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XRISMが挑む宇宙の謎

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明るいX線連星が照らす地球型惑星の種

明るいX線連星が照らす地球型惑星の種

宇宙のレシピと地球のレシピ 酸素や鉄、ケイ素といった、私たちの生命と文明を支える重元素は、この宇宙に初めから存在したわけではなく、星の進化や超新星爆発に伴う核融合反応を通して徐々にその数を増やしてきました。その詳細については、これまでの記事(参考記事1)でもお伝えした通りです。多種多様な元素で満ちあふれる現在の宇宙の作られ方、すなわち「宇宙のレシピ」を詳しく解き明かすことは、XRISMが掲げる科学

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静かで激しい宇宙の実験室 ー白色矮星ー

静かで激しい宇宙の実験室 ー白色矮星ー

人類未踏の極限状態の物理を愉しむ実験室人類の知的好奇心を満たすべく、宇宙の謎を解くためには、見えないものを見る技術が必要です。XRISM衛星の特徴は、なんと言っても高い分光能力(色を見分ける力)。X線も、救急車のサイレンのようにドップラー効果を受けて、運動で色が変わります。その差を1/1000まで見分けるXRISMの能力は、音波に換算するなら、ゆっくり歩くときの音程のズレを聞き分けるような驚異的な

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宇宙のレシピを手に入れよう −銀河から銀河団まで

宇宙のレシピを手に入れよう −銀河から銀河団まで

我々の身の回りの元素は主に星の爆発によって合成されます (note#02-01)。これまでに宇宙で合成されてきた元素の何割かは、新たに作られる星に取り込まれていきます。

では、残りの元素はどこにいったのでしょうか? 

実は、生まれた場所から遙か遠くまで飛び出してしまうのです。

恒星は、銀河というガスと塵、恒星の集団の中で生まれ、死にます。恒星が死を迎える過程で、合成した元素を周りの空間にまき

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XRISMで探る超大質量ブラックホールと銀河の共進化

XRISMで探る超大質量ブラックホールと銀河の共進化

イントロダクション
銀河とは、1000億個以上もの恒星からなる、宇宙の基本要素です。近傍宇宙において、ほぼ全ての銀河の中心に太陽の10万~100億倍もの質量をもつ超大質量ブラックホール(SuperMassive Black Hole, SMBH)が存在し、その質量が銀河バルジ(銀河中心部の膨らんだ構造)にある星の総質量とよい相関を持つことがわかっています(下記の図1)。

この観測事実は、銀河とブ

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宇宙のレシピの源を解き明かす - 超新星残骸

宇宙のレシピの源を解き明かす - 超新星残骸

 私たちの身の回りの物質は様々な元素の組み合わせで出来ています。例えば、いまあなたが目にしている(?)ディスプレイの素材はガラスです。ガラスの主成分は酸素とシリコン。酸素やシリコンは地球上でも宇宙でも比較的ありふれた元素ですが、それらは一体どこからやってきたのでしょうか?

この疑問に答えてくれるのがX線天文学です。

 宇宙をX線で探索すると、天の川のあちこちで何かが爆発したような痕跡が見つかり

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時空の果て ブラックホール

時空の果て ブラックホール

極端に大きな重力のために光さえも脱出できない天体、それがブラックホールです。ブラックホールは、もともとはアインシュタインの一般相対性理論から導かれた理論上の産物でした。しかし、近年の観測により、この宇宙に本当に存在することが確実になりました。

 2017年には地球規模の巨大な電波干渉計「イベントホライズンテレスコープ」が超巨大ブラックホールの影の直接撮像に成功しました[1]。大きなニュースになり

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宇宙最大の天体 銀河団のダイナミズム

宇宙最大の天体 銀河団のダイナミズム

銀河団は宇宙で最大の天体です。

大きさは約1千万光年、重さは太陽質量の10¹⁴倍から10¹⁵倍にもなり、我々が住む銀河系(天の川銀河)のような銀河が数十から数千含まれます。

すばる望遠鏡のような可視光の望遠鏡(光学望遠鏡)で銀河団を観測すると、銀河団は銀河の集団として見えます。一方、X線天文衛星で観測すると、銀河団は全体がぼんやりとした光のかたまりとして見えます。

この光の正体は温度が1億度

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はじめに - XRISMでは、宇宙の何を調べるの?

はじめに - XRISMでは、宇宙の何を調べるの?

宇宙は一見、冷たくて暗い空っぽの静かな世界に見えます。しかし宇宙からの微かな X線を観測することにより、宇宙は数千万度のプラズマやブラックホールからのジェット、光速の 99%以上の速さで運動する超高エネルギー粒子などに満ち満ちた熱く激しい世界だということが分かってきています。

XRISM 衛星は X 線の「色」をより鮮明に測定できるカメラ Resolve と、満月 1 個分の空の範囲を一度に観測

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