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英語的感覚を可視化する。『英語独習法』今井むつみ

最近、ラジオ代わりに聞いている言語学系のyoutubeに出演されていた今井先生。めちゃくちゃおもしろい方だったので、本を読んでみました。期待どおりに著書もおもしろかったです。

今井先生を知らないと、タイトルの「独習」の文字を見て、「ゼロから一人で英語を勉強できる本」と勘違いしてしまいそうです。でも、この本をざっくり読んだ印象は、そこそこ英語のできる人が確実なレベルアップを目指す本です。しかも、ライティング重視。この本を読んで、自分に足りない部分に気づいて、英語レベルを自分なりに(アレンジして)ブラッシュアップするための独習法です。

今井先生の専門は「認知」のしくみ。どの言語も暗黙のルールがありますが、それを習得した人たちにとって、生まれたときから当然なことは、暗黙の知識=スキーマ。当然なので、誰もわざわざ意識しないし、説明も言語化もされません。もしくは、同じ母語話者同士でも、意識する内容が違うと、コミュニケーションが成立しません。今井先生は、そんな英語と日本語のスキーマの違いを、読者におもしろく説明してくれます。

例えば、英語と日本語の違いでよくあげられる、可算名詞と不可算名詞の違い。英語では、椅子やテーブルは1つ1つ数えられる可算名詞です。でも、家具(の総体)はfurnitureでバラバラにできない不可算名詞。こういう言葉の成り立ちを知っておくと、迷わずにすむ場面が多そうです。

英語のideaは、日本語でも「アイデアが1つある」と言うように、数えられる可算名詞。ところが、evidenceという言葉は、日本語で「証拠」と訳されるけれど不可算名詞です。なぜなら、事実が集積され、論理的に齟齬なく1つの結論に導かれたものがevidence。証拠1つひとつのことではないので、切り離せないのだとか。これは詳しく説明されないと、絶対にわからない違いです。

名詞以上におもしろいのは、日本語と英語では、動詞の表す範囲の理解が違うこと。英語の動詞には多くの場合動作の方向も含まれているけれど、日本語の動詞は動作だけとか。これは連続して使われる前置詞ともかかわる、結構大きな違いです。私たちは日本語的言語世界で生きているので、英語用に作り変えるのは結構大変そう。

こんな風に説明してもらえると、なるほど納得しかありません。もちろん、「知っている」と「使える」は別。本を読んで、英語と日本語の違いを知っただけでは使えるようになりません。文法やスキーマは大事ですが、それを踏まえつつ、使う練習をする必要があります。

というわけで、本書は途中からネット上にある無料の英英辞書とか英語のコーパスを使って、実際の英語の単語の認知範囲を確認していきます。クリック1つで、似ている動詞を探したり、単語や例文を比較したりできるなんて、今の世の中は便利でうれしい。暇なときに遊ぶだけでも楽しそう。

実践練習については、多聴ではリスニングの力は伸びないから、まず語彙を増やしたほうがいいというアドバイスは本当にその通り。知らない単語は、脳みそが雑音としか受け取ってくれません。でも、自分の興味関心ある分野の話なら、それなりに内容がわかるのは、まさに語彙の問題。今井先生のおすすめは熟読・塾見で、何度も同じ文章を読んで理解を深くすると、別の場面でも類推や応用が効くとのこと。

リスニング練習で映画を利用するときは、一般的な英語本では英語字幕がいいと言われることが多い気がしますが、今井先生は、まずは日本語字幕ありのものので内容を理解しておくのが早道だといいます。確かに、これなら翻訳された文章と映画の中の英語の違いに気をつけて見ることができます。英語と日本語がかけ離れている場合には、なおさら印象に残ります。

そして、多読よりも精読。1つの映画や気に入った文章を精読したほうが定着しやすく、効率もいいとのこと。よほどのことがない限り、学生も社会人も時間と労力には限りがあります。効率よく英語学習に使うための実践編も50ページくらいあげられているので、自分にあわせてチャレンジしてみるのも吉。そして、英語の学習法は他の言語にも応用でます。今井先生の他の本も読んでみたくなります。

予備知識ゼロから、何か知らない外国語を勉強してみたい場合は、こちらのかわいい本がおすすめです。


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