長が差し出した書類の束に混ざっていた。係長は何か言いたげだったが、Sは私的な書類が紛れ込んでいますね、とだけ言った。これが職場に届くのは3回目だ。 書類の送り主は妻である。 一番最後に見た横顔も、諍いが始ま

          #2 Sと彼女

          #1 Sと私

          「離婚はしません」 まるで、夕飯は用意しなくていいと言っているかのように、いつもの無表情で告げると Sは仕事へ出かけた。 私の勇気を振り絞ったあげくの答えが、こうもあっけないものとは、ほとんど予想通りだ。私にはわかっていた。 Sとはお互いの職場の上司の紹介で知り合った。お見合いのようなものだった。 ハンサムだが面白みのなさそうな人だ、と思った。 だが私には彼を拒否する理由はなかった。結婚するつもりだった相手にひどい失恋をしたばかりだった。面白みはなくても、真面目で

          #1 Sと私